近年、外食業界では業務内容の専門化や人手不足、労務問題などによって、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)が進んでいる。もちろん管理や更新を一括で行うようなサービスも増えてはいるが、ツールはあくまでツールであって人の手による作業も多く残っている。今回はBPOが担っている業務領域を深堀しながら、DX化アプローチの余地について提示したい。
外食業界におけるBPOの実情
従来、集客や電話などの業務はアウトソーシングしなくても店舗や本部側で対応できていた。ところが、ここ数年でGBP(Googleビジネスプロフィール)やオウンドメディア/グルメ媒体の細かいメンテナンス、SNS、LINE、ネット予約調整、モバイルオーダーなど、行わなくてはいけない業務が一気に拡大し、そこに人手不足が追い打ちをかけ、BPOに頼らないと厳しい状態になっている。大手企業でも集客やシステムの運用が個人に依存しているケースは意外に多く、根が深い問題でもある。
BPOの領域は「人手が足りない業務」と「専門領域のためプロに依頼したい業務」に分けられる。電話対応は店舗対応ができない場合は本部スタッフでカバーすることもあるが、対応に追われてしまい本業に影響を及ぼすこともある。成果が求められる広告は、担当者の経験に依存し、想定以上に工数を奪われ、結果も出せないということも起こりえる。
BPOでは「外食企業側が主となってやるべきタスク」「リソース次第でアウトソーシングするべきタスク」「アウトソーシングするべきタスク」に分類することが大切といえる。
外食の根幹となる出店計画や商品開発は、飲食店側が主となる方が良い。もちろんコンサルティングを活用していくことも必要ではあるが、最終的な判断は他人任せにはできない。採用やマーケティング、店舗オペレーションについてもスピードやノウハウの蓄積を考え、主となるべき領域である。これらは会社運営における影響度が大きく、外部任せにするべきではない。
電話やCRM、SNS、予約在庫メンテナンスなど即時性が求められる業務については、できるだけ社内で対応した方が良い。ただ、スキル・経験含めて対応できるリソースがないと厳しい。メニューブックなど売り上げに直結する制作物は専門の制作会社に依頼することも必要だ。
広告運用やMEO、グルメ媒体・オウンドメディアの運用については、専門性が求められ、工数も想像以上にかかるため、アウトソーシングを活用して、管理に徹する方がうまくいくケースが多い。もちろんノウハウを社内で蓄積していくためには、詳細な作業報告やレポートを細かくレビューしていくことも欠かせない。
BPOの成功に必要なものとは
BPOの成功には、「工数が0になるわけではないこと」と「最終判断を委ねないこと」を認識することが重要となる。特に初期段階では期待通りのパフォーマンスが出るわけではなく、担当者によっては自分がやった方が早いし楽という感覚もある。しかし、必要な情報や素材の連携や、会議体や報告セット、フォーマットなどを整備していこうとすると意外に手間がかかる。アウトソーシングする相手先が増えるほど管理工数は増えていくため、それらをおろそかにすると成果に結びつかない。
また、近年の人手不足はアウトソーシング先でも起きていることも留意が必要だ。特に知識やノウハウを持った人財が枯渇しており、実績のある会社に発注したつもりだったのに、担当者の経験が足りていないため、結果が出ないという話もよく聞く。
何を期待して依頼するのか、そのための業務分担の明確化と必要なインプットとアウトプットの整備が肝となる。
BPOの先にあるもの
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の進化とともに、業務効率は格段に向上している。しかし外食業界では、まだまだ熟練の職人的なスタッフが暗黙知で行っている業務がある。例えば、マーケティングでは要因が複雑に絡み合っているため、数値自体はとりまとめられるが、そこにどんな意味があり、どんなアクションをすればいいのかまで導くのは誰もができるわけではない。教科書的な理論だけでは、机上の空論に終わってしまう。
“職人”が無意識にやっていることを言語化することが求められている。経験の浅い担当者が熟練のスタッフと同様の成果をあげられるようにするために何が必要なのか、それをひも解き、いかに実現していくのか、外食業界に携わる企業が見据えるべきところはそこにある。
そして近い将来、複数のサービス間の連携が大きな課題となってくるはずだ。各社が独自にシステムを構築し、特定のサービス間でのみ連携している状態なので、「連携できればいいのに」がいろいろなところで起きている。基幹システムとの連携では、データ連携プラットフォームが活躍をし始めているようであるが、いわゆるフロント部分の連携についても各社のものを縦横無尽に結びつけるものができると、外食業界が一気に変わるであろう。
■執筆者プロフィール

左川裕規(サガワ ヒロキ)
イデア・レコード 取締役
早稲田大学卒業後、広告会社へ入社。マーケティングプランナーとして従事。家電メーカーや大手通信会社、商業施設などのプロモーション戦略や、Webサイト構築を担当。その後、NRIネットコム(現)に入社。WebテクノロジーとUXの設計構築コンサルタントとして、大手証券会社のWeb戦略、国内流通産業大手のインターネットマーケティング戦略、 ネット損保のWebプロモーション戦略に参画。2016年、イデア・レコードに入社。