日中SIerが相互協力
中国地場での受注増やせ
日中SIerの関係は、これまでオフショア開発型が多くを占めた。日本側が発注し、中国側が開発するというこのパターンが、ここ1~2年で大きく変わろうとしている。日中のSIerが相互に協力し、ともに中国のIT市場での受注を増やす動きが活発化している。
脱受託、営業強化で連携  |
JBCN上海 小祝薫総経理 |
急ピッチで構造改革を進める聯迪恒星(南京)信息系統が、パートナーの1社に選んだのは、JBCCホールディングス(JBCC-HD)グループの中国現地法人JBCN上海だ。JBCC-HDは、日本IBMのトップソリューションプロバイダであり、営業力の強い販売系SIerである。システムの運用管理にも力を入れており、同社独自の遠隔監視サービスのSMAC(スマック)は、日中の両市場で高い評価を得ている。聯迪恒星はここに目をつけた。
聯迪恒星からみれば、JBCC-HDグループがもつ営業ノウハウや日本で売れ筋の商材、システム運用管理などをJBCN上海を通じて吸収すれば、“脱受託体質”の一助になる。また、JBCC-HDグループはIBM中国との連携強化も進めており、間接的にIBMがもつ技術や知見も得られる可能性がある。一方、JBCN上海は、地場の日系企業へのパイプは太いが、「中国地場企業への接近は、これからの課題」(小祝薫総経理)。聯迪恒星の地場における営業力が強まれば、JBCC-HDグループがもつ商材の販路を確保できるとみる。
JBCN上海の小祝総経理は、日本IBMで30年近く勤務し、主に製造業顧客を担当。副事業部長まで上り詰めて転職した先はSJIの前身であるサン・ジャパンだった。JBCN上海の会長を兼務するJBCC-HDグループの石黒和義会長は、中国事情に詳しく、JBCC-HDの強みであるIBMソリューションを熟知した人材を現地法人トップに配置することで、「地場企業との連携」を推し進める。
クラウドでも日中で協業  |
新日鉄軟件 梶原敏弘総経理 |
新日鉄ソリューションズは、中国ビジネスに対する意識改革を急ピッチで進める。同社の手法は、鉄鋼業向けビジネスや流通サービス、産業の主力事業のトップを、現地法人の新日鉄軟件(上海)の重役を兼務する体制を敷くというものだ。今年4月から兼務比率をより高め、「日本と中国を面で捉えるよう常に意識する」(新日鉄軟件の梶原敏弘総経理)体制に変えた。オフショア開発は、日本が上流工程を担当し、中国現地法人が中・下流工程を担当するといったように“上下関係”になりがちだが、これを地域を分担する“横の関係”に変える。そのために、経営幹部自らの意識を変えるところから始めた。開発面でも、独自に開発したクラウド型ITインフラサービス「absonne」をベースに、上海と大連など中国主要拠点と、日本の開発環境を仮想的に統合。開発の一体感を高めた。
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日立ソフト 森淳コンサルタント |
インターネットを使ってソフトウェアを配信するクラウド/SaaS型ビジネスの領域でも、中国向けビジネスが立ち上がり始めている。日立ソフトウェアエンジニアリングは、この6月、クラウド型CRMのSalesforceの中国向け販売で、地元企業2社と協業したと発表。これは、香港に本社を置く通信ネットワーク会社の互聯通網路(CNLink Networks)の高速回線を使って、SIerの上海漢得信息技術(HAND)の運用サポートを活用するというものだ。
米国に設置したデータセンターを主軸とするSalesforceを中国で使おうとすると、回線の遅延が生じる。中国国内のインターネット回線は高速化が急ピッチで進むものの、国境を越える回線は依然として遅い。理由は不明だが、情報管理などの措置によるロスが発生しているともいわれている。ユーザーに快適なサービスを提供する義務があるベンダーにとってみれば、重要な課題であった。今回、香港の通信会社の回線を使い、HANDの現地サポートを組み合わせることで、「日本国内と同様に、Salesforceを中国で快適に使える」(日立ソフトの森淳・サーティファイドプロフェッショナルコンサルタント)よう、地元企業との協業体制を確立した。
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