サン・マイクロシステムズ
「MySQL」などのDL数急増 サン・マイクロシステムズの日本法人によれば、「Solaris」の無償版やデータベースの「MySQL」のダウンロード(DL)数が、国内で飛躍的に伸びている。「Solaris」や「MySQL」だけではない。商用版オフィスソフト「StarSuite」の無償版「OpenOffice」は、SIビジネスでの適用も増えているという。とくに、リッチクライアントを必要としない大学や自治体の案件で採用されるケースが目立っている。
急速な成長の理由について、田中克哉・ビジネス推進&アライアンス営業部長は、「基幹システムをバージョンアップする際にかかる“高コストの呪縛”から逃れたいという意識が強まっている」と分析。「ユーザー企業やSIerが抱えていたOSSに対する不安は解消され、信頼も獲得し始めた」とも説明する。国内では、NECなどの大手コンピュータメーカーがOSSの保守・サポートやSI事業の体制を強化したことで、OSSで構築したシステムで万一トラブルが発生した際も障害復旧やサポートが受けられるという安心感を与えることができているようで、それがOSSの普及を後押ししているのだ。
田中部長は「経済環境が悪化し、ユーザー企業にはコストを徹底的に削減したいという思いが共通意識としてある。ミッションクリティカルなシステムでは、バージョンアップ費用などが膨大になるが、OSSを採用することによって将来的な運用コスト軽減を図っている」と説明。サンでは、無償版の普及を促進し、パートナーと共同で付加価値機能を搭載した商用版のライセンス販売やサポート料金を得る「ストックビジネス」の拡大を目指している。
ディストリビュータ大手2社
Linux好調、今後にも期待 ソフトバンクBBでは、サーバー向けLinuxの販売が好調だ。米リーマン・ブラザーズが破綻し、世界同時不況が始まった昨年10月から安定して販売が伸びている。「大規模なユーザー企業が新システムで活用するケースが増えているようで、SIerからの引き合いが強い。SIerがコスト削減を前面に打ち出して提案していることが奏功しているようだ」と加藤丈晴・コマース&サービス統括コーポレート事業推進本部MD第2統括部ソフトウェアマーケティング1部2課課長は分析。不況が引き金となった需要増加を肌で感じている。
商用Linuxは複数ベンダーが販売しているが、ソフトバンクBBで受注しているLinuxディストリビューションはレッドハットがトップだ。「ブランド力に加え、認定資格者と対応ソフトの多さ、サーバーの新モデルへの対応が早いことが優位点」(菅野信義・ソフトバンクBBコマース&サービス統括CP事業推進本部MD第2統括部統括部長)で、他社を引き離しているという。
一方、ダイワボウ情報システムでもLinuxのサブスクリプションライセンス販売金額が少しずつ伸びる傾向で、「今後も期待している」(猪狩司・販売推進本部販売推進部長兼マーケティング部長)。
Linuxは、サーバーOSでの利用は進むものの、基幹システムでの採用は相変わらず少ない。今後さらに普及させるには、「Linuxベンダーごとにバラツキがあるサポート内容を共通化し、どのLinuxディストリビューションでも同じ水準のサポートを受けられるようにすることが重要。同時に導入コストの明確化とアプリケーションの充実も不可欠」と前出のソフトバンクBBの菅野統括部長は指摘する。
ビジネスチャンスと感じてはいるが、現状ではサブスクリプションとサポートの販売だけで「伸びしろがない」(菅野統括部長)ともみており、従来にはない新たなビジネスの創出も検討している。
サイオステクノロジー
クラウドとの相性の良さに着目 サイオステクノロジー(サイオス)は、OSSを足がかりとしてクラウドビジネスを伸ばしたSIerだ。グーグルやアマゾンのクラウドサービスを活用したシステム構築ビジネスを立ち上げ、まずは文教市場で突破口を開いた。これまでに文教市場で構築に携わったクラウドシステムの累計ユーザー数は20万人を突破。国内SIerとしては最大規模を誇るまでに拡大させた。成功の要因として、サイオスが創業以来力を入れてきたOSSと、クラウドサービスベンダーの開発手法の相性が良かった点があるとみている。
グーグルやアマゾンなどのクラウドベンダーはOSSのビッグユーザーであり、OSSの開発コミュニティにも多く貢献している。クラウドに詳しいOSS技術者は、「『Amazon EC2』で使われるOSやデータベースの約8割はOSSが占める」と実情を明かす。
