リコー
「課題解決型」提案、全国で統一展開
Operius対応商品、50種以上
リコーは今年7月1日付で、グループ販売会社7社と本体の販売事業部を統合して「リコージャパン」を設立した。近藤史朗社長によれば、「多くの国内大手企業が、地域支社・事業所でMFP/プリンタを購入せず、本社で一括購入する傾向にある」と、顧客の購買動向の変化が再編の理由という。この再編でリコーの販売機能がリコージャパンに一極集中化したことで、同社全体のオペレーション・コストが削減できるメリットがあるほか、全国隅々に同一品質でソリューションを提供できるようになった。また、「本社からグループ販売会社へ卸す」という“社内流通”の手続きを省き、受発注・納品などの工程を迅速化した。
リコージャパンの設立前後には、本社と旧販売会社間が水面下で、それまで各販売会社で異なっていた販売手法を統一化する作業を進めていた。主眼は「同じツール、同じシナリオを全国展開する」(加藤智司・MFP販売推進部Operius推進グループマネージャー)ことにあった。多様で複雑化する顧客の要望に応えた「課題解決型」を展開し、「“箱売り”から脱却して顧客満足度を高めたい」との思いが込められている。
ここ1年ほどは、不景気を逆手に取り、コピーメーカー各社は、「TCO(総所有コスト)削減と環境配慮」をテーマにした提案がヒットし、国内景気の落ち込みに反して販売台数を伸ばすことができている。リコージャパンは、まずこのようなニーズに関連した需要を掘り起こすために、顧客が潜在的に抱えているTCO削減や業務改善に関する悩みなどを焙り出し、それに対して的確な提案が迅速にできる仕組みをつくった。これら提案ツールとしては、カラフルな色彩をあしらった紙ドキュメントや実際のオフィス環境を想定して「ビフォー/アフター」を示す映像などのツールを一気に揃えていった。
そのツールの核になっているのが、07年4月に立ち上げた新ソリューションブランド「Operius(オペリウス)」である。そのOperiusを基盤に中堅・中小企業(SMB)向けに適した売りやすいテンプレートにしたのが「Operius認定商品」だ。MFP/プリンタと独立系ソフトベンダー(ISV)やパートナー販社がもつソフト製品と連携させた、これら認定商品は現在までに50種類余りをラインアップしている。「当初、認定商品の販売は伸び悩んだ」(加藤マネージャー)という。だが、現在は「年間3ケタに達する販売数になっている」(同)ということから、Operius認定商品をさらに増やし、幅広い層への浸透を目指す。
Operius対応のシングル機を発売 Operius認定商品の一例として、CADソフト会社のフォトロンと連携してつくったMFP連携の「図脳RVコンバータ for imagio」がある。紙図面をCADデータ化する際のトレース作業の負担を大幅に軽減できるもので、製造業や設備業などへの導入が進んでいるという。山根浩一・MFP推進グループリーダーは「SMB向けを得意とするSIerが、システム提案のなかにOperius認定商品を絡めて提案してくれるケースが増えた」と、機器売り主体の事務機ディーラーだけでなく、システム構築を得意とするSIerなどとのアライアンスが進んでいることを明らかにする。
一方、リコー本体は11月中旬から順次、A4カラーレーザープリンタの新製品3機種を発売している。従来機に比べて耐久性を大幅に向上させ、環境性能や用紙対応力を強化した製品だ。発表リリースには記載されていないが、「当社で初めて、Operiusに対応したシングルプリンタを出した」(リコーの石原崇史・プリンタ戦略グループアシスタントマネージャー)ということだ。「デスクサイドに置ける省スペース機器で、ロケーションフリーで使え、既存ITシステムで使う際のドライバ検証も不要」(同)と、MFPだけではレイアウトできないオフィスの最適配置の要望がある顧客に対し、MFP+プリンタ+ソリューションで提案する営業を強めることができる。
また、同社は、業種の業務フローに適した形でシングルプリンタをカスタムメイドで提供している。医療向けでは、医事や薬事、診療などの業務に適したシングルプリンタを開発し、新規市場を開拓している。
中堅上位層と大手企業に対しては、リコージャパンなど直販部隊がプロダクションプリンタやMFP、マネージド・ドキュメント・サービス(MDS)などで営業活動していくが、SMB向けに関しては「RICOH トップ オブ ディーラー(TOD)」と呼ぶ上位販売パートナーを中心とした販社と連携し、順次「課題解決型」の販売にシフトしていく。
富士ゼロックス
ボックス偏重からの脱却へ急加速
各販社のメニュー「標準化」へ
富士ゼロックスは、07年6月に就任した山本忠人社長の号令で、「箱売り脱却」(山本社長の表現では「ボックス偏重型からの脱却」)への道が敷かれた。山本社長は、「2013年度(14年3月期)までに、売上高に占める『ソリューション・サービス販売』を約3割にする」ことを宣言。これまでに2割近くまで到達したという。
