日本IBM
販社とバリューチェーン築く
キャリア経由のパブリック提供拡大
日本IBMは、自社のクラウド戦略を「IBM Smart Businessクラウド・ソリューション」と位置づけ、現在、これに基づいてインフラやサービス、再販するチャネルなどのバリューチェーン構築を強力に推進している。三崎文敬・クラウド事業企画部長は「IaaS、PaaS、SaaSの基盤からクラウドサービスと既存システムを組み合わせて提供する方向性はできた。ただ、既存パートナーと連動させ、どう再販するかのパターンは試行錯誤の段階にある」という。ITインフラや人的・組織的な体制構築を終え、具体的な販売促進策に議論が移っている。
例えば、こんな棲み分けだ。病院向けのソリューションでは、200床以上を同社の直販が担い、それ以下をIBMのインフラやクラウド・サービスでビジネス・パートナー(BP)が再販する、といった具合だ。「早期にクラウド・サービスの品揃えを終え、サービスメニューの全体像を整理し、BPに提供する」(三崎部長)と、ISV、リセラー、ディストリビュータなど、IBMの基盤をメインに利用するパートナーにクラウド・サービスの展開方法を示す。
IBMのクラウド展開の特徴は、クラウドを含めたサービスの再販制度を今年2月に発表したことだろう。「サービス・オリエンテッド・パートナーリング(SOP)」がそれだ。IBM製のハードウェアやソフトウェアなどを利用してインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)にクラウド基盤を提供し、そこにあるクラウド・サービスをBPなどパートナーが再販する。サービスの提供窓口や保守サポートなどはパートナーが担う。すでに、ISP側としてソフトバンクテレコムやニフティ、パートナー側で同社のバリュー・アデッド・パートナー(VAD)の日本情報通信など、116社が参加を表明している。「KDDIなども参加を表明している。通信キャリアがこの『パブリッククラウド』の提供プレーヤーとして加わり、いままでにないチャネルができあがる」(三崎部長)と、同社の「Lotus Live」などを含め、パブリッククラウドへの方向性を明確化しているのが独自の動きでもある。
これら日本IBMの基盤やクラウド・サービス、既存のC/Sなどをハイブリッドに提供するのが、BPなどのパートナーだ。三崎部長は「基幹システムは、プライベートクラウドでもROI(投資対効果)を生みにくい領域だ。ただ、この分野もクラウドの波がくる。パートナーはこれらサービスを組み合わせて『サービス・インテグレーション』する力が求められる」と話す。同社は、元IBMビジネスコンサルティングの部隊を中心に主要200社に対し、順次、サービス志向にビジネスモデルを転換するコンサルを行う。
日立製作所
旧上場3社含めノウハウをクラウド化
パブリックのメニューは100個へ
日立製作所は09年10月、社内カンパニー制を導入した。責任と権限を明確化し、独立採算性で迅速な運営を徹底することを目的に組織再編。この再編で、同社のクラウドソリューション「Harmonious Cloud(ハーモニアス・クラウド)」の中核を担うのが「情報・通信システム社」だ。独立採算で経営してきた日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの3社が、昨年、株式上場を廃止して本体へ吸収合併された。クラウド事業は、これら3社を含めて従来の情報・通信部門が一体となり、「企業情報システム構築を通して蓄積した産業別のノウハウをクラウド・サービス・製品として、全社体制で提供する」(佐久間嘉一郎・執行役常務情報・通信システム社プラットフォーム部門CEO)と、プライベート、パブリック、C/S型システムを問わず「適材適所でユーザー企業の要求に応じて提供する」(同)という。
日立がクラウド事業で重点を置くのは、公共、金融、特定業種だ。これらに対し、既存システムと連携させてクラウド導入策を迅速に立てる「導入コンサル」、同社で構築した標準アーキテクチャモデルを活用して最適な構築手法を選択する「構築の強化」、標準アーキテクチャ別に運用保守の手順やテンプレートを整備して面倒な運用・保守を行う「運用保守支援」などを、上場廃止となった3社や本体業種部門の各得意分野で提供を促す。これらを、中堅・大企業向けにオンプレミスで構築するのが特徴だ。クラウド環境の運用保守に関しては、日立電子サービスが主に提供するPaaS型インフラサービス「SecureOnline(セキュアオンライン)統制IT基盤提供サービス」で、企業内のクラウド環境を守る。
日立が「適材適所」としている理由はこうだ。「プライベートクラウドだけでは、ユーザー企業などのニーズに応えることは難しい。パブリッククラウドや既存のC/S型システムをハイブリッドに組み合わせる必要がある」(佐久間・執行役常務)。そのため、競合他社と異なり、パブリッククラウドに力点が置かれている。「日立グループ全体(元の上場3社含む)で運用した実績をもとにして、社外にサービスを提供する」(同)という。これまでのシステム構築を通じて蓄積したノウハウをパブリッククラウドの汎用サービスとして、OA管理や人事・総務など「業種共通分野」と公共、金融、医療など「特定業種分野」別に約70個にメニュー化した。このメニューは近く、100個へと拡大し、順次拡充する計画だ。
佐久間・執行役常務は「現状システムの把握・分析に基づくクラウド導入のコンサルで、最短12営業日で試算結果を報告する」としており、迅速な導入支援と幅広いメニューを売りにしている。
一方、中堅・中小企業向け領域に関しては、H協と呼ぶ「HITAC情報サービスネットワーク協議会」に参加するSIerと現在、日立のクラウド環境を利用し、どう提供するかを検討している段階だ。この部分は、旧日立情報システムズが分担し、協業体制の構築を急いでいる。
epilogue
これまでの企業・団体向けシステム提供は、全国で顧客の身近にいるSIerなどが支えてきた。大手4社の戦略を探る限り、この「売り手」の枠組み、プレーヤーの顔ぶれは変わらない。ただ、これまで企業・団体向けシステムをスクラッチ開発したり、ソフト開発やカスタマイズを担っていたチャネルである受託ソフト会社の“処遇”が明確にされていない。実際、全国の受託ソフト開発をメインに事業化していたSIerは、この事実を踏まえ、自らビジネスモデルの転換を図っている。例えば、スクラッチ開発した企業向けソフトをSelesForce.comやGoogleなどの基盤を使って、SaaS型で他のユーザー企業に“横展開”する動きが目立っている。国内IT業界の行く末を考えたとき、クラウドの市場で残された感のある受託ソフト会社のあり方を考える必要がある。