NTTデータ 現地ITビジネスの戦略 グループ各社で役割分担して互いを補完
NTTデータの中国現地向けITビジネスは、もともと日系企業を相手に展開してきた。日系企業向けビジネスは、日本国内の既存ユーザーからのロール(割り当て)案件が期待できるうえに、日本で培ってきた経験やノウハウを適用できるので、ビジネスとしては手堅い。ただし、最近では、オフショア開発の先行き不透明さを受け、日系ITベンダー各社が中国の日系マーケットに進出して、競合が激しくなっている。そこでNTTデータは、日系企業以外に顧客層を広げる戦略を推し進めている。
●日系から欧米系に顧客層を拡大 NTT DATA(中国)(NDC)は、欧米系一般法人に目をつけた。ドイツの自動車メーカーを皮切りに、最近では、衣料品小売りや大手飲食店など、欧米系サービス業の中国法人を対象に顧客拡大に励んでいる。

NTT DATA(中国)
奚駿文
執行副総裁 欧米系を開拓するための戦略の一つは、NTTグループとの連携にある。欧米系向けでは、欧米系ITベンダーが競合となるが、ネットワークに強いNTTコミュニケーションズと一緒に提案するなどして、差異化を図っている。NDCでは、今年7月1日、NTTでグローバルビジネス推進室担当部長を務めた稲葉雅人氏が、新たな董事長に就任。今後は、ますますNTTグループ間の連携を強化していくことが予想される。
欧米系に向けた戦略の二つ目は、人材採用だ。NDCでは、これまで40人程度だった一般法人向け部隊に、昨年後半から110人を中途採用で拡充している。一般法人向けビジネスを統括している奚駿文執行副総裁は、「営業やSEなど、職種はさまざまだが、採用した人のほとんどが、欧米の自動車やサービス業に強いITベンダーで従事していた経験者」と説明する。経験者であれば、欧米系企業にどんな提案が刺さるのか、どんなシステムなら満足してもらえるのかを熟知していて、顧客のニーズに応えやすい。また、顧客接点の第一歩として、過去の人脈を有効に活用できる。「採用した人のなかには、ITベンダーではなくて、ユーザー側の欧米系企業で勤めていた人もいる」(奚執行副総裁)。すでにこの戦略は効果を上げていて、今年度(14年12月期)の欧米系の顧客数は、前年度比3倍の勢いで伸びている。
●グループ連携で弱みを補う 
無錫NTT DATA
高永東
董事長 NTTデータは、マイナー出資(発行済み株式の50%以下を取得)を含めると、中国に22社のグループ企業を抱えている。各社は競合しないように役割を分担して、適宜連携しながら互いに補完し合っている。
例えばNDCは、「SAP ERP」や「Microsoft Dynamics」、「Oracle E・Business Suite(EBS)」などの基幹系システムの構築も手がけるが、現在は、顧客のマーケティングを支援するCRMやSFA、BIなど、ビッグデータに関する案件に注力している。
これに対して、無錫NTT DATAの高永東董事長は、「とくにMicrosoft Dynamicsに特化して、製造業や流通業の顧客獲得に励んでいる」という。無錫NTT DATAでは、約1500人の従業員のうち、中国現地IT向けビジネスの人員は40人程度しかいない。ほとんどの従業員は、日本向けオフショア開発やBPOに従事している。少ない人員で、現地ビジネスに強みをもたせるためには、やみくもにいろいろなソリューションに手を出すのではなく、得意分野を磨くことが重要というわけだ。
そのうえで、営業やシステム構築・導入では、必要に応じてNDCと連携。高董事長は、「中国のNTTデータグループ全体で、Dynamicsのトップベンダーを目指している」と説明する。専門領域をもちつつ、足りない部分はNDCとの連携で補っているのである。
●顧客層や領域で役割分担 
殷智信息技術諮詢(上海)
蒋健
中国区総経理 役割分担は、顧客層にも及んでいる。例えば、グループ企業の一社であるSAP専業ベンダーの殷智信息技術諮詢(上海)は、NTTデータが買収した独itelligenceの中国現地法人で、顧客の半分を欧米系企業が占めている。欧米系であればNDCの競合となるが、蒋健中国区総経理は、「NDCのターゲットが大手の製造業としているのに対して、当社は中小の製造業が相手」と、明確に役割が分かれていることを強調する。

上海恩梯梯数据晋恒軟件
張士平
総経理 金融系ビジネスでも同様の役割分担がみられる。NDCでは、中国の地場銀行をターゲットに据えて、共同利用型コアバンキングサービスの提供に注力する方針を打ち出している。これに対して、金融向けに基幹系システムの構築などを手がけている上海恩梯梯数据晋恒軟件は、中国系の地場銀行をメイン顧客に据えているが、今後は欧米系の銀行の開拓に力を入れる。張士平総経理は、「欧米の銀行向けに、新たに監査管理システムなどを開発していて、これらを今年は8行に提供したい」と説明する。
グループ間の競合を避け、得意分野や顧客の種類で役割分担をしながら、不足する部分は補完していく。これによって、カバーする範囲を広げようというわけだ。規模が大きいNTTデータだからこその巧妙な戦略といえる。
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