業績不振からの脱却を目指してビジネス再編に取り組んでいるNEC(遠藤信博社長)が、市場の信頼を取り戻しつつある。今年に入ってから、それまで低迷していた株価が上がり続け、今年に入って最大時には100円以上の上昇をみせた。不採算事業を切り離すなど、2013年4月に発表した「2015中期経営計画」で定めた改革が実り始めている。NECは6月に、エネルギー事業の中核開発部隊となる「NEC エナジーソリューションズ」を米国で設立。海外からグローバル市場を攻めるための体制をつくっていく。スマートエネルギーをけん引役として、復活に向けて走り出す。(ゼンフ ミシャ)
グローバルで戦う

スマートエネルギーBU
庭屋英樹
理事 狙うのは、世界の93%──。NECは、情報システムで電力系統を管理するグローバル市場は2020年までに6000億円に拡大するとみている。6000億円のうち、日本が占める割合は、北米の50%、欧州の34%に対して、わずか7%に過ぎない。スマートエネルギービジネスユニット(BU)の庭屋英樹理事は、「国内市場の可能性は限定的。今のNECに必要な大幅な事業拡大はできない」と判断し、このほど、約1億米ドルをかけて、世界を攻めるための武器を手に入れた。
3月、中国の万向集団に属するシステム開発会社であるA123 Systemsの蓄電システム事業部門「A123 Energy Solutions」の買収を発表した。A123 Energy Solutionsの所在地は米国マサチューセッツ州で、社員数は約130人。欧米などの電力会社11社を顧客として抱えて、大規模・大容量の蓄電システムを提供している。NECは同社をNECのスマートエネルギービジネスユニットに統合し、6月に「NEC エナジーソリューションズ」として事業活動を開始する。
本社を置くのは米国だ。コスト競争力にすぐれたリチウムイオン蓄電池や電力網との接続などの構築実績といった、A123 Energy Solutionsのモノと技術を活用し、日本を含めてNECが各国にもつ営業拠点と連携するかたちで、世界の電力会社にエネルギーソリューションを売り込んでいく。
有望株は「社会ソリューション」
今年1月から、NECの株価がコンスタントに上昇するようになったのは、遠藤信博社長が掲げている「聖域なき再編」が実り始めた成果と捉えることができる。13年7月に発表したスマートフォン事業からの撤退や同年11月に明らかにした国内ソフトウェア開発子会社の統合。思い切って不採算のビジネスを切り離したり、子会社再編によって徹底的なコスト削減を図るという遠藤社長の強い姿勢は、投資家のNECへの信頼回復につながってきているようだ。
同社の直近の業績は決してよくない。14年3月期上期(13年4~9月)の売上高は前年同期比4.5%の減、営業利益は同99.2%の減となった。
しかし、スマートエネルギーをはじめ、ITを使って生活を安全で豊かにするための基盤を提供するという「社会ソリューション」に舵を切ったことによって、成長の土台を築いた。「後は営業力をつけるだけ」と遠藤社長が述べるように、各国の企業・政府機関のニーズを的確に捉え、スピーディに解決策を提案するスキームをつくることができれば、ここ数年の縮小・下り坂のビジネス状況から再び拡大に転じる可能性は十分にあるだろう。
「ITベンダー視点」は要注意
そのカギを握るのは、世界に根づいた事業部隊をつくること。6月に立ち上がるNEC エナジーソリューションズは、13年4月にシンガポールに設立したグローバルセーフティ事業部に続き、NECにとって二つ目の海外事業部隊になる。NECはこれまで、自社の電池を使って、電力会社に20メガワット(MW)以下の小型システムを提供してきた。今後は、A123 Energy Solutionsを活用して、100MW規模の大型システムを売り込むことができるようになる。
注意すべき落とし穴は、これまでと同様、モノの販売とシステム構築しか視野に入れないという「ITベンダー視点」だ。時代が求めているのは、ユーザー企業と彼らの顧客のビジネス・生活を支援するための、ITの枠を超えたサービスの提案である。
そうした情勢にあって、NECは今、米国の大手電力会社であるAESに注目している。AESは、A123 Energy Solutionsの顧客の一社だ。同社は、電力を安定的に提供するためにピーク時に電力消費を抑える「デマンドレスポンス(需要応答)」のサービスを強みとしている。今後、AESと「積極的にパートナリングに取り組み、A123 Energy Solutionsの買収によって入手したコンポーネントと構築力に加えて、サービス領域でもビジネス化を図りたい」(庭屋理事)としている。パートナリングの手段として「買収も考えられる」という。
スマートエネルギーを3000億円へ
スマートエネルギー事業の直近の売上規模はおよそ670億円。NECの13年4月期の全売上高は3兆716億円だから、事業としてはまだ小さい。しかし、NECにとって、回復の原動力になる可能性は高そうだ。庭屋理事は「スマートエネルギー事業をまず1000億円に伸ばして、将来は、3000億円にまで引き上げたい」と意気込む。そのうち、海外での事業展開は半分になる構想を立てているという。
海外ビジネスを本格化して成長につなげるか、それとも……。国内をメインの市場と捉えて事業を伸ばす道は、NECにはもはや残されていないといってよさそうだ。国産メーカー系や大手システムインテグレータ(SIer)はこぞって、海外ビジネスの拡大を掲げている。そんななかでも、海外で事業部隊を組織して、体制強化に力を入れるNECの取り組みは目を引く。
はたして本社機能も「グローバル」に移すのか──。走り出したNECの動きに注目したい。