SIerの海外ビジネスが一段と広がりをみせている。アジア偏重の傾向が強かったここ数年の動きとは別に、欧米市場へのアプローチを本格化する動きが目立ってきた。グローバルデリバリサービスや独自のプロダクト、商材によって、多層的、多角的なビジネスを展開しようとしているのだ。欧米市場では、これまでは体力のあるコンピュータメーカーや大手SIerが先行していたが、準大手や中堅SIerも進出を加速させている点が見逃せない。(安藤章司、ゼンフ ミシャ)
中堅SIerも「第二世代モデル」へ

KCCS
佐々木節夫 社長 SIerの欧米市場へのアプローチが活発化している。京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、グループ会社のエムオーテックスのIT資産管理や情報セキュリティ対策などができるネットワーク統合管理ツール「LanScopeシリーズ」を軸に、北米市場への進出準備を本格的に進めている。シーエーシー(CAC)は、インドの有力SIerのアクセル・フロントライン社をグループ化することで、欧米顧客向けの情報サービスビジネスをさらに拡大しようとしている。
日系SIerによる中国での日本向けオフショアソフト開発や、アジア地域での日系企業向けのITサポートを「第一世代のグローバルビジネス」とすれば、欧米市場に向けた情報サービスや独自製品、サービスによるアプローチは「第二世代のグローバルビジネス」と位置づけられる。「第二世代」のグローバルビジネスを、まとまったボリュームで手がけることができたのは、これまではNTTデータなどの業界トップグループだけに限られていた。KCCSやCACの取り組みは、準大手や中堅SIerの先駆的グループが「第二世代」ビジネスへとシフトしつつあることを意味している。
KCCSは中国市場・ASEAN市場や北米市場に京セラグループと連携しながら進出しているが、北米では京セラグループ向けのIT支援や、シリコンバレーにおける情報収集がメインだった。だが、2012年にKCCSグループに迎え入れたエムオーテックスの主力商材「LanScopeシリーズ」については、「MOTEX LanScopeのブランドで北米展開できるめどがついた」(KCCSの佐々木節夫社長)として、エムオーテックスのLanScope事業として北米展開に強い意欲を示している。
北米市場は、情報セキュリティのニーズが旺盛であると同時に、数多くのライバル製品が流通している。佐々木社長は「セキュリティリスクの高い行為を禁止、阻止するツールは多くあるが、『LanScope』は禁止・阻止に加えて、警告や注意によって行為を抑制する機能がある。こうした抑制まで包含したツールは世界的にみても少ない」として、参入の余地が大きいとみている。北米で評価されれば、欧州やアジア・南米の成長市場への展開もやりやすいという目論みがある。
“NTTデータ型”のM&Aを展開

CAC
酒匂明彦 社長 CACがグループに迎え入れるインド・アクセル社の社員数は約2000人。これまでのCACグループ連結社員数の約2100人に匹敵する規模だ。すでに中国の拠点に約250人の社員を抱えているので、「グループの全社員の半数以上を海外(勤務)社員が占める」(CACの酒匂明彦社長)という勘定になる。年商約70億円のアクセル社の主要な顧客層は欧米市場ということもあって、酒匂社長は、「これを機に、グローバルデリバリ体制を一段と強化する」との方針を打ち出している。中国とインドをソフトウェア開発のバックヤードに従え、世界の主要市場へ安く、速く、高品質なソフトウェアを届けることで海外ビジネスを拡大するわけだ。
KCCSやCACのように国内外でM&A(企業の合併と買収)を行い、グローバルに打って出る手法は、国内SIer最大手のNTTデータが率先して実行した。その成果が具体的に出始めていることも、今の日本の情報サービス業界に少なからぬ影響を与えている。NTTデータは、年商約5億9100万ユーロ(約820億円)のスペイン・エヴェリスグループのグループ化などM&Aを積極的に展開しており、2016年3月期の海外売上高3500億円の目標を1年前倒しで達成する可能性があることを明らかにしている。
日本のSIerは、資金力があるにもかかわらず、自身の海外ビジネスの経験不足からNTTデータのような貪欲なM&A戦略に疑問を呈する向きも一部にある。だが、少なくともCACは、ある種の“NTTデータ型”のM&Aを展開することで、欧米・アジアの主要市場に大きく接近した。より一層のグローバル化を内外に示すために4月1日付で持ち株会社制へ移行し、持ち株会社の社名をこれまでの片仮名表記から「CAC Holdings」の英語表記に改める気合いの入れようだ。
NTTデータもまた、海外事業の成長エンジンとするのは、米国と欧州を中心とする先進国でのビジネス展開である。2013年11月には、ERPのSAPやインメモリ型データベースソフト「SAP HANA」の構築を強みとする米オプティマル・ソリューションズ・インテグレーションをグループ化することで合意。オファリング(商材)を拡充し、欧米市場でIBMやアクセンチュアと戦うための武器を揃えた。
グローバルデリバリ体制に関しては、約1万人の技術者を抱えるインドの開発拠点をフル活用し、欧米市場でのライバルに負けない短時間でのグローバルデリバリを実現するとともに、「日本ベンダーならではの高品質やおもてなし精神を訴求して、ライバルとの差異を明確にする」(NTTデータの山田英司副社長)という考えだ。欧米では、SAPなどを活用したビジネスインテリジェンス(BI)やアナリティクスの提案に確かな手応えを感じており、売上拡大に期待を込める。
課題は新興国市場――ユーザーにもう一つの選択肢を

NTTデータ
山田英司 副社長 課題は、欧米で走らせたビジネスモデルを今後、南米やアジアなどの新興国市場にどう展開するかだ。1万人余りの社員を擁するスペイン・エヴェリスグループは中南米に数千人規模の人員を配置している。NTTデータはここに目をつけてエヴェリスをグループに迎え入れたといっても過言ではない。南米やアジア市場を含むグローバルで存在感を示し、IBMなど欧米系ベンダーだけでない「ユーザーにもう一つの選択肢を与える」(NTTデータの山田英司副社長)ことを目指す。
KCCSは「MOTEX LanScope」の北米を起点とする横展開だけでなく、携帯電話の基地局整備などの通信エンジニアリング事業でASEAN市場への食い込みに力を入れる。指向性のある電波を組み合わせて最適な電波配置をシミュレーションする技術と合わせて、「社会インフラ的な商材」(KCCSの佐々木節夫社長)として位置づける。社会インフラの整備が急ピッチで進むアジア市場の特性に合致するアプローチといえるもので、成熟市場でイノベーションが重視される欧米市場向けとは手法を変えているのが特徴だ。
海外ビジネスでまとまった売り上げを確保するには、第一世代モデルに分類される「対日オフショア」や「日系ユーザーサポート」方式による海外進出では難しい。次のステージである第二世代モデルへとシフトするために、思い切ったM&Aや、革新的で競争力の高いソフトウェア、サービスによって欧米先進市場と新興国市場の両方で評価されるビジネスが求められている。(安藤章司)