デジタルトレンド“今読み先読み”

東日本大震災、デジタル家電業界は…

2011/04/07 16:51

週刊BCN 2011年04月04日vol.1377掲載

 東北地方を襲った国内最大規模となるマグニチュード9.0の地震。東北地方太平洋沖地震と名付けられたこの巨大地震は、多くの人命を奪い、家屋をなぎ倒し、東日本のみならず日本の産業全体に大きな被害を与えた。デジタル家電業界も例外ではない。この震災に対して、デジタル家電に関わる家電量販店やメーカーなどは、どのような取り組みを進めているのだろうか。

大きな影響を受けた量販店
被災地の支援やサポートに尽力

 家電量販店は、被災地の店舗は休業、また直接被害が軽微だった店舗も計画停電や節電に協力して営業時間を短縮するなど、大きな影響を受けた。各社とも、本社と被災した現地との連絡を密にして、被災地域の復興に向けて支援やサポートに力を注いでいる。

休業や計画停電が相次ぐ

 茨城県水戸市に本社を置くケーズホールディングスは、グループ会社のデンコードーが大きな影響を受けた。「3月11日、地震発生直後に東北地方の店舗と電話やメールなどで連絡を取ったが、つながらない状況が続いた」(広報担当者)。被害が大きかった地域の店舗では、3月16日の時点でまだ安否が確認できていない従業員がいたという。休業したのは、東北地方と茨城県で約40店舗。徐々に営業を再開しているが、それでも3月25日時点で25店舗が休業中だ。節電については、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、東京の1都5県の店舗で営業時間の短縮や節電に取り組み、災害救助法の適用で計画停電の対象から外れている茨城県内の店舗も行っている。

 ベスト電器は、地震発生の3月11日に東北地方の直営店15店舗を臨時閉店したが、3月17日には営業を再開した。フランチャイズ店は地震当日に19店舗を臨時閉店し、うち13店舗が3月15日に営業を再開。宮城県仙台市、石巻市、大崎市、登米市、福島県いわき市と双葉郡富岡町にある6店舗は、商品の落下や破損の被害と原発事故による避難勧告によって、オーナーの判断で営業を停止している。

 サードウェーブでは、ドスパラ仙台店とドスパラ宇都宮店、ドスパラ千葉店の3店舗が地震の影響を受けた。千葉店は3月18日に営業を再開したが、仙台店と宇都宮店は3月25日の時点でも休業している。同社は防災対策本部を設置して、「被害を受けた店舗の復旧作業を急ぎ、被災地に対して支援できることは何かを検討している」(広報担当者)という。

 ユニットコムは、3月24日の時点でパソコン工房の仙台泉店と仙台鉤取店、いわき店が休業中。仙台地区ではTWOTOP仙台店が業務を再開している。

 自店が被災しなかった家電量販店は、計画停電の実施や節電などに協力体制を敷いている。ビックカメラとグループ会社のソフマップは、関東地区の店舗で節電に取り組むとともに、計画停電に対応。営業時間の変更や、場合によっては計画停電中に休業している。

 エディオンは、計画停電エリアの21店舗が営業時間を短縮しているほか、全国の直営店全店(417店舗)の屋外・店内照明の一部消灯、テレビなどの展示商品への間引き通電に取り組んでいる。

早い復興を強く願う

 休業や営業時間の短縮など、影響をこうむっている家電量販店は多いが、彼らがいま望んでいるのは、お客が安心して来店できる環境に戻ること。とくに被災地が1日でも早く復興することを強く願っている。そこで多くの家電量販店は、義援金や物資による支援、無償や割引価格でのサポートに乗り出している。

 エディオンは、義援金1億円のほか、支援物資を送ることを発表。ビックカメラとソフマップは、3月12日から被災地への義援募金の受付を70店舗で実施している。また、オンラインショップ「ビックカメラ.com」「ソフマップ・ドットコム」でネットポイントによる被災者義援金の受付を開始し、3月25日時点で420万円近くに達したという。上新電機も、全国の183の直営店で義援金活動を進めている。ヤマダ電機は、コーポレート単位と、役員や社員の家族などからの寄付を含め、義援金4億5000万円を集めた。ラオックスは、筆頭株主である中国の蘇寧電器が日本赤十字社を通じて5000万円の寄付を申し出ている。

 サポートについては、ピーシーデポコーポレーションが震災で被害を受けたPCの応急処置や修理を割引価格で対応。ユニットコムは、被災地の14店舗でPCの無償検査・診断サービスを実施している。なお、PCの修理サポートに関しては、メーカーも被災地を対象に特別引取修理サービスをメニュー化。すでに業界全体が、被災地の住民や企業の支援、被災地の復興支援に動いている。


災害時にITの力を発揮
PCやスマートフォンがライフラインに

 震災後、携帯電話や固定電話の回線がストップ、または大きく制限された。この状況で安否確認や情報収集手段として力を発揮したのが、インターネットでつなぐPCやスマートフォンだった。PCやスマートフォンは、ライフラインとして、災害時にも大きな力を発揮したのである。

