日本IBM(ポール与那嶺社長)は、オムニチャネルやデジタルマーケティングといった新しい領域のソリューション提供を強化し、販売網の拡充も図っている。米IBMが、CAMSS(クラウド、アナリティクス、モバイル、ソーシャル、セキュリティ)を軸にしたソリューション提案へのシフトを進めているのは周知の事実だが、そうした変革を象徴する動きといえそうだ。(本多和幸)
ソリューションの網羅性が強み

浦畑奈津子
マネージャー 米IBMは、製品群のブランドや組織体制をCAMSSソリューションの提案がしやすいかたちで再編しているが、こうした動きの一環として、日本IBMは今年、Eコマースやマーケティング関連のソリューションを扱う事業部として、コマース事業部を立ち上げた。米IBMは近年、買収によりさまざまな技術・製品をラインアップに取り込んできた。現在、国内市場では、従来からEC構築のコアソリューションとして展開してきた「WebSphere Commerce」に加え、オンプレミスであらゆるチャネルに対応する高度なキャンペーン管理を図る「Campaign」、SaaSのデジタルマーケティングソリューション「Silverpop」、顧客行動分析の「Tealeaf」といった製品が、事業の成長の柱を担う。
これらのソリューションは、ユーザーの業績向上への貢献が期待できる、いわば「攻めのIT投資」のための商材といえる。ITベンダーにとっては、ユーザーのIT予算だけでなくマーケティング予算の活用も期待できるし、ユーザーに十分なROI(投資対効果)を示すことができれば、より大きなIT投資を引き出すことができる成長性の高いビジネス領域だ。そうした事情もあって、米アドビシステムズや米オラクル、米セールスフォース・ドットコム、独SAPといった大手グローバルベンダーがこぞって注力する姿勢を鮮明にしているし、米マルケトのようなデジタルマーケティングに特化した新興ベンダーも、IT市場における存在感を高めている。
そんななかで、IBMが市場に訴求する強みは何か。日本IBMの浦畑奈津子・IBMコマース事業部ストラテジック・パートナー・アライアンスマネージャーは、「ラインアップの網羅性」だと説明する。
「例えばSilverpopは、B2B向けとB2C向けの機能が最初からワンストップで提供できるのが他社製品と異なる点。実際にそういうニーズは高まっている。また、IBMは、コマースとマーケティングのシームレスな連携にいち早く取り組んできたし、購買、マーケ、販売、サービスのどのポイントソリューションから導入しても、拡張がスムーズにできる製品体系になっている。さらには、基幹系システムやCRMなども含めたお客様のビジネス基盤全体の刷新ニーズにも幅広く応えられる」。
SI系と非IT系の両方を重視
一方、販売戦略をみると、とくにデジタルマーケティングソリューションの大手ベンダーは、SIerなどの伝統的なITベンダーではなく、マーケティング業務そのものに精通したマーケティングコンサルやクリエイティブ系の非IT企業に販売をけん引する役割を期待している向きもある。しかし日本IBMは、SIer、マーケティングコンサルの両方を重視する戦略を取る。浦畑マネージャーは、「IT系ソリューションの案件に付帯してマーケティングソリューションの引き合いがあることも少なくない。そうした網羅的な案件では、SIerのシステム構築力が不可欠。一方で、お客様の情報システム部門だけでなく、マーケティング部門とのコミュニケーションも必要になるため、マーケティングコンサル系のパートナーがSIer系のパートナーと連携する場面も出てきている」と説明する。コーディングがほとんど必要ないSaaSのポイントソリューションの導入・運用であれば、非IT系のパートナーが単独で手がけることもできる。事実、他ベンダーではそうした案件が伸びている。しかし、IBMのソリューションが「網羅性」を強みとしていることを考慮すれば、コマース、マーケティング以外のシステムとの連携を付加価値として訴求しやすいわけで、SIerが活躍できる余地は比較的大きいといえそうだ。
日本IBMは、既存のIBMパートナーも含め、新たにコマースやマーケティング関連ソリューションを扱いたいというパートナーを基本的には歓迎する意向を示している。ただし、ハコ売りとは決定的に異なるスタイルのビジネスであるのも確かだ。「パートナー自身に、リソースと時間をかけて当社製品を自社のソリューションに組み込んでいただく必要があるだろう。コマース事業はIBMの変化の象徴の一つであり、それを理解したうえで、自らも従来のITビジネスから脱却しようと考えているパートナーが必要」(浦畑マネージャー)ともみている。Silverpopを活用したソリューションをパートナーが容易に開発・販売できるようにするプログラムを提供するなど、パートナー向けの支援策も徐々に打ち出しているが、「熱意あるパートナー」には、事例構築の支援なども積極的に行っていく考えだ。
SIerのパートナーも続々始動
既存事業での強みを生かす

ラック
重阪大輔
理事 SIに強みをもつパートナーがIBMのコマース、マーケティングソリューションに注力する動きが、実際に現れてきている。セキュリティベンダーであり、SIerでもあるラックは、この10年ほどで蓄積してきたECサイトの構築・運用実績を生かし、これにマーケティングオートメーションなどを組み合わせたソリューション群をラインアップした。重阪大輔・理事営業本部ソリューション営業統括部副統括部長兼ソリューション営業部長は、「コマース、マーケティングの分野でもセキュリティの要件は必ず出てくるので、そこが売りになる」と意気込む。

JSOL
小畑康弘
シニアマネジャー 一方、流通業に強いJSOLも、EC構築ソリューションとマーケティングオートメーションツールなどを組み合わせ、オムニチャネルソリューションとして打ち出している。小畑康弘・流通・サービスビジネス事業部営業グループシニアマネジャーは、「オムニチャネルは、基幹系のシステム再構築とセットの案件も多く、そうなればJSOLとして強みが発揮できる」と話している。