「もっとスマートにタクシーを利用したい」。ユーザーのそんなニーズに応えるのが、日本交通のスマートフォン配車アプリ「日本交通タクシー配車」だ。このアプリは、タクシーを呼ぶのに使うだけでなく、行き先の指定や概算料金の確認など、タクシーをスマートに使いこなす機能が装備してある。なかでも好評なのが、降車時の料金支払い手続きを不要にする決済サービスだ。その決済サービスを提供するにあたって、日本交通は本人確認の方法を模索し、最適なソリューションにたどり着いた。
【今回の事例内容】
<導入企業>日本交通創業時から使用している「桜にN」のマークで知られる日本交通。タクシー約3700台(業務提携会社を含む)、ハイヤー約1200台(請負・ドライバー派遣車両を含む)という都内随一の車両台数を誇る
<決断した人>日本交通
総務財務部部長
濱 暢宏 氏
タクシー業界の発展に貢献するべく、スマートフォンのアプリをはじめ、さまざまな活性化策を推進している
<課題>日本交通が提供するタクシーアプリ「全国タクシー配車」で、ユーザー登録がうまくできないために、オペレーションの途中で離脱してしまうユーザーが3割近くいた。同じく、日本交通専用のタクシーアプリ「日本交通タクシー配車」でも2割近くあった
<対策>スマートフォンのSMSを利用することで、本人確認のオペレーションを容易にした
<効果>ユーザー登録時の離脱率が半分に減るなどの効果があった
<今回の事例から学ぶポイント>スマートフォンでは入力ミスが起きやすい。トラブルを防ぐには、代替手段を用意したほうがいい
グッドデザイン賞に輝いたアプリ
創業時から使用している「桜にN」のマークがブランドの日本交通。都内随一の車両台数を誇るハイヤー・タクシー業界のリーディングカンパニーであることから、率先して先進的な取り組みを推進している。その一つが、日本初のスマートフォン配車アプリ「日本交通タクシー配車」(日本交通版アプリ)だ。
このアプリに取り組んだのは2010年のことだが、きっかけについて日本交通の濱暢宏・総務財務部部長は、「社長から、スマートフォンの時代になるので対応せよとの指令があった」と、当時を振り返る。いくつかの案が出たなかで、採用したのが配車アプリだった。「宅配ピザがアプリを用いて花見の会場にピザを配達しているのを知って、ぴんときた」と濱部長。以降、社内のエンジニアが一人、企画担当が一人の内製化体制でアプリ開発を進め、およそ4か月で完成し、2011年1月にリリースした。
「スマートフォンがタクシー乗り場になる」と、完成したアプリをみて濱部長は確信した。実際、このアプリは多くの利用者に支持され、2011年12月にリリースした47都道府県をカバーする配車アプリ「全国タクシー配車」(全国版アプリ)とあわせて、130万ダウンロード(2014年3月末時点)を超えた。

アプリ上でタクシーの動きがリアルタイムに確認できる 配車アプリは、実に多機能だ。スマートフォンから得た位置情報を利用するので、利用者が「今、どこそこにいる」と乗車位置を説明する必要がない。また、アプリで降車地点を指定しておけば、乗り込む際に行き先を運転手に告げる必要もない。タクシーの動きは、リアルタイムで地図上に表示されるので、到着地点の付近に来るまで別のことができる。配車の予約も可能だ。事前にクレジットカード情報を設定しておけば、降車時の支払い手続きが不要になる。
全国版アプリは、デザインや機能、コンセプトなどが評価され、「2013年度グッドデザイン賞」を受賞し、なかでも評価の高い上位100件に与えられる「グッドデザイン・ベスト100」に選ばれた。スマートフォンのアプリがグッドデザイン賞を受賞するのも、日本初だった。
本人確認にSMSを活用
便利だと評判を呼んだクレジットカード決済機能だが、本人認証に課題を抱えていた。当初は、本人確認の手段にメールアドレスを使用していたため、悪意のある利用者には不正利用される可能性があったからだ。
では、本人認証をいかにしてセキュアにするか。濱部長は、展示会でみつけたAOSテクノロジーズの「AOSSMS」が使えると考えた。AOSSMSは、携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)を使い、キャンペーンやアンケートなどを実施するためのクラウド型ソリューション。携帯電話はキャリアによる審査があるので、本人認証に有効な手段となる。
本人認証の方法は、次の通り。まず、ユーザー登録画面で、名前などとともにスマートフォンの電話番号を入力。仮登録のメッセージがSMSで送られ、メッセージにあるURLにアクセスすれば、登録が完了する。
離脱率が大きく減少
本人認証にメールアドレスを利用している当時には、別の問題も起きていた。「メールアドレスは、入力ミスをしやすい。ところが、間違いに気づきにくいので、仮登録のメールをひたすら待つことになってしまう」(濱部長)。このほかに、入力途中であきらめたり、カード番号を間違えたりして、登録が完了しない確率(離脱率)が、日本交通版アプリで2割ほど、全国版アプリでは常に3割くらいになっていた。
メールアドレスを電話番号に変え、クレジットカードはスマートフォンのカメラで撮影してOCRを活用するなどの対応をした。二つのアプリをSMS対応にバージョンアップしたのは、2014年3月。以降、離脱率は約半分に減ったという。
今後については、離脱率をさらに引き下げることと、本人認証をより厳格にすることに取り組みたいとしている。
また、「SMSは開封率が高いので、当社からの告知に使うこともできる。アプリの休眠率を低減するためにも、検討してみたい」(濱部長)と、AOSSMSの機能を有効活用する考えだ。(畔上文昭)