ネットとの親和性を生かす
エコシステムで規模拡大に弾み
パブリッククラウドはインターネット上に存在し、世界のどこからでも利用できるITリソースだ。SIerはこの特性を最大限に生かしたシステム構築を強く意識する。運用管理の自動化といった関連サービスも増えるなど、エコシステム的好循環も生まれつつある。成熟度を高めつつあるパブリッククラウドの可能性を追った。
多様な可能性を秘める  |
サーバーワークス 大石良代表取締役 |
パブリッククラウドは、さまざまな可能性を秘めている。最大の強みになっているのは、世界のどこからでもサービスを利用でき、使っただけ支払う明朗会計。そして忘れてはならないのが、クラウドインテグレーションに取り組むSIerや、運用管理サービスなど関連サービスを提供するベンダーが続々と増えている点である。クラウドサービスは、規模のメリットに大きく左右される特性があり、パートナーによるエコシステムが形成されれば、加速度的に規模のメリットが大きくなる。
中堅SIerのサーバーワークスは、Amazonのパブリッククラウドサービスに焦点を当てた運用管理サービスを軸に急成長している。サービス名は「Cloudworks」で、日本語による分かりやすいインターフェースを備え、トラフィック量のモニタリング、操作の自動化などを可能にしたものだ。Amazonは二つの出来事がきっかけで、「ユーザー数が急増している」(大石良代表取締役)という。今春に首都圏のデータセンター(DC)を選べるようになったことと、東日本大震災による事業継続計画(BCP)や災害復旧(DR)ニーズの高まりだ。
「Cloudworks」は、2010年4月から2011年3月までの1年間に400ユーザほど増えたが、震災以降の3か月だけの増加分で1000ユーザーをすでに超えている。Amazonでは、首都圏DCやシンガポール、米国などを明示的にユーザーが選べるようにしており、「ユーザーによっては複数国のDCデータを分散保管する動きもある」(大石代表取締役)と、BCP/DR意識の高まりがみて取れる。さらに、ユーザー社内に設置してあるサーバーで稼働する業務アプリケーションをAmazonに移行。社内のサーバー稼働台数を減らすことによる節電を狙うユーザーも増えた。
日立ソリューションズも、パブリッククラウド向け運用管理サービス「RightScale」を採用。米RightScaleが提供しているもので、Windows Azureにも対応を予定するなど、複数のパブリッククラウドを統合的に管理することを視野に入れている。
世界的インフラに発展  |
富士ソフト 大迫館行クラウド統括部長 |
グローバルでサービスを提供するパブリッククラウドの規模は、計り知れないほど大きなものがある。端的な例では、初期のYouTubeはマッチ箱くらいの映像しか見ることができなかったが、今ではフルHD画像を投稿し、世界中のユーザーが自由に何度でも閲覧できる。パブリッククラウドも同様で、わずか数年で世界的なインフラに発展してきた。SIerは、自ら運営するDCサービスを生かしつつ、パブリッククラウドをうまく活用した“クラウドインテグレーション”を増やすことで、クラウド時代への適応を進める。
JBCCは、SalesforceとGoogle、Amazonのパブリッククラウドと、ユーザー先に設置したりJBCCのDCにアウトソーシングしている基幹系システムとのハイブリッド型のシステム構築に取り組む。今後は、Windows AzureやIBM Smart Business Cloudも積極的に取り入れていく方針で、「ユーザーには『JBCCはクラウドの提案に弱い』とは絶対にいわせない」(近藤隆司執行役員)と断言し、パブリックやプライベートなどさまざまなクラウドをインテグレーションしたサービスを拡充する。今年度(2012年3月期)、JBCC単体ベースでのクラウド関連SIの売上高は「前年度比4~5倍を見込む」(近藤執行役員)と鼻息が荒い。
世界四大パブリッククラウドのすべてのビジネスパートナーになっている富士ソフトは、「当社のDCを活用したプライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせたハイブリッドサービスでビジネスを伸ばす」(大迫館行クラウド統括部長)という方針を明確に示す。
サーバーワークスでは、運用管理サービスの「Cloudworks」を始めてから、「パブリッククラウドを活用したSIもやってくれないか」というユーザーからの引き合いが急増。売上高全体に占めるクラウド関連SIの比率は、2011年9月期で前年度の3~4倍に相当する15~20%に増える見込みで、2012年9月期は「売上高構成比で3割に拡大する可能性もある」(大石代表取締役)と、売上高全体を押し上げる効果が如実に出始めていると語る。
業界共通から社会基盤へ  |
