Challenge & Act制度
野村総合研究所
各事業部の特色を生かした研修
集合研修の充実でキャリアを考える
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野村総合研究所 広瀬一徳氏 |
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野村総合研究所 宮藤治氏 |
野村総合研究所では、入社後、キャリア支援に対する共通の教育を行う。その後は、エンジニアとコンサルタントというように職種が異なってくるので、各事業本部が中心となり、専門的な研修を展開している。一方で、本部の人材開発センターでは、事業本部の特性に応じて、社員の自己研鑽、資格取得支援といった独自の教育カリキュラムを多数組み立てて運営している。
現場からの要望や、フィードバックされたものを研修としてメニュー化し、他の事業部にも評判がよければ横展開しているという。
同社は4~5年前に、「定性的にできる、できないを判断するのではなく、定量的にスキルを把握し、手が打てるようにするため、スキルを見える化するための施策を打ち出した」(人材開発センター 人材育成戦略部の宮藤治・人材育成戦略課長)という。社員の自発的な能力開発を支援するために「C&A(Challenge & Act)制度」を導入した。社員自身のスキルをセルフチェックするとともに、上司とともに成果をレビューし、キャリアを考えながら仕事を割り当てていく。社員は目標設定から、スキルチェック、成果のレビューをPDCAで回してキャリア強化につなげていく。
能力を可視化することによって、その人材が経験していないことも明らかになり、それを本部のほうで補完すべきスキルとして、教育カリキュラムなどでアプローチする。「年次によってはOJTなどで、経験できていない仕事もでてくる。そうなると、スキルに偏りが出てくることから、研修でフォローアップすることで、若年層のスキルを底上げを図っている」(広瀬一徳・人材開発センター長兼人材育成戦略部長)という。
こうした教育カリキュラムの整備によるスキルの強化に加え、30年以上前から、インストラクター制度を実施し、組織が一丸となって新人を育てようという風土も根づいている。集合研修も頻繁に開催されていて、各事業部ごとや、社長を交えて有志で今後の働き方を考えたり、役職別での研修や、コンサルタント、エンジニアが一堂に会する会合なども催されており、縦横斜めでつながりがもてることで、キャリアについて考えていく環境が整っているのが特徴となっている。
アイエスエフネット
障がい者雇用で事業拡大
5大採用から10大採用へ  |
| 渡邉幸義社長 |
コンピュータ構築・保守・運用会社のアイエスエフネット(渡邉幸義社長)は、今年3月、2006年1月から掲げていた「5大採用」が終了したことを宣言した。
「5大」とは、ニート・フリーター、ワーキングプア(時間に制約のある人)、シニア、引きこもりに加え、同社で未来の夢を実現するメンバー「FDM(Future Dream Member)」と呼ぶ障がい者を指している。2006年の宣言以来、すべての対象者を雇用したという。
これを受けて同社は次なる採用枠を定め「10大採用」を新たな目標に掲げた。前述の5項目に該当する人材のほかに、ボーダーライン(軽度な障がいで障がい者手帳を持っていない人)、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者、難民、ホームレス、そのほか就労困難な人の5項目を加えた。渡邉社長は「リーマン・ショック時でも、障がい者を含め、一人たりともリストラをしていない」と断言する。仮に就業後に発症して一時的に働けなくなる社員に対しても、きちんとしたケアを施すことで就業し続けられる体制を敷いている。
国の「障害者の雇用の促進等に関する法律(法定雇用率)」では、常用労働者数56人以上規模の一般企業に対し、全就業者数の1.8%の障がい者を雇用することを義務づけている。だが、「この法定雇用率をきちんと守ることができている企業は少なく、また精神疾患に陥った社員を再雇用する制度を整えている企業はあまりにも少ない。とくにIT業界は、他の民間企業に対して取り組みが遅い」と、渡邉社長は苦言を呈し、自らがその先鞭をつけようと孤軍奮闘しているのだ。
同社が「5大採用」で雇用した社員は、現在までに200人ほど。このうちの“出世頭”は、営業本部長やエリア統括など、責任あるポジションに就いている。渡邉社長は「自分を変えたい人が当社を希望してくる。それだけに、いったん社員として働き始めれば、真剣に取り組んでくれる」と話す。
同社は今後、このような採用をアジア地域にも拡大し、自社でネットワーク関連技術者を養成して、事業の拡大を目指す。
記者の目 情報処理推進機構のIT人材の実態調査では、自身のキャリアプランやスキルアップに不安を抱えている社員が非常に多かった。しかし、会社の規模によってはなかなか制度を充実させることは難しいのが現実だ。
資金的にも人材面でも余裕に乏しい中小企業では、公的機関を利用するのも一手である。全国47都道府県にある産業保健推進センターでは、産業保健に関するさまざまな問題について、専門スタッフがセンターの窓口または電話、電子メールなどで相談に応じ、解決方法を助言してくれる。
この特集で取り上げたNECや日立では、定年までの長期的枠組みで、またNRIでは多様な集合研修などを通じて、社員が自身のキャリアに対して、考えていくことのできる仕組みをつくっている。新しいキャリア支援のかたちは、個人、組織のミスマッチを防ぎ、モチベーションを高めるのに有効に働いている。こうした事例をそのまま自社に取り込むことは難しいとしても、取り組みの姿勢や考え方は多くの企業の参考になるはずだ。