Special Issue

<ストレージ座談会>伸び盛りの「SMB向けストレージ市場」

2009/04/02 19:55

週刊BCN 2009年03月30日vol.1278掲載

 企業内のデータ増大にともなって、国内でSMB(中堅・中小企業)向けストレージ市場が成長ぶりを示している。ITベンダーにとっては、ストレージ関連ビジネスがSMBを開拓する柱の一つになりそうだ。ユーザー企業のさまざまなニーズに対応することで需要を喚起。ビジネスに“旨味”をつけるため、メーカー各社はストレージを中心にどのような製品・サービスを提供しようとしているのか。そこで、主要なストレージ機器メーカーにお集まりいただき、活発に意見を交換していただいた。

司会:本紙 佐相彰彦

ニーズ対応でさらに需要を喚起する

08年はビジネスが順調に推移 成長を遂げるメーカー相次ぐ

 ――まずは、簡単な自己紹介と、所属する組織や部門などがどのような位置づけなのかを教えてください。

 雨堤
 EMCジャパンの雨堤です。マーケティング本部でプロダクト・マーケティングの立場からミッドレンジやローエンドの機種を中心に、製品面から販売パートナー様とどのように協業できるかを担当しています。

 米澤 NECの米澤です。ITプラットフォーム販売推進本部ではハードウェアとソフトウェアでITプラットフォーム全般のビジネスを行っており、そのなかでもストレージ販売促進の立場から、全国に9か所ある支社を活用したストレージビジネスや販売パートナー様の支援などを担当しています。

 瀧澤 日本ヒューレット・パッカードの瀧澤です。エンタープライズストレージ・サーバ事業統括では、サーバーとストレージを中心としたビジネスを展開しており、そのなかでストレージのプロダクト・マーケティングを担当しています。

 佐野 日本アイ・ビー・エムの佐野です。当社は、ハードウェアとしてサーバーが中心と思われがちですが、ストレージ事業部では大企業から小企業までストレージ機器を販売することに力を注いでいます。実際、幅広くユーザー企業様を獲得しています。

 平林 アイ・オー・データ機器の平林です。当社の製品は、コンシューマ市場で多くのユーザー様を獲得していますが、SOHOや部門・部署単位でお使いいただけるローエンドの法人向けストレージ製品の分野も売上げの大きな割合を占めています。

 ――それでは、本論に入っていきますが、08年を振り返ってください。どのようなビジネス状況でしたか。

 米澤(NEC)
 昨年のSMB向けストレージビジネスは、前年と比べ2ケタ成長を記録しました。

 伸びた要因は、SMBのユーザー企業様にバックアップなどのニーズが高まっていることが挙げられます。このニーズに対して、サーバーとストレージ、ソフトウェアを組み合わせて提供したことが功を奏し、お陰さまで順調に推移しました。

 瀧澤(日本HP) これまでは、大企業・大規模システムに向けたストレージビジネスをアピールすることが多かったのですが、今年4月にSMB向け製品を拡充したことで非常に大きな成長を遂げました。

 販売パートナー様から話を聞きますと、SMBではバックアップを切り口とした提案が重要とのことです。今後はこういった声を生かしながらSMB向けビジネスの拡大を図ろうと考えています。

 佐野(日本IBM) 当社のハードウェア事業でみますと、昨年はサーバーと比べてストレージのほうが伸びました。

 これは、ストレージソリューションをベースに展開してくださる販売パートナー様が増えているからです。今後は、「SAN」「NAS」「IP-SAN」などを切り口にSMB市場でソリューション提供が拡大する機運が一段と高まってくるとみています。

 平林(I・Oデータ) SMB市場では、NAS製品の出荷量が大幅に増えました。当社の想定しているユーザー層はSMBのなかでも底辺といわれている20人以下の企業様や部門、グループなどが対象です。

 これらのユーザー様に対して、ディストリビュータ様とのコミュニケーションを密にし、ニーズに呼応する形での機能支援強化、ソフトウェアメーカーとの協業展開、保証期間の延長を行う「ISS(アイオー・セーフティ・サービス)」などサービスの拡充を行ったことが出荷量を増やした要因です。

 雨堤(EMC) NEC様との共同開発を進めたことで、SMB向けビジネスが拡大機運にあります。また、昨年は大手のディストリビュータ様と相次いでパートナーシップを組みましたので、種まきの年だったともいえます。

 実は、SMB向けも順調に推移しているのですが、まだまだ母体が小さい現状にあります。SMBでストレージに対するニーズが高まっているという点でも、今年が拡販できる年ではないかとみています。

確実にあるストレージニーズ 多様な提案で導入につなげる

 ――昨年のビジネス状況を聞きますと、SMBのストレージに対するニーズは高まっているということですね。

 雨堤(EMC)
 とくに、ネットワーク・ストレージに対するニーズが高まっています。当社はサーバーを持っていないので、サーバー側の立場は他社様に比べて詳しくありませんが、サーバー仮想化やファイルサーバー統合などからネットワーク・ストレージに対するニーズが高まっていると思います。