アクセンチュア 長部亨シニア・マネジャー |
パブリッククラウドは、ただ安くて使い勝手がよいというだけではない。パブリッククラウドは規模の進化を果たした後、「“社会基盤”へと進化、発展する可能性がある」と、アクセンチュアの長部亨・IT戦略・インフラグループシニア・マネジャーは指摘する。上図の「パブリッククラウドの成熟度モデル」で示した通り、ステップ1として、パブリッククラウドの「試行」から始まり、ステップ2で基幹業務システムとの連携を前提としたハイブリッド型へと移行する。現在は、ユーザーが所有するシステムの一部機能を切り出して、コスト削減やBCP、DRに役立てる動きが活発になっているステップ2の段階まできている。
アクセンチュアは、成熟度合いがさらに高まれば、その次のステップ3で「業界共通」の基盤として活用され、最終ステップで「社会基盤」としての役割を担うようになると予測している。業界共通基盤とは、次のようなものである。ある業界で共通して使える業務システムがあったとする。例えば自治体や地方銀行の共同利用システム、複数企業で使うことを前提とした電子データ交換(EDI)のようなものをイメージすると分かりやすい。競争力に直接関係するコア(中核)業務の部分の共通化は難しいだろうが、ノンコア業務で、かつ業界共通で使えるものは積極的にクラウドへ切り出して共有し、業界全体のコストダウンを図ろうというものだ。
最終ステップの「社会基盤」では「業界横断のバリューチェーンの基盤になる」(長部シニア・マネジャー)と業際的な共通システムを支えるようになるとみる。
アクセンチュアは、過去に課金や認証、顧客管理などさまざまなソフトウェアモジュールをクラウド上で開発してきた。例えば、こうしたモジュールを「社会基盤」としてのパブリッククラウドに実装し、業界や業際の共通モジュールとして提供することを視野に入れる。「社会基盤の一部を担う」(同)ことで、サービスによる収入や関連SIビジネスが見込めるというわけだ。
電算室の延長線から脱却  |
東洋ビジネスエンジニアリング 荒川尚也部長 |
 |
TIS 中西康博部長 |
東洋ビジネスエンジニアリングの荒川尚也・クラウドソリューションコンサルティング部長は、「パブリッククラウドをユーザー企業のファイアウォールのなかに置いていては発展の余地が限られる」と指摘する。つまり、今はユーザーの社内システムとVPNや専用線に相当するネットワークでパブリッククラウドとを結び、いわば擬似的な社内電算室のように使っている。これでは、ただ単に電算室のサーバーがパブリッククラウドに移行したに過ぎない。インターネット上にあるパブリッククラウドの利点をより生かしていくには、業界全体で活用できる業務アプリケーションを積極的に開発し、共通プラットフォームにすることが望まれる。
製造業向け基幹業務システム「MCFrame」やグローバル対応ERP・会計システム「A.S.I.A.」などを開発する東洋ビジネスエンジニアリングは、こうした既存の業務アプリケーションのクラウド対応を進めている。とりわけメインユーザーである製造業は海外進出が著しく、世界のどこからでも利用できるクラウド基盤は活用の余地が大きい。将来は、業界全体で活用できるようなプラットフォームづくりも視野に入れながら、自社のグローバルビジネスにパブリッククラウドを取り入れていく方針だ。
大手SIerのTISは、パブリッククラウドとインターネットの関係性に着目し、ネット上のソーシャルネットワークと自社で開発しているグループウェア「ナレジオン」の連携を模索する。すでにSalesforceの顧客管理・営業支援システムとの連携は可能だが、将来は「ネット上で日々繰り広げられる一般ユーザーの何気ない会話から、顧客企業の役に立つ情報を抽出するソーシャルマーケティングの手法を取り入れたい」(中西康博・アドバンストソリューション事業統括部長)としており、ネットとの親和性の高さをビジネスに応用する考えを示している。
“黒船”を乗りこなせ
パブリッククラウドは、「業界プラットフォーム」や「社会基盤」「ソーシャルマーケティング基盤」など、さまざまな発展の可能性を秘めている。だが、見方を変えればSIerのシステム基盤ビジネスやDCサービス事業の一部を代替してしまう危険性もある諸刃の剣だ。それでも有力SIerが相次いで積極活用を表明するのは、パブリッククラウドがもはや押し戻すことのできない巨大な潮流になっているからにほかならない。日立ソリューションズの西條洋執行役員は、「黒船に恐れるのではなく、黒船を自分のものとして、いかにうまく乗りこなすかを考えるべき」と指摘する。日本のSIerは、これまでもWindows OSやLinuxなど外来技術を巧みに使いこなしてきた。基盤技術が外来であっても、SIビジネスがなくなるわけでない。むしろ活用することで新たなビジネスチャンスを掴むことにつながる。