クラウド商材を武器に
日本製品を台湾で“チャイナライズ”
形成されつつある日本×台湾×中国のゴールデン・トライアングル。中国の巨大IT市場を狙って、日本企業と台湾企業の連携した取り組みが進んでいる。そんななかで、中国進出の主要商材となるのは、クラウドだ。
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長城コンサルティング 張佶社長 |
日本で中国市場コンサルティングを提供する長城コンサルティングの張佶社長は、「中国政府は、2010年から、データセンターの構築など、クラウドコンピューティングを普及させる計画を推進しており、中国の企業もこれからクラウドに力を入れていくに違いない」と、中国ではクラウドコンピューティングが盛んになりつつあるトレンドを語る。マイクロソフトが10年9月にクラウドソリューションの開発拠点を上海に設立したのをはじめ、世界の有力IT企業が中国のクラウド市場を開拓しようとしている。
システムインテグレーション(SI)やサービスで海外進出を進めている日立グループの日立ソリューションズは、中国でのクラウド需要の高まりを受けて、「クラウド型IT基盤サービスを中国で展開していくために、日台アライアンスによる中国進出を検討している」(中国・アジアビジネス推進第2部の松江部長)という。同社は、CISAの加盟企業と協議し、早期に相乗効果を期待しながら、クラウド分野で協業を推進している。
医療や流通も視野に 日立ソリューションズは、台湾企業と連携して中国のクラウド市場に進出するにあたって、セキュアな仮想サーバー・パソコン環境をオンラインで提供するPaaS型クラウドサービス「SecureOnline」を主要な商材としている。松江部長は、「台湾/中国で実績のあるアプリケーションを多数もっているCISA加盟企業との協業によって、『SecureOnline』の日本のサービス基盤を利用し、香港のデータセンターを利用しながら、台湾でサービス環境などを中国の文化や規制などに適用して“チャイナライズ”していくことが、中国での成功のカギを握る」とみている。台湾企業とのパートナーシップを通じて、同社のクラウド商材を技術や販売の面で中国市場のニーズに対応させる戦略だ。2011年には、台湾SIerと連携して中国でのビジネス立ち上げに向け、「台湾SIerとの交渉を開始している」(松江部長)という。
同社はクラウド分野にとどまらず、中国で需要が急増している医療や流通分野でも日台アライアンスを組み、中国展開を急いでいる。医療分野では、検査の受付や分析、結果確認など病院の一連業務をサポートする病院向け臨床検査システムや、検査機器・電子カルテの連携システム、匿名情報管理サービスなどを共同で展開するほか、流通分野では、日系の小売業向け販売管理システムなどを、台湾企業の力を借りて中国市場にマッチさせていく方針だ。
松江部長は、「商材の単なる中国語対応だけでは必ず失敗する」と断言する。その言葉を裏づけるように、月に1回は台湾へ出張して商談するなど、台湾企業との技術・販売パートナーシップの構築を積極的に推進している。
東南アジアへ横展開  |
東京システムハウス 林知之社長 |
日本企業が台湾企業との協業に注力しているのと同様に、台湾企業も中国市場での競争力を高めるべく、すぐれた技術をもつ日本企業との関係づくりに力を入れている。金融業界に強い台湾大手のシステムインテグレータ(SIer)のSYSCOMグループは、10年11月、SaaS型メインフレーム・マイグレーション・サービス「MMS+クラウド」で、東京システムハウス(TSH)と協業した。02年にSYSCOM西安とTSHがマイグレーションのオフショア開発で連携し、関係を着実に強化しながらTSHの新製品の「MMS+クラウド」での提携に至ったというのが経緯だ。
両社は今後、「ACUCOBOL製品のユーザーや、汎用機、オフコンなどレガシーシステムのユーザーをターゲットとして」(劉瑞隆総経理=CISA理事長)、ディストリビュータを通じて「MMS+クラウド」をユーザー企業に販売していく。具体的には、中国を開発拠点としており、TSHとSYSCOMが日本と台湾でそれぞれ製品のデリバリーやサポートを担当。製品展開は日本と台湾だけでなく、中国も主要市場として捉えており、共同で取り組んでいく計画だ。さらに、日・台・中のトライアングルをベースにしたかたちで、「東南アジアやインド、欧米の巨大市場に加え、ACUCOBOLユーザーが多数存在する南米市場への横展開を狙っていく」(TSHの林知之社長)と、協業による事業拡大に意欲を示している。
TSHは、SYSCOMとの協業を実りのあるものと捉えて、中国市場を狙うにあたって、日台アライアンスの拡大を目指していく。中国ではこれからレジャー産業が成長し、ゴルフ場の数が増えると見込み、ゴルフ場運営管理システムの展開を検討しているという。
自社を「台湾化」  |
トレンドマイクロ中国 張偉欽副総裁 |
台湾のノウハウを活用して中国でビジネスを展開するにあたって、企業間の連携だけではなく、社内体制を「台湾化」するという道もある。本社を日本に置きながら、台湾出身の人材をキーパーソンに配置する企業の代表例ともいえるのが、セキュリティベンダーのトレンドマイクロである。
同社は、中国で北京、天津、南京、上海、広州の5か所に拠点を構えており、各オフィスのトップには台湾出身の人材を就けている。これにより、「言語や中国の市場特性の理解、人員的ネットワークなどに関して、当社は他の外資系ベンダーと比べて有利な立場にある」(トレンドマイクロ中国の張偉欽グローバル研究開発長兼グレートチャイナ地域担当執行副総裁)などのメリットが挙げられる。
今後、「台湾流のビジネススタイル」を生かしながら、成長著しい中国西部などを中心に、地方の中国地場のソフトベンダーと組んで、中国ビジネスで最も売上比率が高い企業向けセキュリティの事業拡大を推し進めていく方針だ。
記者の眼
日本と台湾で日台アライアンスについて取材した際に、協業を実現しようとする両側の期待感や積極的な姿勢をひしひしと感じた。日台IT連携の事例が出てきているなかでも、「日・台・中のゴールデン・トライアングル」への道のりはまだ遠い。初期段階である今こそ、企業や情報サービス団体の積極的な取り組みが求められているのだ。