富士通グループでスキャナやキオスク端末などのハードウェア製造を担うPFUは、本業のハード製品で利益を伸ばせるビジネスモデルへの移行を図る。従来のSI的な手法によるソリューション・サービスで付加価値を高める路線からの転換となる。顧客が抱える経営課題をPFUが持つハード製品で解決することを重視。営業体制や製品企画、開発をプロダクトごとに一本化し、ハード製品を軸としたソリューションに焦点を絞ることで利益率を高める。長堀泉社長は「SIを主力とする“小さな富士通”ではなく、PFUならではのハード製品を起点としたソリューションに軸足を移す」と、原点回帰とも言える経営改革を推進する。
(安藤章司)
長堀 泉 社長
ハードウェア製品と付随するソフトウェアの販売だけでは利益率が限られることから、近年のPFUは個別のシステムを構築するSI的な手法によるソリューション・サービスを伸ばしてきた。だが、ここ数年の売上高はほぼ横ばいで推移。今回、ハード製品を軸としたソリューションに転換することで停滞感を打開し、持続的な成長につなげる。
主力のドキュメントスキャナを例に挙げると、紙文書のデジタル化によって生み出される価値と製品価格が連動するよう、製品を軸としたソリューションや価値創造に力を入れる。長堀社長は「持ち前のスキャナの技術をどのような製品に仕上げれば、顧客にとってより多くの価値を生み出せるのかを追求していく」と、スキャナを製造しているメーカーにしかできない価値創造や解決策を前面に押し出す。
過去を振り返ると、製品を販売したあとの価値創造の部分をうまくPFUの収益に結びつけられなかった経緯がある。PFUの製品を仕入れてソリューションに仕上げたSIerとうまく利益をシェアする関係を築けなかったことから、PFUは自身がソリューション・サービスの領域に乗り出した。しかし、ハードウェアの特徴を十分に生かせないSI案件まで手を広げてしまい、強みを価値に換えるビジネスモデルが構築できなかった。
長堀社長は今年4月にPFUのトップに就任。富士通総研や富士通でデジタル変革分野を担当し、DX専門子会社のRidgelinez(リッジラインズ)の立ち上げにも関わったキャリアを持つ。就任からわずか3カ月後の7月には営業部門をスキャナやキオスク端末といった製品ごとに分け、製販一体の組織へと変更した。
従来は全社の製品、ソリューション・サービスを営業本部がとりまとめる体制だったが、「製品軸で顧客の課題を解決でき、専門的な知見をより深められる体制に変えた」(長堀社長)。ハードウェアメーカーの強みを生かせる範囲に特化してソリューションを再構築する準備を整えた形だ。
顔認証付きカード読み取り端末では、マイナンバーカードと顔認証の組み合わせで本人確認ができる機能を実装。医療機関や薬局で保険資格を確認する用途で開発したものだが、顔写真のみで顔認証のデータベースを構築できることから、試験会場のなすまし防止や職場の入退室管理などセキュリティ領域にも応用が見込める。セキュリティ関連では不正接続を防止するアプライアンスも開発している。
PFUの目下の主力ハードウェア製品は、ドキュメントスキャナやキオスク端末、顔認証付きカード読み取り端末、セキュリティアプライアンスなどで、昨年度(2021年3月期)連結売上高1345億円のうちスキャナ関連が3分の1を占めた。スキャナは海外売上高比率が8割を占めるなど国際競争力が高くPFUの主力製品となっている。今年度売上高は前年並みを見込むが、製品軸のソリューションの幅を広げることで利益面では増益を目指す。