 米澤(NEC) (EMCジャパンの)雨堤様がご指摘なさるように、サーバーサイドでは仮想化をテーマにストレージにも関心を持つようになっています。サーバーにデータを溜めておくよりも、ストレージでデータを管理するという要求は高まっている。また、(日本アイ・ビー・エムの)佐野様がおっしゃった「iSCSI」を採用する「IP-SAN」も需要が増えている状況です。

 佐野(日本IBM) エントリーレベルでは、確かにサーバーとの組み合わせで提供するビジネスがメインといえるでしょう。ただ、ストレージが「データを溜めるだけ」という位置づけだったのが、ミッドレンジレベルでは、さまざまな選択肢が出てきた。大企業に限らずSMBでも単にデータを貯めているだけでは逆に手間がかかるといった考えを持つようになっているからです。

 そのため、これまでは大企業とSMBで異なっていたアプローチの仕方が、今は同程度といえます。すべてのユーザー企業様がそうとは言い切れませんが、SMBでも手間がかかるという点では大企業と同じ悩みを抱えているわけで、より最適なストレージを導入したいというニーズは高まっているということです。

 平林(I・Oデータ) 当社がターゲットとしているユーザー層につきましても、写真データの高解像度化やCADデータの大容量化、内部統制の推進による管理文書の増大などを要因として、部署内・事務所内のファイルサーバーのニーズが高まっているのは事実です。また、既に導入済のWindowsサーバーのデータバックアップ先として、比較的低コストで大容量かつ入手しやすい当社のNAS製品が多く利用されていることがわかっています。

 瀧澤(日本HP) 皆さまからお話が挙がっているように、ユーザー企業様のなかでブレードサーバーを中心に仮想化のプラットフォーム化を求め、そのなかで最適なストレージも導入するというニーズが高まっているのは確かです。その際には、「統合化」を切り口としたストレージソリューションを提案するケースは増えています。

 ――SMB市場でニーズが高まっているなかで、それぞれ主力製品と、その製品を踏まえた今後の販売強化策について聞かせてください。

 瀧澤(日本HP)
 サーバー「HP ProLiant」と組み合わせた展開では、専用の外部ストレージシステム「HP StorageWorks Modular Smart Array(MSA)」ファミリを用意しています。また、サーバーとストレージの組み合わせに加え、どのようにアプリケーションを提供していくかという、ソフトウェアを含めたソリューション創造を模索しています。

 さらに、販売パートナー様に対する情報提供にも力を入れています。とくに、「売りやすい」という観点での情報提供を追求していますので、マニュアルだけではなく導入事例などを抜き出した冊子の提供や提案のテンプレート化などをさらに進めていきます。今後は、「高度な知識がなければ売れない」と構えなくても売れるような仕組みを作っていきたいと考えています。

 佐野(日本IBM) SMB市場といっても、ニーズはさまざまですので、数多くの製品を展開しています。

 例を挙げれば、コスト削減ニーズに最適な製品は、「IBM System Storage DS3200」をはじめとした「エントリー・ディスク・ストレージ」に位置づけられるものです。仮想化との親和性を求めるミッドレンジレベルの企業様には、SAN環境が可能な「IBM System Storage SAN ボリューム・コントローラー(SVC)」のなかの「エントリー・エディション」を提供しています。実は、欧州ではSMBのほうが仮想化に対するニーズが高いのです。これは、コストにシビアだからです。日本でもSMBの仮想化に対する要求が強まる可能性を十分に秘めています。

 平林(I・Oデータ) 「Windows Storage Server 2003」を搭載した「HDLM-GWIN」シリーズ、Linuxベースの「HDL-GT」シリーズなどが主力製品です。これらに加えて、アプライアンスサーバーとして情報漏えい対策が可能な「HDLM-G500NC」や、PC監視システム搭載の「HDLM-G500RC」などを揃えています。 これらの製品群をベースにソリューションを創造していきながら、とくに監視サービスの販売強化を図っていく方針です。 

 雨堤(EMC) 統合ネットワーク・ストレージについては、「EMC Celerra」シリーズで実現しています。この製品を主力に据え、ストレージの統合化を進めていきます。

 また、当社はサーバーを販売していない分、ストレージ機器のコスト面でも差別化を図らなければならない。これには、「Celerra」シリーズのなかで「NX4」を用意しています。この製品統合ネットワーク・ストレージ機能を新しく追加しました。ですので、まず「NX4」を導入していただき、統合ネットワーク・ストレージの良さを理解してもらう。ユーザー企業様がすでに導入なさっている場合でも、無償でバージョンアップを行っています。また、エントリーモデルとしては「EMC CLARiX AX4」があります。さらに、支払い据え置きといったファイナンス面でも今年1年間はコストがかからないような仕組みを提供しています。

