富士通が研究開発方針をアップデートした。研究開発機能を担う子会社の富士通研究所が今年で創立50周年を迎え、デジタルトランスフォーメーション(DX)が日本社会全体の課題として浮上してきたタイミングで同社が打ち出したのは、「Trust and Co-creation」というコンセプトだ。このコンセプトを実現するために新たに開発した具体的な技術も発表したが、メーカーとしての機能を縮小し、SIを軸にビジネスモデルの転換を進めている同社にとって、これらの新しい成長の芽をどこまで大きく育てられるかは未知数でもある。

富士通研究所
佐々木繁
社長
 富士通が1976年から掲げてきた研究開発方針は「信頼と創造(Reliability and Creativity)」。Trust and Co-creationになって何が変わったのだろうか。一見してそれほど変化がないように感じられるかもしれないが、Co-creationは比較的分かりやすい。DXの時代になり、ITの役割を業務効率化だけでなく顧客の本業の強化や新事業の創出、社会課題の解決などの領域に拡大していくためには顧客やパートナーとの「共創(Co-creation)」による継続的なイノベーションが必要であるというのは、近年の富士通の経営方針でも特に強調されているポイントだ。研究開発方針も歩調を合わせて共創をあらためて前面に押し出したと言えよう。

 一方のTrustについては、説明が必要だろう。富士通のCTOも兼務する富士通研究所の佐々木繁社長は、「安定して稼働するシステムを提供するという意味での信頼を超えて、顧客のビジネス環境そのものに先端テクノロジーを活用して信頼性を付与することを志向するというコンセプト」だと説明する。これをTrustという言葉で表現したという。そして、Trustな世界を実現すれば「企業、個人、ビジネス、データ、システムなど複雑かつ膨大な要素が容易につながり、共創(Co-creation)が加速する」(佐々木社長)と考えているのだ。つまり、富士通が研究開発においてフォーカスする最も基礎的な価値基準は「Trustを実現する」ということだ。

 富士通研究所は研究開発方針のアップデートに伴い、Trustを実現するための技術を発表している。その代表的なものが、ブロックチェーンを活用し、業種や業界を超えて流通させるデータの信頼性を向上させる技術「ChainedLineage」だ。富士通研究所の佐川千世己・常務取締役は「従来の情報システムでは、アプリケーションの計算ロジックなど“機能”に対するTrustが求められていた。しかし、データドリブン時代になりAIの活用などが一般的になると、入力データが安全であるか、出力データに不要なものが混じっていないかなど、データの入出力に対するTrustがシステムのTrustを実現するキーになる」と話す。ChainedLineageにより、企業をまたがって流通するデータの出所や加工履歴、流通経路、さらには個人データの場合は本人同意済みのものであるかの確認などが容易になり、データの来歴情報を大元から安全に管理して関係者で共有する仕組みを実現できるという。2019年度中をめどに、機能単位で段階的に実用化する計画だ。

 ただし、ChainedLineageを「誰に売るのか」については、明確なビジョンがまだないのが実情だ。場合によっては、さまざまなプレイヤーとの共創により、ユースケースをつくるための新しいビジネスモデルの検討を富士通が自ら主導していく必要もあるのだろう。また、自社のSI案件だけではこうした新技術の普及を面的に拡大させるのは難しい。50年間培ってきた研究所の力をビジネスの成長に生かすためのエコシステムをいかにつくるかが大きな課題だといえよう。(本多和幸)