ウェブサービスが大きく貢献

首都圏では地震発生直後から鉄道がストップ。帰宅時のターミナルはバスを待つ人々で溢れた(上:東京・銀座の数寄屋橋付近/下:東京駅)
 3月11日の地震直後、被災地と首都圏で大きな混乱が起きた。連絡と移動の手段が失われたのである。被災地への安否確認の連絡はもちろん、東京都内や首都圏に住む家族や知人と連絡を取りたくても携帯電話は不通。3G回線を経由したメールは、送信できても相手に届くまで大幅なタイムラグが生じた。固定電話もつながりにくく、頼りは公衆電話だけいう事態に陥った。携帯電話の普及で減少していた公衆電話には、これまで見たことがないほどの長い列ができていた。

 移動手段は、東日本各地の鉄道のほとんどがストップ。首都圏の駅には、いつ来るのか分からないバスやタクシーを待つ、おびただしい数の人々――。「地震の被害は」「家族は無事なのか」「帰宅できるのか」。

 テレビやラジオではすぐさま速報が流れ、時々刻々と変化する状況についても報道していたが、オフィスや外出先など、テレビやラジオがない場所での情報収集に活躍したのが、PCやスマートフォンだった。一部のテレビ局がインターネットのニコニコ生放送やUstreamなどで配信するニュースや、インターネットでラジオが聴けるサイマル放送の「radiko.jp」が貴重な情報源の一つになった。そして双方向コミニケーション時代の名の通り、Twitterでの情報発信・収集、ウェブメール、Skypeによる通話など、PCやスマートフォンの利便性を多くの人が改めて実感した。

 被災地に住む家族や知人の安否確認にも、PCやスマートフォンが多く活用された。グーグルは、東日本大震災に関する情報をまとめたサイトを開設。被災者の安否情報を写真撮影してウェブアルバム「Picasa」にアップできる「避難所名簿共有サービス」を提供している。YouTubeは、「YouTube 消息情報チャンネル」を開設し、被災者がメッセージ動画で、遠くにいる家族や知人に映像を通じて現状を伝えられるようにした。テレビでも同様のことができるが、放送時間は限られ、限界がある。動画などで大容量データを遅延なく送受信できる高速ブロードバンドのインフラ、PCやスマートフォンなどクライアント端末の充実が情報ツールとして大きく貢献したわけだ。また、NTTドコモとソフトバンクモバイルが、それぞれ公衆無線LANサービスを無料開放していることも、連絡を取るため手段として大きく寄与している。

誰にでも操作できる機器を

 この大震災では、PCやスマートフォンが多くの人々のライフラインとなった。自分のPC、公共施設のPC、さらには近くにいる人にスマートフォンを借りて、自らの無事を知らせることができる。ただし、それができるのは、日頃からPCやスマートフォンを使いこなしていた人に限られる。栗山浩一・NECパーソナルプロダクツPC事業本部商品企画開発本部長代理は、「PCの生活インフラとしての重要性を再認識した。設定やネットコンテンツの活用に不慣れな人が、安心・簡単・快適に利用できる環境をつくっていかなければならない」と、PCでSNSなどのネットコンテンツをより簡単に利用できる環境整備の重要性を訴える。

 荻野孝広・東芝デジタルプロダクツ&ネットワーク社PC第一事業部PCマーケティング部マーケティング担当グループ長も、「今回の震災では、インターネットによる情報収集などでITの力が発揮された。この力を生かすことができる製品をいち早く提供していく」と非常時のITの活用にさらに力を入れていく意向だ。

 PCメーカーに求められるのは、利便性をより多くの人々に伝え、子どもから年配者まで、本当に誰もが簡単に使える製品をつくっていくこと。さらに、自分のPCからではなく、データを格納してアクセスできる一般ユーザー向けのクラウドサービスの普及を加速させることが必要だ。

YouTubeは「YouTube 消息情報チャンネル」を開設。
被災者はメッセージ動画で遠くにいる家族や知人に現状を伝えることができる

「Made in Japan」を支える工場が被災

 震災が発生する前、PC業界はインテルの第二世代Core iシリーズ版のチップセットの不具合問題への対応に追われていた。発売したばかりの製品の撤収、また未発売の製品は発売延期を余儀なくされた。各社がリカバリに尽力し、ようやく2月中旬以降から3月中旬にかけて販売を再開し、春モデルが出揃ってきたそのとき、巨大地震と津波が東日本を襲ったのである。

 国内大手メーカーのなかで、いち早くチップセット不具合からの販売再開に漕ぎ着けていたのは富士通だった。他の国内メーカーが海外で生産するなかで、「該当するPCはすべて国内の工場で生産していた。国内で対応したことがリカバリに大きく寄与した」(大橋慎太郎・パーソナルビジネス本部パーソナルマーケティング統括部長兼プラットフォームビジネス推進本部クライアントPCビジネス推進統括部長)という。ところが、この震災で、デスクトップPCを生産する福島県伊達市の富士通アイソテックが大きな被害を受けた。

 地震が起きた3月11日午後2時46分、富士通本社で取材を行っていた記者は、後に富士通アイソテックが被災したことを知り、言葉を失った。富士通のPCの強みである「Made in Japan」を支える富士通アイソテック。そして、東北地方に営業所や工場をもつメーカー各社や販売店は、いま全力で復旧に取り組んでいる。(佐相彰彦、田沢理恵)
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