EVAR キヤノンITソリューションズ
前年比30%増の売り上げ見込む
04年に東京大学のシステム構築を手がけた旧キヤノン販売の文教部隊は、その後キヤノン・スーパーコンピューティング・エスアイに出向した。05年には、アップルとApple Solution Experts契約を締結。キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)との合併などを経て、08年にキヤノンITソリューションズとして落ち着いた。
アップルの商流再編に伴い、キヤノンITソリューションズはEVAR5社のうちの1社に選ばれた。「800社が文教向けに販売していた」(秋葉俊幸・公共・流通・サービス事業本部公共・サービス第二事業部事業部長)が、これが集約された格好だ。案件を獲得しやすい立場になったといえる。1都3県を中心に大学向けに直販営業しており、地方案件の発掘で他社との協業を推進している。
全国に展開しているキヤノングループの強みを生かし、プリンタなどの営業部隊との連携も模索。「キヤノン製品の付加価値を付けて提供していく」(秋葉事業部長)。
近年、大学ではiPhone配布やITサービスの提供などの動きが活発化している。秋葉事業部長は「iPhoneやiPadへの関心が非常に高い」と話す。同社を含むEVARは、2010年9月からiPad(Wi-Fiモデル)の取り扱いを開始しており、9月上旬の取材時点では、商談を受けている状況であることを明かしていた。大学の理事会でのiPad使用によるペーパーレス化がそれだ。キヤノンのドキュメント管理ソリューションを組み合わせて提供することなども考えられる。
ここで、クラウドの動きは見逃せない。キヤノンMJは、2012年秋、都内にデータセンター(DC)を竣工する計画を明らかにしている。新DCは、1万6000m2の延べ床面積を誇り、サーバー室の面積は4960m2。投資額は約150億円になるとしている。大容量のコンテンツが必要な大学などの教育機関向けにクラウドサービスの提供を本格化させる意向だ。
これまで、大学を中心に実績を積んできたが、その理由を秋葉事業部長は「WindowsだとNECや富士通が強い。とくに小中高で圧倒的。価格勝負になりがちだ」と説明する。同社にとって、これから開拓することとなる市場といえるだろう。 2010年度は、対前年比30%の売り上げ増を見込む。「台数ベースでも倍以上だろう」(酒井俊明・公共・流通・サービス事業本部公共・サービス第二事業部文教営業部チーフ)。文教市場向けのアップルビジネスは、大きな盛り上がりをみせると思われる。アップルの商流再編で受けた恩恵も後押ししそうだ。

事例
キヤノンITソリューションズ
1000台規模のNetBoot環境導入
東京大学は、04年4月に新しい情報基盤センター教育用計算機システム(ECCS2004)の本格運用を開始した。この情報端末に選ばれたのがMac OS Xを搭載したiMac G4である。Mac OS Xベースのシステムを提案した旧NECリースが落札し、キヤノン販売(現・キヤノンITソリューションズ)がシステム構築を担当した。
ECCSは、東京大学情報基盤センターが運用するシステムで、アカウント登録者が約3万人にのぼる。1149台を数えたクライアントのiMacは、Xserveの起動ディスクイメージをネットワーク経由で読み込んで起動。1台のブートサーバーにiMac25台を割り当てた。1000台規模のNetBoot環境の導入は、当時は世界最大規模の事例だった。
キヤノンITソリューションズは、06年には神戸大学で同等規模の案件を手がけた。08年4月の本格運用に向けた東京大学のリプレース案件の時は、04年と同様にNECが落札し、キヤノンITソリューションズがタッグを組むかたちとなった。
4年を経ての大きな変化は、ハードウェアの構成にある。クライアントは、iMac G4からiMac(intel)に変更され、台数も27台増えて1176台となった。サーバー1台でNetBootできる端末は25台から35台に増えた。
Mac OS X上でWindowsを動作させるPC仮想化ソフト「Parallels Desktop for Mac」の導入で、Windowsターミナルサーバーは必要なくなった。また、オフィスアプリケーションは「Microsoft Office for Mac」を実装。従来、標準端末のWindows環境にインストールしていたWindows版Officeは用意しなかった。
AAR その1 ボーンデジタル
低価格のMac版「Smoke」を拡販
ボーンデジタルは、デザイナー向けの解説本をはじめ、10人規模のデザインプロダクションや教育機関向けにソフトウェアとハードウェアを販売している。「とくに、教育機関向けのソリューションで市場に認知されている」(戸田隆元取締役)。 今年度に入ってアップルと新たに締結したAAR契約は、同社に既存ビジネスの転換を迫ることとなった。同社は2次店となったことで、「チャンスが減った」(竹村英樹氏)という。
ECサイトでアップル製品を取り扱えないことも痛手だ。とはいえ、同社は販売店が大きく変わったことに戸惑いを隠せない個人ユーザーが存在するとみている。彼らのアップル製品購入をアップルストアではなく、いかにして同社に結びつけるのか。運営しているオンラインサイトを強化し、対応ソフトなど他の商材を呼び水にアップルユーザーを引き込む苦肉の策を打ち出している。