同社でいう「ソリューション・サービス販売」とは、MFP/プリンタの機器やサプライ品といったモノ売りを除く、システムインテグレーション(SI)を含めた「サービスの販売」を指しているようだ。極論すれば、1案件でMFP/プリンタが売れなくても、ITシステムやサービスが売れればいい、というスタンスともいえる。
山本社長の号令で、「ソリューション・サービス販売」が強化されたのは事実だが、それ以前から同社には下地があった。米山俊治・執行役員は「課題解決型の販売は古くから提唱され、実践してきた」という。「カスタマー・バリュー・マーケティング(CVM)」と呼ぶ販売スタイルを確立して、これに基づいて長年にわたり「課題解決型提案を推進してきた。「(直販部隊である)グループ販売会社(34社)の提案メニューは、文書管理やサーバー・ネットワーク、プリンティングソリューションなど、2000以上になる」(米山執行役員)。ただ、各社がバラバラに展開してきているため、これを整理・統合し、全国均一に顧客へ提案できるように販売ツールなどを整備する計画だ。
DocuWorks連携製品100種以上 こうした従来活動を「標準化して、ソリューション・サービス販売の生産性を上げろ」と指示を出したのが山本社長だ。この指示を受け、米山執行役員を中心に標準化へ向けた作業が進んでいる。計画では、この大量のメニューを超大手、中規模、小規模、ベリーローと企業規模別に区分するほか、七つの提案標準プロセスに複数のサブプロセスを付加する。これに基づき、顧客の機器環境を分析するツールや販売手法、マニュアルなどを整備するという。
このうち、SMBを攻略する方法として、文書管理ソフト「DocuWorks(ドキュワークス)」とMFPを連携させた連携ソリューションを100以上揃えた。連携ソリューションには、ISVやSIerや事務機ディーラーがもつソフトと「連携ソリューション」を構築するためのツールキットや開発支援プログラムも用意している。例えば、タブレットメーカーのワコムと連携した商品として「PenViewer for DocuWorks」がある。液晶ペンタブレットを用いて、建設業者や工務店が行う図面の校正を画面上で行い、その手書き作業の過程を保存するというソリューションである。これだと、SI経験が少ないITベンダーでも、MFPと一緒に簡単にソリューションが売れるわけだ。
米山執行役員は「いまの機器販売は、MFPにシフトしている。粗利率が高いからだ。アフタービジネスは厳しい状態にあるが、課題解決型のソリューション・サービス販売は、アフタービジネスの減少分をカバーする以上の伸び率だ。とくに、中小企業市場の伸びが顕著」と、ソリューション・サービス販売が一定の成果を上げていると強調する。
09年12月に発売した新カテゴリの小型デジタル複合機「DocuCentre-IV C2260」は、そんな戦略転換のなかから生まれた機器で、ソリューション展開との関連で想定以上に販売を伸ばしているという。「地域のSIerが、ITシステムと一緒に当社MFPが決まる案件が増えている」(米山執行役員)と、こうした潜在需要をさらに掘り起こすためにも、「標準化」が欠かせないということだ。
Epilogue
「コピーメーカーが主催する『パートナー会』の案内状が、初めて当社に届いた」――。北海道に本社を置く業務システム構築メインの地場SIer幹部がこう明かしてくれた。北海道であれば、これまでは地元の大手事務機ディーラーがメインに招待されるのが通例。ここにSIerが加わったというわけだ。
地域のSIerでは、システムインテグレーション(SI)と事務機販売を兼業する会社が珍しくない。しかし、今回案内状が届いたのは、純粋に業務システムを事業とするSIerだ。冒頭のSIerはこの会に出席したのを機に、某コピーメーカーの販社になることを決断した。その理由について社長は、「いままで、業務システムに加えてコピー機を購入したいとの要望があれば、コピーメーカーの販社に託していた。しかし、話を聞くうちに業務システムと一緒に提案するうえで、相性のいいソリューションが多く、アフター・ビジネスも期待できる」という。
ビジネスモデルをクラウドコンピューティングに変革させる途上にあるSIerは、開発や設備投資など一時的に収益を圧迫する部分を、コピー機の「アフター・ビジネス」で補おうとしているふうにもみえる。しかし、ITシステム全体をワンストップで提案するには、電子文書化などコピー機回りのインテグレーションが必須になっているという考えにもとづき、コピー機販売を開始している。
不景気の影響で、急激に市場が狭まりつつあるMFP/プリンタ市場を盛り上げるには、メーカー自身と、関連するパートナーのビジネスモデルを変えること、そして「ソリューション販売」ができるパートナーの選択が重要になる。