販社編
販社に聞く「売れる商材」とは?
独自のサービス提供がカギ
メーカーが製品強化を図る一方で、販社はバックアップ関連事業の拡大に向けて、どのような商材が売れると判断しているのか。販社の声をまとめると、テープなどメディアによるリプレース需要の掘り起こしや、独自のサービスによる新規顧客の開拓などが挙がってきた。そこで、販社編では売れる商材や販社が独自に開発したサービスなどにフォーカスし、SMBに適したバックアップ関連の製品・サービスは何なのかを検証する。
売れる商材(1)メディア
簡単バックアップにニーズ
システム提案で利益を増やす  |
キング・テック 王遠耀社長 |
SMB市場には、テープなどメディアによるバックアップのニーズが根強く残っているようだ。キング・テックの王遠耀社長は、「バックアップ関連事業で売れているのは『LTO4』を中心としたテープ」としており、リプレース需要を確実につかんでいる。
この背景には、簡単にデータを保管しておきたいというニーズがますます高まっているという事情があり、「そういった意味では、テープに加えてUSB接続できる『RDX』も、需要を掘り起こす商材になり得るのではないか」とみている。
新世代規格として「LTO5」が登場しているものの、まだ「LTO4」が売れる可能性があるのは、すべてのテープユーザーが「LTO4」を活用しているわけではなく、「LTO3」を使っているケースも多いからだ。しかも、「徐々にではあるが、SMBがIT関連の設備投資を進めるようになってきた。この点からも、まずは手頃な価格のテープを購入する傾向が高まるだろう」と分析している。
キング・テックは、現在、バックアップ関連事業だけをみると「前年と比べて横ばい、もしくは下がっている」と打ち明ける。市場でサーバー台数の減少が進むなかで、バックアップソフトの絶対的な本数が減っていることが要因という。しかし、「ITシステム全体の提供は伸びている。テープが売れているという点も踏まえると、バックアップ関連事業が伸びる可能性は十分にある」という。また、今後はバックアップ関連でクラウドサービスに対するニーズが高まると捉えている。「ソフトメーカーなどと共同でサービス化を実現し、需要を掘り起こす仕組みを作っていきたい」との考えを示している。
売れる商材(2)ワンストップサービス
サービス含めトータル提案へ
マニュアル化でニーズに対応 どの分野でも、単独の製品を販売するだけでは、事業の継続は難しい。価格競争に巻き込まれる可能性があり、利益を生まないビジネスに陥りかねないからだ。バックアップ関連の製品・サービスに関しても、単体では売るのが難しいという状況になっている。そこで、他社との差異化を図ろうと、独自のサービスに踏み切るケースが出てきている。
シーティーシー・エスピー(CTCSP)は昨年、「Smart Zero-One(スマートゼロワン)」と称するワンストップサービスを体系化。第一弾として、ストレージ関連でデータ・システム保護復旧サービスを提供している。
「Smart Zero-One」は、ITサービスの導入や再構築でユーザー企業が求めるソリューションの選定から移行、投資コスト、納期、ベンダー対応などのリスクをゼロにすることを狙ったサービスだ。同社の販社に対する支援を目的にサービス化したもので、ユーザー企業から挙がってくるニーズをマニュアル化しているのが特徴だ。これによって、構築費用の定量化や構築時間の短縮が実現するようになる。

CTCSP プロダクト推進チームの
井上悦義氏(左)と高島淳司氏
第一弾として提供を開始した「Smart Zero-One データ・システム保護復旧サービス」は、同社が蓄積した継続的データ保護(CDP)分野の技術をマニュアル化しており、データ保護をはじめシステム継続やクラスタリング・仮想化、DR(ディザスタリカバリ)など、4分野のサービスメニューを揃える。
