シスコシステムズは約20年ぶりに、パートナープログラムを全面刷新する。ITインフラ／ネットワークのソフトウェア・デファインド化やマネージドサービス化が進むにつれ、SIer、NIerなどのパートナーに求められる付加価値の形は変わりつつある。顧客のデジタルトランスフォーメーション（DX）やデジタルテクノロジーを活用したビジネスの成功に、パートナーがより直接的かつ本質的な貢献ができるようにすべく、エコシステムの変革を加速させる。（本多和幸）

　シスコの現在の成長戦略のポイントをおさらいすると、まず既存製品・サービスについては、通信事業者やエンタープライズ・公共、SMBといったユーザー層ごとに戦略を細分化するとともに、運用管理の負荷やコスト低減の需要を踏まえ、マネージドサービス型の商材も整備。顧客基盤のさらなる拡大を図る。

　一方で、新しい製品やテクノロジーによる新市場開拓も進める。さらに、カスタマーサクセスの取り組みやDXの支援など、“テクノロジー活用による顧客のビジネスの成功”に、よりダイレクトに貢献することを重視する戦略を打ち出している。大中裕士・専務執行役員パートナー事業統括は「いずれもパートナーとの連携を深めなければ実現できないが、パートナーの役割も変わってくる」と話す。

　シスコは「今やネットワークはソフトウェアシステムであり、導入したハードウェアをソフトウェアで高度化するアーキテクチャーにシフトしている」というメッセージを前面に押し出している。それに伴い、彼らの製品やサービスをマネージドサービス型で提供できる環境も整ってきた。シスコの成長をけん引してきた既存のパートナーは、ハードウェアの再販や導入・運用支援、保守のために必要なエンジニアを揃え、例えばネットワークの設定変更などがあれば、そうした人材を顧客の拠点に派遣してきた。しかし、このモデルでは価値を生み出せない構図になりつつあるのだ。

　そこでシスコは近年、ネットワークエンジニアのスキルシフトを進めるべく、シスコのソリューションをユーザーのビジネスに最適化するためのソフトウェア開発スキルを向上させるプログラム「DevNet」を開始している。また、パートナーがカスタマーサクセスに力を入れるための支援施策も展開。今春には、シスコ製品の顧客情報、契約状況、ソフトウェアの更新情報、インセンティブやリベートの情報などをシスコとパートナーがリアルタイムで共有できるダッシュボードも提供する予定だ。

　新たなパートナープログラムはこうした事業環境の変化に追随したものだ。従来のパートナーをいったん全て「インテグレーター」にカテゴライズした上で、MSPパートナーの「プロバイダー」、シスコ製品をプラットフォームとしたソフトウェア開発を行う「デベロッパー」、コンサルティングファームとの協業を想定した「アドバイザー」という新しいカテゴリーも設け、計四つのカテゴリーに再編する。また、それぞれのカテゴリーごとに、ゴールド、プレミア、セレクトというランク分けをして認定する。大中専務は「これまではシスコ製品をいくら売るのか、販売や運営・保守のためのリソースがどれくらいあるのかといった基準でパートナーのランクを認定していた。刷新後は、ソフトウェア開発のスキルやカスタマーサクセスのための組織・人員整備などもセットにして評価・認定することで、顧客のDXやデジタル化に貢献するための能力を可視化できるようにした」と説明する。

　現在、同社のパートナーは約2000社だが、今年12月末までに全パートナーの新パートナープログラムへの移行を完了させたい意向だ。