【サンフランシスコ発】米オラクルのクラウド戦略が大きな転換点を迎えている。同社は9月16日から19日までの4日間にわたって米サンフランシスコで年次イベント「Oracle OpenWorld(OOW) 2019」を開催。創業者で現在も同社の総帥であるラリー・エリソン会長兼CTOの基調講演では、従来のように垂直統合的なクラウド戦略に固執するのではなく、他ベンダーとの水平連携によるエコシステム構築に本格的に舵を切る方針であることが浮き彫りになった。オラクルが組む相手は、米マイクロソフト、そして米ヴイエムウェアだ。(本多和幸)
ラリー・エリソン・会長兼CTO
エリソン会長の基調講演で発表された新製品・サービスで特に注目を集めたのが、「Oracle Autonomous Linux」だ。すでにOracle Cloud Infrastructure(OCI)で本番稼働しているという。
同社は一昨年のOOWで、自律的(Autonomous)に稼働するとともにセキュリティ対策を実行し、自己修復するクラウドネイティブなDB「Oracle Autonomous Database」を発表。DBのトップベンダーとしての強みを生かして後発のクラウド市場で攻勢をかけるための武器として、以降、前面に押し出してアピールしてきた。Autonomous Linuxは、DBで打ち出した“Autonomous”のメリットをOSまで拡大しようというというもの。プロビジョニング、スケーリング、チューニング、セキュリティパッチの適用やアップデート、セキュリティ監視、復旧などを自動化するという。エリソン会長は、「完全に“Autonomous”なクラウドを提供することがオラクルの目標。そのためには、OSのレイヤーでも高可用性の追求が必要だと考えた」とAutonomous Linux誕生の背景を説明した。
AWS批判は継続、IBM&レッドハットも新たな仮想敵に
クラウドへの全面的な注力を決断して以降、エリソン会長はAWSを仮想敵として「Oracle CloudがいかにAWSよりも優れているか」をメッセージの中心に据えてきた感がある。「Autonomousであることのメリットはシンプルで、運用や保守の人件費削減はもとより、ユーザーの人的エラーを防ぐことができるという点で、ダウンタイムの削減に大きく貢献する。ユーザー側のエラーはユーザーの責任だとしているAWSとは違う」として、AWS批判は例年どおり忘れなかった。
さらに今回は、Linuxディストリビューションのトップベンダーである米レッドハットや、レッドハットを買収した米IBMも仮想敵のラインアップに加わった。エリソン会長は「常に信頼性が高くセキュアだという点でオラクルはレッドハットより優れている。その証拠に、レッドハットを340億ドルで買収したIBM自身がいまだにOracle Linuxを使い続けている」とした上で、「Autonomous Linuxはクラウドのためにデザインされ、性能、信頼性、セキュリティに非常に優れているが、Red Hat Enterprise Linuxと完全互換であるためアプリケーションをそのまま移行できる」とした。
Autonomous Linuxに限らず、オラクルが今回のOOWで発表したインフラ/プラットフォームレイヤーの新製品・サービスは、総じて基幹系までを含む既存のエンタープライズITのクラウド移行ニーズに応えるために、セキュリティや可用性、信頼性を高める方向に進化したものが多かった。既存の情報システムはいまだに8割がオンプレミスに残っていると言われ、あらゆるクラウドベンダーがこの“8割”のクラウド化という潜在市場で優位に立つことを目指している。既存システムにおける顧客基盤や実績・ノウハウが競争優位につながる可能性があるという意味では、IBM、オラクルともにこの市場での飛躍に賭けている。IBMやレッドハットへの“口撃”は、そうした新たなフェーズでの競争を見据えた牽制と言えそうだ。
VMware on OCIそしてSQL Server on OCI
一方で、既存システムのクラウド化需要を刈り取っていくためには、マルチクラウドやハイブリッドクラウドへの対応もキーになる。昨年までのオラクルはDBをベースにしたハイブリッドクラウドこそ指向していたものの、明らかに垂直統合型のロックイン戦略を採っていた。しかし今回、クラウドビジネスでマイクロソフトやヴイエムウェアとの協業を発表し、水平連携によるクラウドの新たなエコシステム構築に本格的に踏み出した。
ヴイエムウェアとの協業では、OCI上でヴイエムウェアの仮想化製品や管理ツールを利用できる「Oracle Cloud VMware Solution」をオラクルのサービスとして提供する。AWSやマイクロソフト、IBMも類似の協業関係をヴイエムウェアと結んでいるが、既存システムのインフラでデファクトスタンダードに近いポジションを確立しているヴイエムウェアの仮想化技術を自社クラウドサービスに取り込むことで、クラウドへのリフト&シフトやシームレスなハイブリッドクラウドの運用を促進できると考えているのは共通だろう。オラクルにとっては、まずは競争のスタートラインに立つための施策だ。
また、マイクロソフトとは今年6月に、「Microsoft Azure」とOracle Cloudを相互接続し、両社のクラウドサービスをシームレスにつなぐ環境を拡充していく方針を発表している。OOW 2019では、さらに協業を深め、OCIがマイクロソフトのRDB「Microsoft SQL Server」をネイティブにサポートすることなどを明らかにした。近年、DB市場で両社が対決姿勢を強めていたことを考えると、互いに大きな方向転換と言えよう。この連携が、まだまだ潜在規模が大きいクラウド市場の今後の勢力図に影響する可能性も否定はできない。