大阪に本社を置く老舗百貨店、高島屋(木本茂社長)は、富士通の収蔵品管理システムを採用して、創業の1831年から集めてきた美術品や社内文書などの史料をデジタル化し、パソコンで簡単に閲覧できる仕組みをつくった。高島屋の歴史を語り、昔の経営判断など貴重な情報が保存されている史料を資産にし、販売促進や経営方針に生かそうとしている。消費者の購買行動が多様化し、デパート運営を取り巻く環境が激変しているなかにあって、ITをテコに、歴史のある百貨店としての強みを発揮する。
【今回の事例内容】
<導入企業> 高島屋創業は1831年。「大阪タカシマヤ」や「日本橋タカシマヤ」など、国内で20店舗の百貨店を展開するほか、海外ではシンガポールなどに3店舗をもつ。本社は大阪市中央区難波
<決断した人> 高島屋史料館 課長
川上和男 氏現職に就く前に、販売員として売り場を仕切る経験を積み、細かいパソコン作業に慣れていない人でも使えるようにするなど、現場の状況をよく把握している
<課題>180年以上にわたってさまざまな史料を集めてきたにもかかわらず、史料館でしか閲覧できなかったので、ほとんど活用されていなかった
<対策>デジタルアーカイブの導入によって、史料をパソコンから閲覧できるようにし、活用しやすくした
<効果>昔の絵はがきのデザインを常連客向けレターに採用するなど、史料をビジネスに生かすようになった
<今回の事例から学ぶポイント>画面の見やすさを重視してシステムを使う際のハードルを下げ、気軽に活用するよう促すことが大切
史料の活用を促す画面にこだわる
高島屋は、大阪の繁華街「ミナミ」の玄関口である難波駅から数分の場所に「高島屋史料館」を構えている。ここで保存・展示されているのは、日本画や洋画、能装束などの美術品のほか、古いポスターや社内文書など、高島屋が180年にわたって蒐集した約2万点の史料だ。これらは貴重な経営資産だが、史料館に行かないと見ることができないというわずらわしさがあって、これまで高島屋の従業員にほとんど活用されなかった。
「もったいないことをしている」と経営陣は考えた。史料館の川上和男課長は、2011年、高島屋の180周年を機に「史料をデジタル化して売り場づくりや販促ツールの制作などに生かしたい」という要請を経営陣から受けた。百貨店は、インターネット販売が盛んになった影響などで、来店者が減りつつある事態に直面している。そうしたなか、高島屋は180年の歴史を語る史料を活用し、顧客を取り込もうという戦略を練ったわけだ。川上課長はIT企業5社に依頼し、デジタルアーカイブシステムを提案してもらった。
「従業員は史料の存在をほとんど知らないので、こちらから促さないと、なかなか活用してくれない。だから、アーカイブシステムに関しては、いかに従業員の興味を引くかを考慮して、デザイン面での工夫や検索のしやすさを重視した」(川上課長)と語る。川上課長は、現職に就任する前に、長年デパートの売り場で働き、パソコンの細かい作業に慣れていない現場スタッフが少なくないという実情を理解していた。現場視点から、画面が本当に見やすいかどうかを判断しながら、ベンダーの数を少しずつ絞った。

大阪タカシマヤ東別館内に高島屋史料館がある。収蔵品管理システムによって史料をデジタル化し、現地に足を運ばなくてもパソコンで閲覧できるようになった
富士通の熱心な営業を評価
「デジタルアーカイブは基本、美術館や博物館のためにつくられたシステムで、当社のように『ビジネスに活用したい』というケースは少ない」(川上課長)。あるベンダーから「高島屋の歴史についてのクイズ機能を盛り込んでみてはどうか」という提案も受けたが、川上課長は「こちらは遊びでシステムを使っているわけではない」として却下。最後に残ったのは、富士通ともう1社だった。川上課長が富士通に発注を決めたのは、「システムはもちろん、プレゼンテーションの進め方がていねいでわかりやすかったからだ」と振り返る。
「富士通の営業担当は、プレゼンテーションの前日に電話してきて『こういうふうにご提案しようと考えていますが、いかがでしょうか』と事前にプレゼン内容を知らせてくれた。だからこちらの要望をフランクに伝えて、提案に反映してもらいやすかった」(川上課長)と、富士通の熱心な営業を評価して、同社にシステム構築を依頼した。そして、美術品の写真を撮ったり、紙の資料をスキャンしたりして収蔵品をデジタル化し、昨年、システムの稼働を開始した。現在は、1万5000人以上に及ぶ従業員がパソコンで史料を閲覧できるようになり、ビジネスへの活用が始まっている。
今後はモバイル対応も目指す
例えば、古いポスターや絵はがきのデザインを常連客へ送る感謝状に採用し、レトロ感を醸し出す。百貨店ならではのおもてなしをアピールして、消費者の心をつかむことによって、売り上げの拡大につなげようとしている。こうして、少しずつ史料の活用が進んでいるのは、川上課長が画面デザインにこだわったことが実を結んでいるからだ。画面の上位に、史料館でセレクトした旬のトピックを載せ、ワンクリックで詳細を閲覧できるなど、ビジュアルで活用を促す工夫を凝らしている。「こんなにたくさん史料があったとは知らなかった。どんどん使いたい」と従業員に好評で、これからは活用がさらに盛んになりそうだ。
川上課長は、「今回は実現できなかったけれど、今後、モバイル端末からも史料を閲覧できるようにしたい」と展望を語る。(ゼンフ ミシャ)