事務は西日本へ移す 週刊BCN編集部では、これまでの取材をもとに、首都圏の節電に貢献するITシステムを分類した。
対策その1は、「人の移動の抑制」だ。首都圏のホワイトカラーがターゲットで、在宅勤務やサテライトオフィスの運用に役立つグループウェアやコラボレーションシステムが挙げられる。人の移動を少しでも減らすことで、通勤電車の混み具合を緩和し、都心のオフィス内での人やIT機器が発する熱を削減。暗号化技術によって、在宅や簡易なサテライトオフィスでもセキュアに仕事をこなせる。
対策その2は、「西日本への移動」である。電力が足りないのは主に首都圏で、西日本は直接は無傷の状態にある。夏の間に限って、西に移すことができる仕事は積極的に移す。システムはサテライトオフィスの延長線上で実現できるものであり、東西の意思疎通のためにはテレビ会議やネット会議などを活用することも有効だろう。ホワイトカラーを中心としたオフィスワークを対象としたもので、実は、顧客企業の事業だけでなく、情報サービス業の、例えばソフト開発業務などにも適用できる。
ある上場SIerは、夏の計画停電に備えて、西日本の事業所での開発体制を強化する検討を始めた。クラウド上に開発環境を用意し、首都圏と西日本の両方で開発作業を進めることを想定している。
中国のオフショア活用も 情報サービス産業のソフト開発については、中国も敏感な反応を示す。日本の海外オフショア開発先のおよそ8割は中国で占められており、中国にとって日本は上得意先である。リーマン・ショック後は、日本からのソフト開発が大幅に落ち込んだだけに、今回の震災で再び仕事が減るのではないかという懸念が頭をもたげたことは容易に想像できる。中国北京の情報サービス業界団体である北京アウトソーシングサービス企業協会(BASS)の曲玲年理事長は、3月23日、週刊BCN編集部に宛てて、「日本の復興に向けて、力いっぱいサポートする」とのメッセージを送ってくれた。
今回の震災と原発事故を受けて、多くの外国人が日本を離れたが、BASS会員企業で、日本で働く中国人IT技術者は、請け負ったプロジェクトを完遂するために「大半が日本で仕事を続けている」(BASS)という。そのうえで、中国国内のソフト開発拠点は通常通り稼働しており、日本の被災地や電力不足の影響を受ける東京・首都圏のソフト開発を補うかたちで「オフショア開発のメリットを十分に発揮していく」と、協力体制のより一層の強化を訴えた。西日本への開発移転とともに、中国へのオフショア開発パワーを活用することも、リスク分散の有効な方法といえる。
クラウドには災害耐性 対策その3は、パソコンなどクライアント端末系で、対策その4がクライアントと連動して動くセンター系だ。震災後の計画停電で、バッテリをもたないデスクトップパソコンは、停電とともに役に立たなくなった。この点、バッテリ内蔵のノートパソコンやスマートフォンをはじめとするスマートデバイスは有効に機能している。そこで着目されるのが、シンクライアントだ。陳腐化したクライアント/サーバー(クラサバ)型を置き換える方式としてかねてから技術開発が進んでいる分野で、とりわけ、VMwareやXenなど仮想化技術の進展によって、運用管理や使い勝手が格段に向上している。
クラサバの中身をデータセンター(DC)に移せば、計画停電時にシステムが止まることはない。ノートパソコンやスマートデバイスから3G回線を使ってシステムにアクセスしたり、前述の西日本オフィスや海外からのサーバーのアクセスも担保できる。「所有から利用へ」の流れのなかで語られるクラウドサービスは、まさにこのアーキテクチャと共通項が多い。震災後の混乱時にも、GoogleやAmazonをはじめとするクラウドサービスの災害耐性の高さは実証された。DCとクラウド基盤をもつ多くのホスティング事業者やSIerが、震災後にクラウド基盤を一部開放。復興に役立ててもらうよう努めたことも、クラウドの災害耐性を裏づけている。
センターの7割が首都圏に しかし、クラウドの基盤となるDCの多くが首都圏・東京電力管内にある。調査会社のIDC Japanの調べによれば、2010年の東京都内と近郊地域のDCのシェアは、金額ベースで国内市場の約72%を占める。クラウドやアウトソーシングの流れのなかでDC市場は拡大傾向にあるが、このまま状況が変わらなければ、関東地方のシェアは高止まりする見通しであるという。
DCは多くの電力を消費しており、万が一、電力が途絶えれば受ける影響はとてつもなく大きい。主要なDCは自家発電装置を備えており、少なくとも24時間は稼働できる仕組みになっている。1日3時間の計画停電なら、1週間は無給油で持ちこたえられる計算だ。とはいえ、逼迫した今夏の電力需要を減らすためには、西日本のDCを多く活用する必要がある。
NRIは、先の緊急対策の提言のなかで、電力の「総量規制」に言及する。大口需要家に向けて契約ワット数を下げることなどが想定される。給電の総量が減れば、DC内の稼働サーバー台数に電力面での制約が出てくる懸念がある。また、原発事故に伴う福島県民・隣県の方々への補償や、発電所の事後処理、復旧にかかる資金が要る。受益者負担の観点からみれば、東電管内の電力ユーザーが負うのが順当な流れだろう。端的にいえば東電管内の電気料金が上がる可能性があるということだ。ならば、通信費コストが多少増えたとしても、西日本などへDCを移したほうが、採算性がよくなる時代が来るかもしれない。
スマートコミュニティ
ITを駆使した究極の節電
福島原発の事故で、首都圏の電力問題は長期化する様相をみせている。今夏の電力危機には間に合わないが、中期的にみればITのインテリジェンスを駆使したスマートコミュニティを真剣に考えるべき時期に来ている。
本文でも触れたが、今の技術での蓄電は基本的に難しい。問題となっている昼間のピーク時電力だけ料金を高く設定し、夜間を安くすることで平準化しようにも、一般的な電気メーターは昼間と夜間の電力消費を区別する機能が備わっていない。例えば、家庭に蓄電池を備え付け、時間帯別の電気料金を細かく設定できるスマートメーターと組み合わせれば、ピーク時の抑制に役立つ。揚水発電と同じ原理で、夜間に家庭や事業所に蓄電した電気を昼間のピーク時に使う仕組みだ。
スマートメーターは、双方向通信機能を備えた電力計であり、無線や電力線搬送などの通信技術を備え、デマンドレスポンス(需要応答)を可能にする。電力が不足すれば需要を抑制し、余ったときは蓄電池やEV(電気自動)に蓄電させる。IDC Japanは、世界のスマートメーター市場は、欧州や中国など新興国が中心となり、2015年までの成長率は年間平均13%と予測している。
東電管内の夏場の深夜電力消費は約3000万kwで、昼間のピーク時は約6000万kw。もしスマート技術で平準化できれば、ピークを大幅に抑えられる。今回の原発事故によって、国内のエネルギー問題が再燃することは必至だ。原子力の「夢のエネルギー」に拘泥するよりも、「今あるエネルギー」を有効に使って、スマートに経済を復興させる選択肢もある。