近年、外食業界では人手不足や非接触対応などによって、店内MO(モバイルオーダー)の導入が進んでいる。店内MOに参入する企業も増え、POS連携やLINEミニアプリ化など、付加価値の生み出し方もさまざまだ。今回は店内MOの実情を深堀しながら、DX化アプローチの余地について提示したい。
外食業界における店内MOの実情
人手不足で「お客様にオーダーを聞く」という業務を削減するため、店内MOを導入するケースが多い。特に食べ・飲み放題の場合、注文が五月雨で来ることが多く、そこに大切なリソースを割かれてしまうことを店舗は避けたい。また、店内MOは比較的歴史が浅いサービスということもあり、導入してみたが思っていたものと違うということも多々ある。例えば、店舗のネットワーク回線に依存して、注文が通らず遅延するといった事象も発生することもある。特に無料Wi-Fiを提供している店舗だと、来店客が増えていくとともに回線が細くなっていき、一番重要な繁忙時間帯にトラブルになるということもある。来店客が導入している店内MOのサービスで店を選ぶことはないが、店全体の印象によって再来訪が期待できないこともあるだろう。
店内MOで受けたオーダーをそのまま会計処理するためには、POSへの連携が必要となってくる。だが、どのPOSと連携できるのか、というのは企業によって大きく異なる。投げ銭やクレジット決済、レコメンドなど、さまざまな機能が増えてきているが、導入したいサービスが店舗で導入しているPOSに連携していないということも多い。ただ忘れてならないのが、食べ飲み放題のオーダーであればPOSに連携しなくても成立することだ。あくまでユーザーが注文したものをオペレーションできれば十分であり、そうなるとPOS連携が必須とならないケースもあるということだ。
店内MOを考える際には、来店客が座席に置かれたタッチ画面式の端末で注文を行うTTO(テーブルトップオーダー)とのすみ分けも忘れてはならない。外食業界ではTTOの導入が先行して進んでいた。特に回転寿司や焼肉店では特急レーンを導入している場合は必然的に選択肢がTTOになってしまう。が、TTOの場合は来店客に操作が委ねられてしまうため特定のアプリケーションのみしか動作させないなどのキッティングが必要となり、端末代金も含めるとイニシャルコストが高くなってしまうのがネックとなる。そのため、TTOではなく店内MOを選択するもしくは店内MOに切り替えるというケースも増えてきている。
店内MOに求められるものとは
店内MOに求められる機能については「オーダーをスタッフに代わって受ける」「注文データを蓄積し活用する」の二つがある。
「オーダーをスタッフに代わって受ける」というのは機能に置き換えると、店の商品やオプションを適切に注文できるということはもちろんのこと、選んだコースによって選べる商品が異なったり、アレルギーや商品の売りや補足説明したり、おすすめ商品を表示したり、セットで注文すると良い組み合わせをサジェストしたりと多岐に渡る。このあたりは人だと臨機応変に柔軟だったものがシステム制御になると、設定や仕様に縛られてしまうので、今後の拡張に期待される部分ではある。
「注文データを蓄積し活用する」はまだまだの領域でこれからどうなっていくのかが問われるところである。どの商品がどれくらい売れるのか、何をおすすめにすると良いかなど、今まで店長の経験でやっていたことをどのように“見える化”していくのか。顧客データや注文データ、行動データ(来店日時・頻度など)をインプットとして、いかに客単価アップのための施策や新メニュー企画、時間帯別施策などにつなげていくのか。今後のデータ活用が期待される。
今後、店内MOはどうなっていく?
店内MOは今後、二つの方向で進化をしていくものと考えられる。一つは注文に特化した機能の拡充である。「人に代わって」というところから進化をして、「人では到底できない」領域にまで試行錯誤を重ねながら、進んでいくことだろう。売り上げに直結する領域であるがゆえにそのスピードも速いだろう。もう一つは注文に付随する別業務への拡充である。注文された食事は調理していく必要があるが、ちび券(キッチン伝票)やキッチンディスプレイなどで行っていたことを、どのように店内MOで制御していくのか。従来はPOS側で制御している部分が大きいが、POSに依存することなく店内MOを自立させるためには、そのあたりの機能も拡充されていくのではないかと思われる。
POSと連携しなくても費用対効果が高いことから、店内MOが導入されるケースが今後も増えていくと思われる。POSとの連携を強化しながら、POSなしでも店舗オペレーションできるように進化を続けていく店内MOからしばらく目が離せない。
■執筆者プロフィール

左川裕規(サガワ ヒロキ)
イデア・レコード 取締役
早稲田大学卒業後、広告会社へ入社。マーケティングプランナーとして従事。家電メーカーや大手通信会社、商業施設などのプロモーション戦略や、Webサイト構築を担当。その後、NRIネットコム(現)に入社。WebテクノロジーとUXの設計構築コンサルタントとして、大手証券会社のWeb戦略、国内流通産業大手のインターネットマーケティング戦略、 ネット損保のWebプロモーション戦略に参画。2016年、イデア・レコードに入社。