この状況をiPhoneのときと比べると、発売して間もない時点での導入事例は、iPadのほうが多い印象を受ける。しかも、多様な業種・業界で受け入れられている。ソフトバンクグループで「Yahoo!BB」を立ち上げた経験をもち、現在はスマートフォンの導入支援サービスに強いITベンチャー、イシンの大木豊成代表取締役も同じ見方だ。
「iPhoneに比べ、企業の導入意欲は間違いなく高い。とくに医療・医薬業界と小売業からのニーズは強い。iPhoneでは、画面サイズが小さいことなどに難色を示す企業が多かった。年配のユーザーは、あの画面での操作を嫌がるケースもあった。iPadは違う。ノートPCに代わるモバイルコンピュータとして、導入を真剣に検討している」。大木氏の下には、現在、iPad導入支援や活用方法、関連ソリューションを求めるユーザー企業からの問い合わせが殺到し、うれしい悲鳴をあげているそうだ。
果たして“魔法のデバイス”は、本当にユーザー企業・団体の顧客満足度向上と業務効率化を実現するのか。法人向けITビジネスで新たなチャンスをコンピュータになるのか。次ページではその可能性を追う。
業種・業態からみる可能性
飲食店、学校、病院に商機か
iPadは、法人にどの程度を受け入れられるのか。その答えを知る一つの手がかりとして、業種・業界別ではどんな利用用途やアプリケーション、ソリューションがあるのかを検討した。そのなかで、「週刊BCN」編集部は、主にIT業界人を対象にウェブアンケートを実施。「iPadが普及しそうな業種は何か」という設問に、約3000件の回答を得た。その結果、上位に入ったのは、飲食店を筆頭に、病院、学校の順だった。これらの業界に対して、普及の可能性を探った。
飲食店
オーダー端末として存在感 一部の飲食店では、タッチパネル操作の専用端末をテーブルに設置し、メニューの閲覧と注文ができるシステムを導入している。スタッフ人員を削減できるコストメリットと、顧客満足向上の観点から導入しているシステムだ。飲食店では、これまでの専用端末をiPadに替える動きが出てくる可能性がある。
ITベンチャーで飲食店向けアプリケーション開発を得意とする日本店舗支援は、店員が持つiPod touchを、POSレジと注文内容の入力機器(オーダー端末)として活用するアプリケーションを開発している。iPadに関しては、国内発売日の翌日に対応アプリケーションを完成させた。
カスタマイズの要望に応えられるよう、SDK(ソフト開発ツールキット)も用意して、システムインテグレータ(SIer)などが販売しやすくしている。
同社の城定睦代表取締役は、「iPad対応アプリは、iPod touchと同等のシステムだが、予想以上の引き合いがある。正直なところ、びっくりしている」と話しており、拡販に向けての意気込みは強い。また、飲食業だけでなく、製造業からの引き合いも多いという。
飲食業にとっては、「話題のiPadを活用した注文ができるということだけで、集客効果が見込める」(城定代表取締役)と、メリットをアピールする。新たなシステムを導入すれば、スタッフに対する教育が必要で、その手間を嫌がるユーザー企業も少なくない。だが、「iPadの場合、PCと違って直感操作で分かりやすく、説明もしやすい」(城定代表取締役)という。「注文はiPadで!」を謳う飲食店が増える可能性は、大いにある。
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