 米澤(NEC) SAN領域では、EMC様と共同開発した「iStorage E」シリーズが主力製品になっています。また、NAS領域の「iStorage NS」シリーズなども簡単導入のアプライアンス製品として好評を博しています。

 SMB向けへのストレージビジネスを拡大する策については、ユーザー企業様がRAIDの使い方を含めて運用面や管理面などで苦労されていると聞いています。また、そのような要求にどう応えるべきかという声を販売パートナー様からは聞いています。ですので、販売パートナー様に対して当社の販促メンバが伺って構築のトレーニングを行っています。実際に製品を触ってもらうことが、販売パートナー様にとって売りやすい環境になると確信していますので、今後も継続していきます。

キーワードは「ROI」の訴求 販社との協業深耕で提案強化へ

 ――ストレージビジネスにおける09年のキーワードは何ですか。

 平林(I・Oデータ)
 昨今の市況を踏まえると、各法人、お客様のROI(投資対効果)への要求はますます強くなっていくのではないでしょうか。数百万円規模での設備投資が難しく、その一方で事業継続や情報漏えい対策などの課題解決が必須になってくるなかで、当社のストレージ製品群は低価格ながらも安心して利用いただける信頼性を備えています。当社の製品を導入することで、ユーザー企業様は低コストでバックアップやセキュリティなどの課題を払拭できる。こうした提案に力を入れていきます。

 雨堤(EMC) 当社ならではの取り組みとして特徴的なのは、運用面での訴求で、導入の際や保守などの部分を含めた「コスト削減」や「ストレージ利用の効率性」などを追求していることです。

 ストレージを上手に活用することが効率化につながる。たとえば、アクセスが少ないファイルもアクティブなファイルも同じように保存されています。そこで、当社が提供しているファイルを自動分類して減量する機能などが、ユーザー企業様のROIにつながることを訴求していきます。

 佐野(日本IBM) 「エコ」は、昨年に引き続き今年のキーワードになります。

 「エコ」の意味として、「エコロジー」と「エコノミー」の二つがあるのですが、とくに「エコノミー」の点ではストレージシステムが効率性を上げるというキャッチフレーズで、アーカイビングやマイグレーションが行えることを訴えていきます。「エコロジー」という観点でいえば、古いストレージを使っているよりも新しい製品を導入したほうが消費電力の削減につながります。ROIを含めた、こうしたバリューをユーザー企業様に訴えることが重要と考えています。

 瀧澤(日本HP) 「システム統合」や「運用管理」という点をキーワードに、当社の製品はチューニングの必要がないということを訴えていきます。

 また、「事業継続」もキーワードとなります。ただ、従来の事業継続ソリューションレベルを求めないお客様向けに、遠隔地でレプリケーションを行うなど“ディスタ・リカバリ・ライト”の提案を行う活動を拡充します。また遠隔レプリケーションに関しては、今年に入って新製品を市場投入しています。

 米澤(NEC) サーバーを含めた提案として「仮想化」がキーワードになってきます。SMBでは、部分的な仮想化や統合化も必要になっています。ですので、サーバー統合化に合わせ、ストレージ統合化の提案も必要になってくるでしょう。

 また、ユーザー企業様のストレージに対する投資が、はたしてメリットになっているのか。そういったROIを含めたアフターサービスも商材の一つになるといえます。また、弊社のデータセンターを利用し、ファイルサーバーの機能を提供するサービスも拡充していきます。

 ――最後に販売パートナーへの今後の取り組みを聞かせてください。

 米澤(NEC)
 サーバーとストレージ両方の技術面や営業面を含めた教育を行っていきます。それぞれの販売パートナー様が特色を出せるように取り組んでいきます。

 瀧澤(日本HP) サーバーだけでなく、ストレージに特化したパートナープログラムを一段と策定していきます。加えて、優先的に技術情報を提供する仕組みなども提供しています。

 佐野(日本IBM) 技術的な面でストレージ専用のエントリーセミナーを実施しているほか、ワールドワイドで技術者や営業担当者の認定制度を共通で用意しています。これに合わせて、ストレージ専用のバリュープログラムも策定しています。認定している販売パートナー様に対しては定期的な技術交換や特別サポート窓口の設置などに取り組んでいますので、多くの販売パートナー様に参加を促していきます。

 雨堤(EMC) ディストリビュータ様とともに2次店プログラムの拡充やサーバーなどとバンドルしたパッケージなどの策定を推進していきます。また、専門部隊も設け、パートナー様による自営導入・保守サービスの拡充も行っていきます。

 平林(I・Oデータ) 販売パートナー様への提案・支援を目的とした全国フェアの展開を定期的に行うほか、安心して販売いただけるための保守サービス「ISS」を通じて、製品導入後も販売パートナー様、ならびにエンドユーザー様をフォローできる体制とサービスを拡充していきます。

 ――長時間、ありがとうございました。
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