Macの法人ユーザー向けた訴求も図っている。昨年取り扱いを始めたオートデスクのハイエンド向けビデオ編集システム「Autodesk Smoke」は、これまでのLinux OS ベースのターンキーソリューションに加え、Mac版「Autodesk Smoke For Mac OS X」もラインアップし、Mac版は同社イチ押しの商材だ。ソフトウェア単体のMac版の価格は261万9750円(税込)から。
その4倍以上の値段をつけるターンキーのLinux版と比べると、価格を魅力に感じるユーザーも多いはずとみる。ゲーム会社の場合、協力会社に外注してきた作業を内製化することができる。「『Smoke』でコスト削減を図ることができる」(竹村氏)としている。

オートデスクのハイエンド向けビデオ編集システム「Autodesk Smoke」にはMac版が投入された
AAR その2 富士ゼロックス
EVARとの協業モデル構築
富士ゼロックスは、1992年にアップルビジネスを開始した。
営業本部マーケティング部マーケティング企画室Apple&Adobe推進の鳥海志郎氏は、アップルの商流再編を肯定的に捉えている。「小規模な販売店が乱立して市場が混乱していたが、これが整理された。チャンスが減ったなどということはない」。
同社が推進するのは、EVARとの協業モデルの構築。NetBoot環境の導入などを手掛けていく方針だ。
これまで一般企業向けには、流通・小売や自動車、アパレルなど、幅広く手がけてきた。例えば、小売業ではPOPの作成やプリントオンデマンド印刷、ウェブへのクロスメディア展開などのニーズを抱えており、これらに対応してきた。これからは、仮想化やSaaSの浸透がより多くの法人需要を開拓していくと期待している。
現在、同社が注力しているのが、トータルカラーマネジメントの領域。「昔はOSやグラフィックボードが違うと色が変わってしまうケースがあった」。名刺や提案書、印刷物などの色を統一することができる。独自ソリューションを付加価値として提供する。
09年に、静岡市は教育用PCとして、駿河区に1022台、葵区に1669台、清水区に1603台の計4294台に関する一般競争入札を実施し、これらすべてを富士ゼロックス静岡が落札した。落札金額は、計3億5000万円強。各小・中学校が、平均40台のMacBookを導入することになった。
静岡市のPC設置台数は、既設の各校平均43台のWindows端末と合わせて9917台となり、設置率は5.5人/1台の割合に向上したという。すでに今年の新学期から本格運用を開始しており、引き続き同社が保守サポートなどを手がける。
同社の特徴として自営保守が挙げられる。保守サポートはグループで内製化している。
SIerの憂鬱
法人ビジネスは“隙間”
デメリットのほうが大きい
AAR(2次店)の1社で、あるSIerはアップルの商流再編に懐疑的な態度を鮮明にしている。
当社のユーザーは、特に大手広告代理店などの企業で、定期的にMacを要望するケースが多い。昔からユーザーのクリエイティブ部門がMacを利用している。大量導入はなく、特定のユーザー向けに数台販売し、年間の売上高は数百万円規模となっている。
iPhoneやiPadを使ったソリューションは視野に入れているが、手探りなのが実情だ。アップルからは、SIerとしてソリューションビジネスの得意分野をヒアリングされたりするが、現状はまだまだ形になっておらず、具体的な計画があるわけではない。
Macに比べ、iPhoneやiPadなどのほうがユーザーの引き合いが多い。Macは、もう少しシンクライアント環境が広がってOSを問わなくなれば、一般業務用途でも導入が進むかもしれない。iPhoneやiPadがトリガーになる可能性も否定できないが、直近でシェアが向上することはないだろう。
新しくAAR契約になったことで、Macの調達方法が変わってしまった。
アップルの法人販売の体制は多くの課題を抱えている。なかなか法人ニーズに応えられていないのではないだろうか。例えば、納期一つをとってもすべて中国からの受発注で、通常の納期が2週間。カスタマイズがあると4週間にもなる。納期の確約はないし、それだけ納品を待つことができるユーザーしか購入できない。加えて、アップルはどちらかというとコンシューマを優先している。
あえて、メリットを挙げるならば、販売店の数が減って商流が絞り込まれたため、ユーザーから声がかかりやすくなったことだ。ただ、デメリットのほうが大きいという気がする。アップルはブランドの維持があまりにも強く、それが弊害になっている部分がある。
現在の法人ビジネスは“隙間”。iPadの商流はまだ決まっていないということもある。それに、当然ながら国産メーカーや外資系メーカーも黙ってみているわけではないだろう。対抗製品を打ち出してくるはず。マーケットは広がってくると期待している。(談)
商流再編を受けて
○以前より納期が遅くなった。見積もり一つにしても、理由は分からないがサーバーダウンなどで、時間がかかる。事務手続きは増えた(中堅販売店担当者)
○自治体や文教、一般企業でも標準端末としてのアップルの需要は高まっているが、商流再編で大変混乱した(大手販売店幹部)
○アップル製品の調達方法変更には口を出せない。Windows搭載PCよりも利幅が小さく、ビジネスとしての旨みが少ないことに変わりはない(SIer担当者)
編集後記
「本社からは何も知らされていない。何も話せない」――。アップルの広報担当者は、記者の取材にこう答えた。販売店の多くは、アップルビジネスについて口をつぐむ。アップルの秘密主義と販売店に課された制約の強さを如実に表しているといえる。
商機はある。ただ、十分な販売・支援体制が整っているといえるのか、大いに疑問だ。アップルの方針にすべてが左右される状況は、これからも変わりそうにない。