サイオスは、「Google Apps」向けのシングルサインオンシステムをOSSで開発。OSSコミュニティに参加する海外の他社エンジニアが同システムのプラグインを開発するなど、OSSならではの広がりをみせた。「Google Apps」は、電子メールやワープロ、表計算などのソフトをインターネットを通じて提供するWebサービス。サイオスはグーグルの技術者も参加するコミュニティ活動を通じて関連するソースコードを入手し、それをもとにソフトを改良・販売する。「Google Apps」を日本大学や立教大学、岡山大学などに納入し、教育機関向けの大型案件だけでも累計受注件数は16件に達する。「引き合いベースの件数はその2倍、直近1年で3倍に増やす」(喜多伸夫社長)計画だ。
同社では、国内のクラウド関連ビジネスが2012年で1兆円超えの市場規模に拡大すると予測。OSSをベースにクラウドSIの“ブルー・オーシャン”を切り拓く構えだ。
OSS単体でのビジネス拡大の努力も怠らない。7月1日、OSS活用によるコスト削減策を体系化した「OSSワンストップソリューション」を発表。従来のLinuxサポートに加えて、新たにOSSのデータベース分野も強化する。直近の全社の連結売上高は約58億円だが、向こう3~5年間で100億円の達成を目指す。
関心高まるも、課題あり
変化する環境に適した策を 再び関心が向くようになり、ベンダーや関連団体が活発に動き始めたOSS。だが、一方で課題もある。無償ソフトゆえの課題、成熟期に入ったからこそ生まれたビジネス環境の変化などだ。従来とは異なるサービスやビジネスモデルが求められるが、そこにはチャンスも秘められている。
OSSコンソーシアム発起人代表の渡辺剛喜氏は、以前から指摘されているOSS普及の課題がまだ解決されていないと指摘する。「保証やサポートの問題、ライセンス体系の複雑さがユーザー企業が導入する際の足かせになっており、ビジネスの壁になっているのは今も変わらない」。OSSコンソーシアムでは今後、「部会で話し合いを進めながら、解決策を探りたい」(渡辺氏)としている。 一方、Linuxの販売・サポートに強いある中堅SIerは、「Linuxディストリビューション、つまり、Linuxのサブスクリプションライセンスの販売自体では、競争力や付加価値がつけにくい時代になった。新たなビジネスモデルを創造する必要がある」とみている。また、ソフトバンクBBの菅野統括部長も「Linuxのライセンスとサポートの販売だけでなく、新たなビジネスをつくっていきたい」と同様の意見を口にする。
Linuxは普及しているとはいえ、まだ先進的な大企業がユーザーの中心。「中堅・中小企業(SMB)への浸透度はまだ低い」(SMBのIT市場動向に詳しいノークリサーチ)。OSSの特徴やメリットを広く伝えきれていないのだ。
こうした課題を解決することが、新たなビジネスチャンスを創造すると捉えることもできる。再び盛り上がってきた需要だが、市場環境は変化しており、今の時代に合った策が必要ということだ。
ミラクル・リナックス児玉崇社長の見解
“利益なき繁忙!?”のLinux
「ビジネス環境は大きく変わった」 OSSの利用範囲は間違いなく広がっている。代表的なOSSであるLinuxもかなりのシステムで活用されているはずだ。ただ、ユーザー数の増加がLinuxディストリビューション事業の伸長に結びついている要因になっているかといえば、そうではない。ビジネス環境が大きく変わっているからだ。
ミラクル・リナックス(ミラクル)の主な事業は、独自Linuxに付加サービスをつけて年間の利用料金を得るLinuxディストリビューションだが、このビジネス環境はむしろ厳しくなっている。ミラクル創業時の2000年頃は、Linuxの品質は今よりも劣り、精通した技術者も情報も少なかった。だからこそ、初期導入や運用をサポートするサービスでビジネスが成り立った。しかし、今は品質も向上し、エンジニアも増えた。ある程度の知識があれば、導入・運用はユーザー企業内の情報システム部門で対応可能になっている。つまり、有償サポートを必要としないユーザー企業層が増加しているのだ。Linuxディストリビュータの有償サポートがない「CentOS」のユーザ-企業が爆発的に増えているのは、それが理由だ。
あるサーバーメーカーの話では、サーバーの年間出荷台数のうち半分は、OSをプリインストールしていないモデルという。OS未搭載機種を購入するユーザー企業の大半は、「CentOS」を自らインストールして導入・運用していると推測している。品質の向上、技術者の増加が皮肉にもミラクルのビジネスを奪っている形だ。また、たとえLinuxディストリビュータのLinuxを活用したいと考えているユーザー企業がいても、ライバルのレッドハット製品を求めるケースが圧倒的で、環境は厳しい。
ミラクルはこうした環境を受けて、自社のLinuxディストリビューションだけでなく、OSS全体をサポートするようなサービスメニューを用意するなど方針を変えている。また、サーバー向けLinuxのディストリビューション事業を維持・継続しながらも、ネットブックや専用機器(アプライアンス)への組み込み用OSS分野を中期的な成長分野に掲げ、軸足を移している。(談)