今年6月、時田隆仁新社長の下で新たな経営体制のスタートを切った富士通グループ。デジタルトランスフォーメーション(DX)新会社の設立など新たな成長戦略を打ち出す同社だが、一方で1年前に示された経営方針のうち、明確な説明のないまま置き去りとなっている事項が一つある。グループ経営体制統合・最適化の取り組みだ。(日高 彰)

実施目前だった
FJMの本体統合計画

 「富士通は、中堅民需事業の中核会社・富士通マーケティング(FJM)を2019年前半にも富士通本体に統合する」――昨年末から今年春にかけて、富士通周辺ではこのような見方が広がっていた。発端となったのは、昨年10月26日に発表された経営方針の中にあった「全体最適の視点でグループフォーメーション改革を加速する」の一文。同社では、この方針に伴うグループガバナンス強化策として、FJMを含む主要子会社の社長を富士通本体の役員が兼務する人事を行っており、その後本紙のインタビューに答えた田中達也前社長は、主要子会社を本体へ統合する可能性を否定していなかった(本紙1757号)。また今年に入り、本紙記者は富士通に近い関係者や企業幹部から、子会社統合のプロジェクトが半ば“確定事項”として進んでいる旨を聞く機会が複数回あった。

 しかし、現実には富士通グループの主要子会社に関して今年実施された変革のうち、目立ったのは富士通エフ・アイ・ピー(FIP)が手掛けていたデータセンター(DC)事業の本体への移管のみ。主要子会社の中で、統合計画が最も具体的に進んでいたとみられるFJMでは、今年1月に社長に就任した北岡俊治氏(富士通専務・営業部門長)が6月に退任し、富士通本体の役員の座からも退くことが発表された。ただ、富士通は国内のサービス事業では過去最高の売上高を更新しており、FJMも18年度決算から、売上高・営業利益とも過去最高の水準という。また、同じく1月から富士通ネットワークソリューションズ(FNETS)の社長を務めた松本端午氏(富士通常務・ネットワーク事業改革担当)も、9月に本体・FNETS両方の役員を退任し富士通グループを去っている。富士通のグループフォーメーションをめぐる当初の計画が変更、もしくは棚上げになったことをうかがわせる人事だ。

 事実、今年10月以降の本紙インタビューに対し、富士通の時田隆仁社長、FJMの広瀬敏男社長とも、子会社の本体統合に関しては否定的なコメントをしている(本紙1800号・1803号)。田中前社長は、5年の任期が通例となっていた富士通の社長を4年で交代することについて「新たな体制でプランを立てて、そのメンバーで責任をもって実行に入ってもらうタイミングが今」とコメントしていたが、グループ改革の完遂を見ないまま社長の座を去ったという見方もできる。
 
田中達也前社長は
グループ全体でのリソース最適化を目指していた

経営課題だった
営業部門のグループ最適化

 富士通のグループ戦略の中で、近年最も大きな動きはSI子会社の本体統合だった。16年11月、同社は富士通システムズ・イーストおよび富士通システムズ・ウエストを吸収し、大手企業向けを中心としたシステム開発力を向上。業績改善にも大きく貢献した。一方、営業や間接部門は依然としてグループ各社に分散したままで、場合によってはグループ内で同じ顧客を奪い合う場面も残っていた。反対に、富士通本体からのグループ内発注への依存度が高い子会社では、独自の営業力が伸び悩むという構造も生まれており、SI部隊に続き、営業部隊に関してもグループ全体での最適化が経営課題となっていた。

 FJMは10年、富士通パートナー向けの商材提供や支援も含め、中堅以下の規模の民需を担う事業会社として生まれた。しかし実態としては、準大手向けの案件や富士通本体から移管されたプロジェクトの売上比率が高く、当初の戦略からはズレがある。また、FJMの広瀬社長が「(FJMは)SEの絶対数が少ない。SEに依存しない形に変えていく必要がある」と認める通り、FJMの技術部隊は運用・保守に強く、システム開発においては富士通本体からSEを調達する必要があることも構造的な課題となっていた。
 
主要子会社の本体統合には否定的な姿勢を示した
時田隆仁社長

 複数の富士通関係者への取材を通じて得られた情報を総合すると、田中体制下のグループフォーメーション改革では、富士通本体とFJMを統合し、企業規模を問わずIT需要が旺盛な首都圏にリソースを集中。一方、地方の中堅民需ビジネスはFJMがこの9年間で築いてきた地域パートナーとの関係をベースとし、グループおよびパートナー網全体のリソースを最適化する計画だったようだ。2月当時にFJM社長だった北岡氏は、富士通本体の動きを先取りする形で、新しいデジタルテクノロジーを活用したDX事業に注力する方針を説明(本紙1765号)。デジタルビジネスに精通したDX専門の営業・SEの育成が富士通の生き残りには必須との考えを示すとともに、この時点でFJMの本体統合が念頭にあったとみられる。

 一方、富士通本体にDC事業が吸収されたFIPはSaaS中心のサービス提供を軸に再始動を図っているが、こちらも本体への統合が前提だったとすれば、リソースの最適化は道半ばで途切れた格好となる。

 今後グループ内で目玉となるのは20年1月に設立予定のDX新会社と考えられるが、DX時代に顧客から期待される新たなテクノロジーへの対応やスピード感のあるサービス提供を可能とし、なおかつ収益性も高めていくとなれば、過去のプロセスも含めたグループ戦略の再検証・評価は不可欠だ。グループフォーメーション改革の実施について、富士通から公式に撤回が表明されたことはないが、実際には時田社長の体制となって以降、その勢いは後退している。株主・従業員・パートナーといったステークホルダーに見える形で、今一度富士通グループのあるべき姿を提示するべきではないだろうか。