「処理速度が遅すぎて話にならない。今のアーキテクチャでは、騙し騙し使っても、あと2-3年が限界」
ゲームは、プレーヤーの判断で刻々と展開が変わり、毎秒60コマという猛スピードで物語を描写する。主人公や脇役、舞台背景、音楽、台詞などの要素データを、1枚のDVDから途切れることなく読み出し、重ね合わせて、映画のような連続性をもたせる。櫻井さんは、このミドルウェアの開発に従事する。
「フルCG映画『ファイナルファンタジー』品質の映像を毎秒60コマで描くには、最新ゲーム機の10-100万倍のCPUパワーが要る。これを実現できるのは何十万個とCPUを並べた超並列コンピュータだけ。次世代ゲームは、クソ遅い端末に依存せず、並列コンで演算を肩代わりするアーキテクチャになる」
頭が痛いのは、並列コンで、どうやって毎秒60コマの美しい映像と音声を、リアルタイムで吐き出させるのか。預貯金処理のように、コボル的な単純演算ならともかく、毎秒60コマの高速リアルタイム処理は、まだ誰もやったことがない。
「理論的にはできる。ただ、実際に何十万個もあるCPUにどう遅延なく同期を取りながら命令を出すのか。現状では、せいぜい4-5個が限界。将来、量子コンピュータに移行したら? ライフワークは、まったく新しい言語、アーキテクチャを考え出すことです」
若きソフトウェア技術者の決意だ。
プロフィール
(さくらい あつし)1974年、岐阜県各務原市生まれ。92年、名古屋大学工学部入学。電子工学専攻。00年、同大学院卒業。大学院では並列コンピュータのアルゴリズム、画像処理技術などを研究。同年、CSK総合研究所(現CRI・ミドルウェア)入社。同社が開発した音響・映像用のミドルウェアは、すでに100タイトルを超えるゲームが採用。事実上の標準アーキテクチャの地位を獲得した。