同社は、バックアップ関連事業としてソフトを中心に製品を販売しており、「保守を含めると前年と比べてプラスに推移している」(プロダクト推進チームの井上悦義氏)ものの、ソフト販売自体の本数や金額は減少傾向にあるという。サーバー市場の縮小に加えて「仮想化用バックアップのライセンスは安いため」(同)というのだ。取り扱いメーカーは複数社の製品を扱っているが、「バックアップ製品に限らず、技術革新が進んでいるなかで、機能的にはどのメーカーの製品のさほども差はない」(同チームの高島淳司氏)のが実情。バックアップ関連の付加価値化に向け、独自のサービスを踏み切ったわけだ。
売れる商材(3)遠隔サービス
SMB中心にユーザー企業を3倍へ
「WANストレージライト」を提供 社内のデータ量が増え続ける一方で、企業にとっては災害対策や内部統制など事業継続体制の確立が重要な課題になっている。このような課題の解決に向けたサービスを提供しているベンダーがいる。
ワンビシアーカイブズでは、オンラインデータバックアップサービスとして「WANストレージライト」を提供。初期費用は無料で、50GBまでのデータ容量を月額料金3万8000円という安価な設定でSMBを開拓しようとしている。同サービスは、遠隔地にある同社のDCでデータをバックアップするというもので、伝送に必要な通信回線や専用ストレージをパッケージ化した。
他社でも同程度のサービスを提供しているケースがあるが、同社のオンラインバックアップサービスが他社と異なるのはオフラインのバックアップサービスも提供している点だ。オンラインで、自社のDC(データセンター)を活用してインターネットや閉域網など通信回線による自動バックアップするほか、障害時に専用車両でデータ配送といったオフラインサービスも用意しているのだ。
もともと同社は、官公庁や金融機関などの大企業向けに直販で同様のサービスを提供していた。SMB向け事業の着手を決断したのは昨年1月のことだった。SMB市場でバックアップのニーズが高まっている状況からユーザーのすそ野を広げることが事業拡大につながると判断した。ただ、「これまで直販が中心だったため、昨年1月から9月までの9か月間は、どのようにSMBを攻めていくべきかを模索していた」と、藪本敦弘・事業開発部係長は振り返る。そこで、販社の確保を決断。「昨年10月から販社を開拓し、現段階で6社とのパートナーシップを構築することができた」と、永安俊亮・事業開発部係長は自信をみせる。販社に対して、徹底的にトレーニングを実施。これによって10社のユーザー企業を獲得した。
ユーザー企業数については、今年度(11年3月期)末までに300社まで引き上げる方針を示している。今後は、既存販社とのパートナーシップの深耕で1販社あたりの販売量を増やしていくほか、「販売パートナーを20社まで引き上げる」(永安係長)考え。オフラインとオンラインの両方のサービスをもっていることを武器に、「WANストレージライト」だけでなく、まずオフラインのサービスでユーザー企業を開拓して次のステップでオンラインのサービスも追加させるといった攻め方も進めている。
まとめ
複合提案がポイントに
ソフトやテープなどバックアップ関連製品を販売するディストリビュータにとって、現在の市場環境を踏まえると、「昨年は厳しい状況だった」というのが本音のようだ。
リーマン・ショック以降の世界同時不況が大きく影響しており、ユーザー企業がIT投資を極端に抑えていたことが原因だった。なかでも、バックアップソフトの売れ行きが鈍化したとの声が多い。「サーバー台数が減っているため」というのが共通見解で、バックアップソフトの売上高は、よくて前年並み、悪くて20%程度は落ち込んだようだ。
サーバーに関しては市場環境をみると、統合化や仮想化の波などで台数自体は減っている状況。今後、景気が戻ったとしてもバックアップソフトをサーバーとセットで販売するといったビジネスモデルは、ユーザー企業への提案材料として薄れる可能性が高い。一方、「データバックアップを含めたソリューション提供に関しては需要を掘り起こすことができる可能性が高い」という意見があった。今後は、バックアップ関連の製品・サービスを売っていくうえで、サーバーとストレージ機器、そしてテープ保存が可能なバックアップソフトとデータバックアップソフトを組み合わせた複合提案が重要なポイントといえそうだ。