経済産業省は昨年4月、2025年までにキャッシュレス決済比率を約4割まで引き上げる「キャッシュレス・ビジョン」を示した。コンカー(三村真宗社長)はこの機を逃すまいと“ビジネスキャッシュレス構想”を打ち出し、新たに四つの外部サービスと連携する計画を発表した。QRコード決済を中心に一般消費者の間でキャッシュレス決済が盛り上がりを見せ、国全体がキャッシュレス化へと動き出した今、これを追い風にさらなる顧客基盤の拡大を目指す。(銭 君毅)
左からエムティーアイ 濱田鉄平執行役員、みずほフィナンシャルグループ 柿原愼一郎部長、
コンカー 三村真宗社長、SAP コンカー クリスタル・ベモント チーフレベニューオフィサー、
DiDiモビリティジャパン 林励副社長、ディーエルジービー 木村聡太代表取締役
非IT系サービスとも連携を強化し経費精算の全フローをデジタル化
コンカーは9月9日、決済や出張・経費精算に関連するさまざまな外部サービスと同社が提供する出張・経費管理クラウドソリューション「SAP Concur」を連携させることで、経費の利用・精算・管理までを一気通貫でキャッシュレス化・ペーパーレス化する「ビジネスキャッシュレス構想」を示した。この方針のもと、タクシー配車サービスのDiDiモビリティジャパン、空港送迎サービスのディーエルジービー(DLGB)、法人向けプリペイドカードのエムティーアイ(MTI)の3社と提携するほか、QRコード決済サービスについてはみずほフィナンシャルグループと協力していく計画を発表した。
キャッシュレスニーズに応え、より外部連携を強化
同社はこれまでもSAP Concurを中心とした外部連携を重視するオープンプラットフォーム戦略をとっており、そのコアサービスとしてアプリ共有サービスの「Concur App Center」を提供してきた。今回発表したDiDi、DLGB、MTIの3社が持つサービスとの連携はConcur App Centerから提供する。それぞれのサービスの利用後、電子領収書や利用履歴をSAP Concurに自動送付することができるようになる。各サービスの提供時期についてはDiDiとDLGBが2019年冬、MTIが20年春を予定している。
また、みずほフィナンシャルグループとの提携については、同社が19年3月から提供しているQRコード決済アプリ「J-Coin Pay」との連携を目指す。同サービスは一般消費者向けだけでなく法人向けにも展開していく方針で、J-Coin PayからSAP Concurへの経費利用情報の転送とSAP ConcurからJ-Coin Payへの清算代金の送付を可能にする。なお、精算金の受け取り機能は19年冬以降、経費の支払い機能は20年以降に提供するとしている。
このほか、同社では交通系ICサービスとの連携についても強化しており、現在東日本旅客鉄道(JR東日本)と協力し、SuicaのデータサーバーとSAP Concurの自動連携を計画している。三菱ケミカルをはじめとする大手企業3社と実証実験に取り組んでおり、実験を行っている企業のある部署では、実際に鉄道やバス、タクシーの利用情報をSAP Concurへ自動転送するフローが完成しているという。
コンカーの調査によると、日本でキャッシュレス決済を主体に経費を支払っている人は約30%で、まだ現金が主流だという。一方で経費をキャッシュレスで支払いたいという層は82%にのぼり、ニーズは非常に大きい。SAP コンカーのクリスタル・ベモント チーフレベニューオフィサーは「便利というだけでなく経費の不正利用を防ぐためにもキャッシュレスソサエティの実現は重要な取り組み。日本政府がキャッシュレスを推進していく方針を取りまとめた。われわれはこれを歓迎し、日本市場へ積極的に投資していく。この方針はSAP全体の戦略でもある」と語る。
エンタープライズクラスの自動化を全ての企業に
一時期は大企業への導入が目立ったコンカーの経費精算ソリューションだが、近年は初期費用なしでスタートできるSMB向けのスタンダートプランを提供し機能を拡充するなど、積極的に中小企業ユーザーを取り込んでいく動きを見せている。ビジネスキャッシュレス構想においても日本企業全体のキャッシュレス化を押し出すことで、エンタープライズだけでなく中小企業も取り込んでいく考えを改めて強調したかたちだ。
現時点での中小企業向けビジネスについて三村社長は「SMBのユーザー比率は着実に伸びており、数人規模の企業で使ってもらっているケースも多い。また、昨年リリースした請求書管理サービスは特に人気で」と自信を見せる。
Concur App Centerにあるサービス群はエンタープライズ向けのプロフェッショナルプランとスタンダードプランのどちらにも対応しており、今回新たに発表した3種のサービスについても同じく対応させる予定だとしている。料金体系については検討中としているが、三村社長は「中堅中小規模の企業においても、エンタープライズクラスのシステム品質、ビジネス品質を提供していきたい。外部との連携において企業の間に差をつけるつもりはない」と強調した。