新たな挑戦 中国ローカル市場の開拓 壁は厚くも突破口はある
日系・欧米系の現地ITビジネスに関しては、着々と実績を積み上げているNTTデータ。一方、中国ローカル企業の開拓については、現段階で大きな実績が上がっていない。しかし、八方ふさがりというわけでもなさそうだ。グループ企業の各社が、新たな挑戦という位置づけで、ローカル市場の開拓に意欲的になっている。以下、各グループ企業が考えている戦略を3種類に分けて紹介しよう。
●成長市場にターゲットを絞る 経済成長の勢いが衰えたとはいえ、今後の成長が見込まれる業種・業態がある。IT需要が期待できるのは、今後大きく伸びる市場だ。
NDCは、航空分野をローカル市場開拓にあたっての第一関門に定めた。中国の航空業界では、近年、国内線・国際線の便数が増加傾向にあり、2012年に設立された春秋航空など、新興の航空会社も増えている。国際航空運送協会(IATA)によると、12年の中国の航空市場は、世界トップの9.5%という成長率になっている。

杭州NTT DATA軟件
長井隆史
総経理 NDCでは、国有企業3社を除いた航空会社にターゲットを絞って、システム構築などの案件獲得を目指す。奚駿文執行副総裁は、「すでに、航空業界を熟知している人材を採用し始めている」という。
日本向けオフショア開発や、保険業界向け業務パッケージ「eBao」の設計・カスタマイズを手がける杭州NTT DATA軟件では、介護市場に着目している。中国政府によると、中国の60歳以上の高齢者人口は、13年末に2億人を突破する。今後も毎年約1000万人ずつ増加し、養老施設などの高齢者サービス市場は、20年に5000億元(約8兆円)規模に拡大する見込みだ。杭州NTT DATA軟件は、介護施設の従業員が、患者の状態などをスマートデバイス上で管理できるシステムを開発した。長井隆史総経理は、「まだ実績はないが、独自商材を揃えて、現地向けソリューションをビジネスの柱にしていきたい」と構想を語る。
●中国にないソリューションをもち込む 
恩梯梯数据英特瑪
軟件系統(上海)
董磊
総経理 二つ目は、中国にまだないソリューションをもち込むという方法だ。日系ITベンダーの多くは、SAPやオラクル、マイクロソフトなどのERP、セールスフォース・ドットコムなどの営業支援システムを担いでいるが、これだけではローカル市場には簡単に入り込めない。なぜなら、ローカルITベンダーは、同じ製品を日系ITベンダーよりも安価に提供できるからだ。
NDCとNTTデータ イントラマートの中国現地法人、恩梯梯数据英特瑪軟件系統(上海)は、共同でアプリケーション開発基盤「intra-mart」のローカル企業に向けた販売に挑戦する。董磊総経理は、「今年度(14年12月期)の現地ビジネスは、売上高の2割を中国ローカル企業から得たい」と意欲的だ。
従来、intra-martは、日系企業を主要ターゲットに「文書ワークフロー」など、ワークフローエンジンを強みに営業してきた。しかし、ローカル企業に対しては、「文書ワークフローは、必ずしも必要ではない機能。むしろ、人件費の高騰などで、業務効率化に対するローカル企業のニーズが高まっていることから、『BPM(ビジネスプロセスマネジメント)』の切り口での顧客提案に注力する」(董総経理)という。
●地場ITベンダーと協業する 
NTT DATA(中国)
横田武
金融IT服務事業部門
総経理 三つ目は、中国ローカルITベンダーとの協業だ。日系IT企業だけでは、ローカル市場には簡単に入り込めないことから、協業が有力な手段となる。
NDCは金融系ビジネスで、パートナーの上海通聯金融服務(通聯金融)との連携を基本戦略に据えている。通聯金融の顧客基盤と営業力を活用して、信用リスク管理パッケージなど、NDCのソリューションを拡販していく構想だ。横田武・金融IT服務事業部門総経理は、「通聯金融は、もともと政府系金融機関の高官がリタイア後に起こした会社。まだ実績は多くないが、今後のポテンシャルに期待がもてる」としている。

日軟信息科技(上海)
井上敦由
総経理 とくに注力しているのが、通聯金融の子会社で、NDCが42%出資している上海通聯金融科技発展が建設するデータセンター(DC)を活用したビジネスだ。上海通聯金融科技発展は、来年1月、上海市の自由貿易区近くに、1200ラック規模になるDCの竣工を予定している。NDCは、そのDC上で地場銀行向けの共同利用型コアバンキングサービスを提供していく。横田総経理は、「今後は年度ごとに倍々ゲームで売上高を拡大したい」と語る。
グループ会社の日軟信息科技(上海)は、同社のCAD/CAMソフト「Space-E」シリーズの販売代理店である北京数碼大方科技(CAXA)と共同で、製造業向け金型設計アプリケーション「MOLD」(仮称)を開発し、年内に販売を開始する。CAXAは、中国有数のCAD/CAM/PLMソリューションプロバイダで、顧客には国営企業も名を連ねる。日軟信息科技(上海)の顧客は日系企業が約8割を占めていたが、井上敦由総経理は、「今回の連携強化で、ローカル企業の顧客獲得に弾みがつく」と期待している。
記者の眼
現地ITビジネスの規模はまだ小さいNTTデータだが、少なくとも日系・欧米系に向けたビジネスは順調に伸びそうだ。役割を分担し、各社に得意分野をもたせることで、日系・欧米系、一般法人系・金融系の各分野をカバーできている。
ローカル企業の開拓に関しては、挑戦し始めたばかりだが、やみくもに多大な投資をかけるなど、大きなリスクを背負っていないところは、重要なポイントだといえる。ローカル企業の案件では、売掛金を回収しにくかったり、システム要件が頻繁に変更されたりと、当初の予想以上にトラブルが発生するケースが多いからだ。システムを納入したものの、請求した金額がいっこうに振り込まれず、キャッシュフローが回らなくなるといった話はよく聞く。
だからこそ、安定した事業基盤を確立したうえで、ローカル企業の開拓に挑戦することが大事だ。その意味で、NTTデータの現地ビジネスは、正攻法といえる。売上高の急拡大は望めなくても、地道に、足場を確かめながら歩いていくことが、中国現地ビジネスのあり方なのだ。