NECが“ものづくり”のスタイルを抜本的に変えようとしている。ハードウェアとソフトウェアを融合した「フルターンキー」方式を推進。パソコンやスマートフォンなどの汎用品では国際的な競争に勝てない状況が続くなか、情報システムにキーコンポーネントとなるハードウェアを組み込み、パッケージ化やブラックボックス化を推し進めることで、システム商材の差異化とメーカー機能の維持向上の両立を狙う。とりわけ海外市場では、受託型のソフトウェア開発単体は通用せず、フルターンキーのアプライアンス(専用システム)化による手離れのよさが、受注獲得の鍵を握る。(安藤章司)
社会インフラをパッケージ化

NECプラットフォームズ
保坂岳深社長 NECは、今年に入ってハードウェア製造会社とソフトウェア開発会社の再編を意欲的に進めてきた。グループのソフト開発7社を統合してNECソリューションイノベータを今年4月に発足させたのに続き、7月にはハード製造4社を統合してNECプラットフォームズを立ち上げた。NECソリューションイノベータは、事実上、NECのソフトウェア開発を一手に担い、NECプラットフォームズは、民生用ハードウェアの中核メーカーとして再スタートを切った。
ただし、これをもって「ソフトやハード会社を統合し、規模のメリットでコスト削減効果を狙う」と限定して捉えるのは正しくない。真の狙いはハードとソフトを垂直統合し、「フルターンキー」方式によるパッケージ化、ブラックボックス化を推進することにある。例えば、サプライチェーン管理(SCM)やエネルギー管理(EMS)、流通・小売り向けPOSといったさまざまな事業領域のシステムで、ハードとソフトを融合して、ユーザーは導入後、鍵を回すだけで使えるというのが「フルターンキー」のコンセプトだ。
もともとは海外でのプラント輸出や建設で使われることが多い用語だが、こうした用語が、くしくも社会インフラへのシフトを急ぐNECが目指す方向や語感と合致したとみるべきだろう。
国内では、NECのブランドは非常に強く、受託型のソフト開発やシステム構築でも、まだしばらくは食いつなげたとしても、海外では日本式の受託ソフト/システム開発は通用しない。さらに、パソコンやスマートフォン、汎用PCサーバーは、国内製造会社を数社統合した程度では、国内市場でさえ価格優位性を発揮しづらいレベルだ。現に、NECはいくつかのコモディティ(日用品)化したハードウェア製品の製造からは手を引いている。
NECプラットフォームズの保坂岳深社長は「ハードウェア製品単体でビジネスを伸ばす時代ではない」とし、NECソリューションイノベータの毛利隆重社長は「従来型のソフト開発主体のビジネスで海外へ出て行くのは難しい」と打ち明ける。つまり、従来の受託型ソフト開発や、ハードウェア単体でのビジネスは成立しにくく、NECではこれまで分散してきたソフト/ハードの開発を実質2社に集約。さらに両社を密接に連携、融合させることで、NECにしかつくれない社会インフラ系のアプライアンス(専用システム)開発を推し進める戦略に出たということだ。
ターンキー対応を重点開発

NECソリューションイノベータ
毛利隆重社長 直近のNECの成功事例として挙げられるのが、ブラジルのサッカースタジアムで必要とされるITシステムを「フルターンキー」方式で受注した事例だ。ブラジルW杯の開催に合わせて、膨大な数の監視カメラを集中制御するセキュリティや防災の対策システム、複数の大型スクリーンへのコンテンツ配信といったさまざまなシステムを統合し、アプライアンス化して納入した。ほかにもアルゼンチンの政府映像監視システムやミャンマーの空港保安インフラ、タイでのコンビニ向けPOSシステムなど、社会インフラとハードウェアを巧みに絡めた受注が目立つ。
「社会インフラなら社会インフラの完成形をまず思い描き、これを実現するための“ものづくり”を徹底する」(保坂社長)と、従来の製品単体で競争力を得ようとする開発姿勢を改める。日本の情報サービス業界における海外ビジネスを見渡してみると、独自のハードウェアをもたないSIerは、一部を除いて軒並み苦戦しているのは周知の通り。受託ソフト開発という発想そのものが存在しない国や地域も多く、目に見えて、触って確かめられるハードの強みを生かしやすい。つまり、鍵を差し込めばその場で使える「フルターンキー」が好まれる傾向が強いわけだ。
とはいえ、ハードウェア製品である限り、ある程度のボリュームがなければ量産効果が出ない。極端にコストが高くては、いくらフルターンキーでシステムに埋め込んでも、そのコスト分を吸収できなければ意味がない。NECプラットフォームズはユニファイドコミュニケーション(UC)などの通信機器やサーバー、POS、業務用端末などで「旧事業会社同士が重複している部分を削る」(保坂社長)とともに、NEC本体やNECソリューションイノベータなどグループ各社と連携したフルターンキー対応製品を増やすことで、コスト削減と売上増を目指す。旧4社の単純合算ベースの売上高は2351億円だが、向こう数年のうちに3000億円規模への拡大を目指す。
事業拡大のためには、NECの“ものづくり”の姿勢そのものを大きく改めていく必要があるのはいうまでもない。社会インフラを支えるデバイスに半ば特化するとともに、情報システムの最終形である“ターンキー”を“ものづくり”の段階からイメージできるかどうかがNECの今後のハードビジネスの、文字通りの“鍵”を握る。
表層深層
ハード単体では限界 垂直統合で融合商材を
社会インフラ事業に経営資源の集中を図るNECの“ものづくり”の転換は、過去のしがらみを断ち切るという意味での英断だ。ハード製品単体での販売は少なくなり、スマートコミュニティ領域をはじめとするNECの社会インフラ向けシステム商材のコンポーネントとの位置づけが強まる。気がかりなのは、従来のNEC販売パートナーを経由して販売する割合が相対的に減る可能性が高いことだ。とりわけ、海外市場において受託ソフトやハード単体でビジネスが伸びるとは考えにくく、NECが目論む「フルターンキー」方式での受注が主流となる。
NECでは、これまで20%弱で推移してきたNECの海外売上高を早期に25%へ高める目標を掲げる。実現のためには、NECソリューションイノベータのソフト開発力はもちろん、民生用ハード製造を担うNECプラットフォームズの改革の手腕にかかっているといっても過言ではない。NECプラットフォームズの年商はNECのシステムプラットフォーム事業の約3割を占めるボリュームがあり、ここを伸ばせるかどうかが、メーカーとしての強みを生かせるか否かの分かれ目となる。
過去に実施してきた量産重視の路線では、オープン化やコモディティ化の競争に耐えられず、負けるパターンである。そうではなくて、NECは社会インフラ向け商材のモジュールとして融合し、パッケージ化/ブラックボックス化する垂直統合にこそ活路を見出しているのだ。そうでなければ、ハード製造の中核会社であるNECプラットフォームズの売り上げを早期に3000億円へと伸ばすのは難しい。