1948年に世界で初めて魚群探知機を実用化した古野電気は、船舶用電子機器メーカーとしてグローバル市場で存在感を示している。世界を相手にするビジネスでは、輸出入業務の事務手続きをいかに効率化できるかが課題になるが、貿易帳票類は電子化が遅れていて、いまだに紙に依存した処理がほとんど。しかし、古野電気は貿易帳票管理システムをいち早く導入し、業務の効率化とコスト削減を果たした。
【今回の事例内容】
<導入企業>古野電気1938年創業の船舶用電子機器メーカー。1948年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功した。連結で、売上高は約757億円(2014年2月期)、従業員数は約2800人。東証1部上場
<決断した人>飴谷樹徳部長(左)
舶用機器事業部国際部
前田起代課長代理
同部外国為替課
グローバルビジネスの中心である国際部が貿易帳票の電子化を主導した。前田課長代理は、プロジェクトの中心メンバー
<課題>紙に依存した貿易帳票の管理を効率化する
<対策>基幹システムの刷新に合わせて貿易帳票管理システムを導入
<効果>貿易関連業務を45%効率化し、年間1000万円のコストを削減
<今回の事例から学ぶポイント>業務部門がIT導入で実現したいことを具体的にイメージしているプロジェクトは、成功の可能性が飛躍的に高まる
ERP導入に合わせて一気に電子化
貿易帳票の管理には、確実に保管することはもちろん、後から参照しやすいように工夫して整理することが求められる。古野電気が帳票管理の電子化に本格的に取り組む契機となったのは、2011年。オフコンのIBM AS/400上に構築されていた従来の基幹システムを、SAP ERPに入れ替える一大プロジェクトが社内で動き出した。これに合わせて、帳票類をデータで保存するだけでなく、輸出に関連する一連の業務を一気に電子化しようという気運が社内で高まったのだ。そこで、貿易帳票管理システムの導入も、部門横断プロジェクトチームをつくって進めることにした。
もちろん、システムの導入に伴って業務フローの棚卸しは必須だった。通常、こうしたケースでは、既存の業務フローに慣れている現場の社員から、システム導入効果に対する懐疑的な声が出ることが珍しくない。しかし、プロジェクトチームの中心メンバーだった前田起代・舶用機器事業部国際部外国為替課課長代理は、「関連部署と、まずはそれぞれの帳票類がなぜ必要なのかというところから摺り合わせをして、やり取りを電子化すればどこがどう効率化されるかという話し合いをしっかり行った。電子帳簿保存法などの法的な要件さえクリアできれば抵抗はなかった」と振り返る。法的要件をクリアできるかどうかの検討には、法務室、監査室を巻き込んで、プロジェクトチームも自ら法律の文言を読み込んで対応した。さらには、経理部門とも協力して国税局などにも確認を取りながら課題を潰していった。問題があっても立ち止まることなく、チームはシステム化の阻害要因を一つひとつ取り除いていったのだ。
システム選定については、それほど時間はかからなかった。もともと富士ゼロックスの文書管理システムを導入していたので、この既存資産に着目して、後継のソフトウェアをベースに帳票を電子管理し、業務フローを自動化できるかどうかを確かめるだけで済んだからだ。
結果として、「やりたいことができるということがわかったので、富士ゼロックスに、電子文書管理ソフトウェア群の『Apeos PEMaster』をベースに、貿易帳票管理システムを開発してもらうことにした」(前田課長代理)という。
年間1000万円のコスト削減
システム開発にあたっては、単に帳票類を電子化するだけでなく、ERPと連携させ、すべての関連情報のデータを統合データベースで一元管理し、帳票類を自動作成して部署間のやりとりをワークフローで処理できるシステムを目指した。また、従来システムには帳票類のデータを通関事業者にメール送信する仕組みがあったが、ERPにはその機能がないので、帳票管理システムから自動送信する仕組みも付加した。
完成したシステムは、昨年3月に輸出業務向けに稼働し、年間1000万円のコスト削減と、関連業務工数の45%削減という大きな成果をもたらした。舶用機器事業部国際部の飴谷樹徳部長は、「ERP導入と一緒にやったことが最大のポイントだった。実は、過去に基幹システムの刷新には2回失敗している。業務部門が既存の業務フローにこだわって、好き勝手に情報システム部門に希望を投げつけるやり方では、プロジェクトが動かなくなることを痛いほど思い知った。システム導入に合わせて自分たちの業務自体を効率化できるように変えていくという意識革命ができていたことが、スムーズな導入・運用につながった」と説明する。
また、前田課長代理は、貿易帳票管理システムだけでなく、ERP導入プロジェクトチームのメンバーでもあった。「業務部門から参加したメンバーがシステムの基本的な構造を理解したうえで、やりたいことを具体的に情シスやベンダーに相談することが大事」と、成功の要因を分析している。(本多和幸)