IBMは、昨年、「PureSystems」を発表した。ITシステムにパラダイムシフトを起こすという触れ込みの垂直統合型アーキテクチャである。柴田直樹は、同社が力を注ぐこのコンピューティングシステムを中心に、製品の魅力をさまざまな立場の人にわかりやすく伝える役割を担っている。
今、柴田が注目しているのは、国内の製造業市場だ。「製造業は依然として日本の主要産業であり、それを支えているのは中小企業。彼らに世界で戦うことができる競争力をつけてもらうために、IBMとして何ができるかを考えている」と力を込めて話す。日本の社会・経済全体を浮揚させる後押しをしたいというわけだ。
しかし、IT予算が潤沢ではない中小企業に同社の製品を導入してもらうには、高いハードルを越えなければならない。当然、エバンジェリストとしての案件支援も難易度が高いミッションだ。柴田は「ソフトウェアなどと違って、IBMが提供するシステム製品は値段が高くて地味」と苦笑する。
そのネックを解消するために、独自のプレゼン手法を模索した。顧客が抱えるリスクについて仮説を立て、それを顧客にぶつけて本音や本当のニーズを引き出す。そして課題解決のストーリーを提示する。「中小企業では、システム製品に関心がない担当者も多い。まずは話を聞いてもらえる環境を整える必要がある。今はこれこそがエバンジェリストの仕事だと考えている」。
柴田が構築する仮説は、顧客自身が気づいていない引き出しすら開ける強烈なフックだ。工業高専で土木を専攻し、建設コンサルタントでキャリアをスタートした異色の経歴だが、IT業界に身を置いてからはピュアなSE指向だったという。その経験で育まれた「現場感覚」が、彼の仕事の拠り所だ。(文中敬称略)
プロフィール
柴田 直樹
柴田 直樹(しばた なおき)
1973年生まれ。工業高等専門学校で土木工学を学んだ後、建設コンサルタント会社に就職。その後、ITベンチャーを経て、2001年からハードウェアメーカーでHPC関連のエンジニアを務める。2007年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。SEとしての業務とともに、書籍執筆や大学での講義もこなす。2010年12月に日本IBMに移籍。現在は、垂直統合システム「IBM PureSystems」のエバンジェリストとして、イベントやセミナーの企画や講師、ウェブ媒体への記事執筆、案件支援などを担当している。