不動産業の集客の手法というと、ポストへの投函、新聞での折り込み、店頭での貼り付けなど、「チラシ」を中心にしたものが多い。家や土地の売買の営業になると、勤務先への営業電話や路上でのアンケート、1軒1軒を個別営業するシーンも見られる。最近、変化は起き始めているが、まだまだアナログの業界ということもあり、なかなかデジタルが活用されていない。
ある不動産投資業での事例だ。その会社ではオフラインのセミナーや展示会などでのアンケートに記載している勤務先への電話営業が中心だった。セミナーに参加し、展示会でアンケートも出しているということで、それなりに興味を持っている顧客という仮説があったが、電話営業でのアポ取りに苦労していた。2~3割のアポイントを取れれば上出来で、そこから成約までは道のりが長い。また、商品の金額も高いこともあり、成約までに時間もかかる。
デジタルが身近になってきたことを踏まえて、若手社員を中心に、Webを使った集客を試みた。Web検索で「不動産投資とは」というキーワードで検索をする人は、傾向としては、興味があるのでとりあえず調べているだけだが、「不動産投資 アパート経営 サラリーマン 副業」と細かいワードで検索をする人は、より真剣に考えている、角度の高い顧客という傾向が見えてきた。結果的には、Webサイトを利用した集客をすることで、10倍以上の問い合わせを獲得できるようになった。
まずはWebサイトが必要だ。自社スタッフでサイトを作ることができれば一番いいが、大抵は開発会社に発注をする形になる。安価で制作できるところもあるが、相場感でいうと50万~100万円になる。ページ数が多かったり、トップページで動画を入れたりする演出が多くなると費用が積み重なってくる。ここで注意しなければならないのは、どんなサイトを作りたいかイメージを持つことだ。
よくある失敗が、形になってテスト版を見た後に、これをこうしたいとか後付けのリクエストが発生し、追加費用が発生することになり、“言った・言っていない” “聞いた・聞いていない”という論争が起きることもある。さらにリリース時期にずれが出てしまう。発注する側と発注される側との信頼関係も崩れてくる。多少、予算は掛かってしまうが、間に入ってやりたいことを通訳してくれたり、制作完了後の体制を考えてもらったり、進行や情報を整理したりする人はいた方がいい。
そして、Webサイトの完成がスタートだ。名前が知られている企業やサービスでなければ、Webサイトを訪れない。Webサイトを見てもらうための動きをしなければならない。それがSEOや広告になる。SEOだと時間が必要になり、広告は予算が必要になる。そこで、この会社では初期段階で広告を中心にプランニングしていた。
広告を実施するためには、予算が必要になる。しかも、“成功の角度を高める”ことはできても“確実”ではない。“確実”に近い形にするためにランディングページの用意が必要になる。広告で訪れたWebユーザーに、商品やサービスのメリットを理解してもらって、迷子にならずに、資料請求なり問い合わせなりをできるようにする必要がある。なお、Webサイトの制作とは別に30万円前後の予算が掛かってしまうのが注意点だ。ただ、広告から訪れた顧客を他に出口はなく一本道でゴールに向かわせることは角度をより高めるための施策になる。
Webサイトを持つということは、その会社・サービスの認知を高めるメリットもある。名刺代わりになるし、営業をしなくても向こうから情報収集をするためにやってくることもある。ただし、何も知らない人間が手探りでやるのは非効率になることも多いので、専門的な人間に手伝ってもらうことを勧める。
■執筆者プロフィール

森 和吉(モリ カズヨシ)
吉和の森 代表取締役 ITコーディネータ
1970年青森県八戸市出身。94年立正大学卒業後、郵便局勤務などを経て、99年オリコンに入社。音楽雑誌の編集からウェブサイトの運営を担当する。その後、ソーシャルゲームやメーカーや流通、不動産投資会社でウェブマーケティング事業に取り組み、19年に吉和の森を設立。ウェブ解析士マスター、チーフSNSマネージャー、提案型ウェブアナリストなどの資格も持つ。