ストレージメーカーのEMCジャパン(山野修社長)が、「ソフト」を切り口とするビジネス展開に舵を切る。ストレージ管理ソフトウェアなど、米国本社が買収によって手に入れた新しい製品を日本で販売するために、パートナー支援の一新に取り組んでいる。技術トレーニングなどを用意するパートナープログラム「Velocity」を今年1月に廃止して、名称を「ビジネスパートナープログラム」に変更した。現在、内容の見直しを進めており、5月に発表する予定だ。新しいプログラムは2015年1月に開始する。外資ライバルのネットアップ(岩上純一社長)もパートナー支援の強化に動く。ストレージの仮想化が進んでいるなかにあって、販社は構築スキルの向上が急務になっている。(ゼンフ ミシャ)
求められる統合提案

EMCジャパン
中山泰宏
執行役員 EMCジャパンは、今年1月、2006年に開始したパートナープログラム「Velocity」を置き換えるものとして、「ビジネスパートナープログラム」を開始した。現時点で変わったのは名称だけで、最上位となる「シグニチャ・パートナー」など販社のレイヤー構成やインセンティブの金額といった支援内容は、当分の間、旧Velocityのままで展開。米国本社が5月に開催する年次イベント「EMC World 2014」で新しいプログラムの詳細を明らかにして、来年の1月以降に適用する。
EMCジャパンでパートナー営業本部 営業本部長を務め、日本で新プログラムの立ち上げを仕切る中山泰宏執行役員は「具体的な内容は未定。現時点でお話しできない」として、詳細については口をつぐむ。
プログラム一新の狙いについては「ストレージ機器以外の物が増え、多様化しているEMC製品を全体的に構築してもらえるよう販社の技術スキルを高めたい」(中山執行役員)と語る。ストレージ管理やアクセス管理などのソフトウェアベンダーを相次いで買収している本社の動きを受け、国内でも販社がこうした製品を統合的に提案することができるよう、技術トレーニングの充実や検証環境の提供の強化を新しいプログラムの中核に据える模様だ。現時点で25社ほどの旧Velocityパートナーの数は、「変えるつもりはない」という。
ストレージの仮想化が進んでいる情勢にあって、EMCジャパンが事業方針に掲げているのは、ソフトウェアによって仮想環境をつくる「ソフトウェア・デファインド・データセンター」での使用に適した「ソフトウェア・デファインド・ストレージ」の製品展開である。ソフトウェア・デファインド・ストレージとは、ソフトウェアプラットフォームを活用して、メーカーや機種が異なるストレージを統合的に運用・管理する仕組みを指す。
機器は他社製でもいい
EMCジャパンは、ソフトウェア・デファインド・ストレージを、データセンター(DC)で複数のメーカーのストレージを運用・管理する手間を減らすためのツールとして訴求する。ハードは他社製品でも、ソフトウェアプラットフォームを売り込むことによって、売り上げの拡大につなげる。
調査会社IDC Japanによると、国内の外付型ディスクストレージ市場は、直近では活況を呈している。2013年の上半期には、売上額は904億円と、前年比13.9%増となった。しかし、中長期的にみれば市場拡大の勢いは減速する見込みだ。2012~17年の年平均成長率(売上額)は2.2%(IDC Japan調べ) と比較的低調だ。EMCジャパンをはじめとするストレージメーカーがハードからソフトに舵を切ろうとしているのは、数年先の市場環境を見据えて、成長分野はハードではなく、ソフトだと判断しているからである。そして、販社が早くメーカーの方針についてくることができるよう、パートナー支援の見直しに踏み切っているというわけだ。
IDC Japanは、ストレージの販社がメーカーによる支援にあたって「販売サポート」を最も重視する傾向が顕著になり、「販社はメーカーとの協業を強く求めるようになっている」と分析している。
EMCジャパンがうたうソフトウェア・デファインド・ストレージは、DCを運営し、パブリックやプライベートのクラウド環境を提供するサービスプロバイダが主なターゲットになる。ストレージのメーカーは、サービスプロバイダからの受注を促す仕組みとして、ソフトウェア・デファインド・ストレージを用いて構築したクラウドをユーザー企業に提案する際に、サービスプロバイダの営業活動を支援する施策を強力に推進しようとしている。
“お見合い”の場を設ける

ネットアップ
近藤正孝
執行役員 EMCジャパンは、専任部隊がEMC製品上で動くクラウドサービスの事業社に入り、共同で提案を行う活動に取り組んでいる。この仕組みが「活発に動いている」(山野修社長)とみて、今年中に強化する考えだ。
EMCジャパンと同様にソフトウェア・デファインド・ストレージに注力しているネットアップは、「クラウド事業会社と彼らの売り手を担うシステムインテグレータ(SIer)が議論し合うことができる場を今年から設けていく」(システム技術本部本部長の近藤正孝執行役員)。メーカーとして“お見合い”の場を提供することによって、サービスプロバイダのビジネスを支援し、ソフトウェア・デファインド・ストレージの受注に結びつけようとしているのだ。
表層深層
EMCジャパンは、ソフトウェア・デファインド・ストレージを商材として、クラウド事業社向けの大型案件を獲得するとともに、中堅・中小企業(SMB)の開拓を加速する。
「もしもし、EMCジャパンの○○と申します」。1月に開始したのは、5000社のSMBに自社のリソースで電話営業をかけ、引き合い情報を大塚商会やリコージャパンなど、SMBに強い販社に提供することだ。これに加え、ターゲットになる残り3万社には、外部の企業を活用してアタックする。
ストレージ(ハードウェア)は、伸びている市場とはいえ、成長を中長期的に維持するためにはソフトウェアを切り口とする新しい商材の展開や、SMBを中心とする新しい市場の開拓が欠かせない。販社は、危機感を覚えてパートナー支援を強化するメーカーとうまく連携して、変わりつつある市場環境にいち早く対応することが求められる。(ゼンフ ミシャ)