日鉄ソリューションズ(NSSOL)の5カ年中期事業方針の初年度(2022年3月期)は、良好なスタートダッシュとなる見通し。データ活用を起点としたビジネス変革を“成長領域”と位置づけ、25年度までの5カ年で同領域の売上高を昨年度(21年3月期)と比較して1.5~1.6倍に相当する1500~1600億円に伸ばす。成長領域はいわゆる“DX”と呼ばれる領域と重複する割合が多くを占め、「昨年度後半から勢いが盛り返してきたDX需要の拡大が追い風になった」と森田宏之社長は話す。
(安藤章司)
森田宏之 社長
森田社長は「22年度に向けて“DXを本格的に展開する年”になる」と手応えを感じている。コロナ禍初期の20年度上期は、進行中だったプロジェクトが相次いで一時中止や延期になりDX需要の後退が懸念されたが、その後、急速にDX需要が盛り返した。需要の中核と捉えているのが、データ分析を起点とした経営革新で、同社では強みとする製造業や社会インフラ領域でのビジネス拡大を推し進めている。
今年度上期(21年4~9月)には、製造業向けDX関連サービスを集約したブランド「PLANETARY(プラネタリー)」を立ち上げたほか、直近では電力の小売業向けの電力取引・リスク管理サービス「Enepharos(エネファロス)」を22年5月をめどに始める。
Enepharosは、国内700社余りの電力小売りの登録事業者を対象に、電力取引価格の変動リスク管理システムをSaaSで提供するもので、金融工学で培ったデータ分析の知見を生かし、電力リスク管理のノウハウを持つアストマックスと協業して提供する。
PLANETARYをはじめとする製造業向けDX領域は、NSSOLが日本製鉄向けのDXプロジェクトで得たノウハウや知見を最も生かせる領域。IoTやウェアラブル端末などから吸い上げたデータを分析し経営に生かす仕組みの提供や、それらを活用したDXプロジェクトの推進支援を柱に据える。PLANETARYの投入によって製造業向けDX領域で25年度まで年平均10%余りで伸ばし、同領域の売上高を750億円程度に伸ばすことを視野に入れる。中期事業方針で定めた成長領域の売上高が25年度に目標の1600億円に達したとすれば、うち製造業DX領域が半分近くを占める見通し。
成長領域は、製造業DX領域の他にネットビジネス事業者などに向けた「プラットフォーマー支援」、生産性を高める「デジタルワークプレイス構築」「ITアウトソーシング」で構成されており、「製造業DXとプラットフォーマー支援が先行して伸びて、その後にDX関連プロジェクトで構築したシステムの運用フェーズでITアウトソーシングの需要が拡大する」と、森田社長は見ている。今年度(22年3月期)の全社売上高は、成長領域が牽引するかたちで前年度比7.1%増の2700億円、営業利益は同12.8%増の277億円を見込む。
課題は旺盛なDX関連需要に応えられるだけの人的リソースが逼迫しつつあること。DXプロジェクトでは、ユーザー企業とITベンダーが共に強みを持ち寄って価値を創り出す“共創”形態が主流になり、ユーザー企業自身がプロジェクトで主体的な役割を担うとされている。従来のようにITベンダーに外注するのではなく、企画立案から設計までの内製化が進む見込みだが、「内製化がイコール自製化とはならない」と森田社長は話す。企画設計まではユーザー企業とITベンダーが二人三脚で進めるが、その後の開発工程はITベンダーが請け負うことになると見る。
共創領域のDXに精通した人材を育成するのはもとより、開発工程を担う人材の頭数を揃えることも重要になっており、NSSOLでは全国に分散した開発拠点をオンラインで結んで、アジャイルからウォーターフォール方式までさまざまな開発手法に対応可能な人材増強に力を入れることで、中期事業方針の目標達成を目指していく。