「購買手段のデジタル化」は浸透しつつある。その一方で、購買時に「どのような観点を重視していたのか」「どのような体験をしたかったのか」といった“顧客心理の理解”については未だ黎明期のままである。そこで、具体的な顧客の声を分析する前に現代の消費者はどのような購買行動をしているのかを深堀りしていく。
購買プロセスにおける「タスク」と「ペイン」
これまでAIDMA、AISIS、SIPSなどの消費者の購買行動モデルにより「人は購買時にどのような工程を歩むのか?」が定義されてきた。ここでは、より細かな行動を把握するために、もう一歩踏み込みプロセスをタスクレベルに分解し、各プロセスでどのようなペインが生じているのかを整理し、その上で、どのような取り組みが消費者にとって有益になるのかを考察してみたい。
各購買プロセスで生じるタスクとペインポイント
「初期検討」におけるタスクとペイン
まず商品に触れ、感情が動いたら、その商品が属するカテゴリを認識し、どのような観点で比較するのかを理解する。ここで消費者にとって最大のペインとなるのは「一般的にこの商品がどのようなジャンルに位置付けられるのか不明」であるため、この時点でプロセスを進ませるために競合の情報を排除せず、他商品と比較できる土壌づくりを支援することが重要だ。
「比較検討」におけるタスクとペイン
消費者は口コミや店舗での実物確認をしながら基準や商品を絞り込みしつつ、新しい商品を見つけたら絞り込みのブラッシュアップを繰り返す。ここでのペインは「比較検討にかかる労力」、特に「自分の場合は何で評価すべきかのかが判断できない」である。そのため、タイプ別のモデルケースとそれぞれごとの比較基準を提示するといった取り組みが効果的である。
「購入」におけるタスクとペイン
その後、個々の状況に応じてチャネルと決済手段を選択し、購入手続きを行う。ここでのペインは、特にオンラインでの「購入手続きの手間」である。ECサイトごとにページ遷移の流れやUIは異なるため、消費者が思い描く前提とかみ合わず、探す手間や分からないイライラを生じさせることもしばしばある。そこで、ヘッダー部分に作業ステップを固定表示させ「いま購入フローのどこにいて何の作業をしているのか」がすぐに分かるようにするといった作業フォローが有効であろう。
「評価」におけるタスクとペイン
商品の使い心地やサポート体制の印象を受け、消費者は評価(再購入に値するか否か)を下していく。ここでのペインは「期待値を下回る商品の使用感またはサポート」だ。特に家電や家具は高額になることも多いため、サポートに対する期待値も当然高い。そこで、ここでは「あえて能動的なサポートを仕掛ける」ことが実は非常に重要となる。通常、問い合わせは故障や不明点が生じた際にユーザ起点で行われるが、その時点で既に満足度は一定程度低下し、ネガティブな心理状態にあるため、丁寧に応対しても却って火に油を注ぐことになりかねない。
しかし、あらかじめ商品のアドバイスやフォロー連絡を購入直後から定期的に受けていた場合には、純粋な相談相手としてフラットな感情で連絡してくることが想定されるため、結果的にスムーズにトラブルも解決でき、顧客エンゲージメントもさらに高めることが可能になるだろう。
具体的な要望は顧客の声(VoC)にある
では、具体的に消費者はどのようなことで困っているのか。例えば、比較検討のフェーズで「どのような情報がないことで検討しづらいのか」、評価のフェーズで「どのようなサポートに不満を感じたのか」などが挙げられる。このようなことを深掘りしていくことがポイントとなる。
■執筆者プロフィール

岩澤信一郎(イワサワ シンイチロウ)
NTTデータ経営研究所
ビジネスストラテジーコンサルティングユニット マネージャー
通信業や小売業を中心にBtoC商材における、セールス・マーケティング・カスタマーサポートなどの顧客接点におけるデジタルトランスフォーメーション、新規事業立案、消費者インサイト分析に従事。