第2章 これまで
リーマン後の市場鈍化が鮮明に サブプライムローン問題が火種となって、世界経済が恐慌にへ向かうと心配された08年。同年5月に開催した07年度(08年3月期)の決算発表後に記者の取材に答えたトヨタ自動車の渡辺捷昭社長(当時)が発したひと言が、コピー・プリンタ業界に波紋を引き起こした。「総天然色でカラーコピーも多用してムダだ」と、カラーコピーを切って捨てたのである。
コピー・プリンタ業界は、この発言をマイクロソフトの「PowerPoint自粛」と受け止めた。実際には、トヨタはとくに自粛令は出していなかったようだが、それでも多くの大手企業がカラー印刷・コピーを制限するなど、原価低減に向けた取り組みが加速し、単価が高いカラーコピーチャージは減っていった。さらに08年9月のリーマン・ブラザーズ破綻を経て、国内のコピー・プリンタ市場は、大幅な減速期に突入したのだ。
それまでの市場は、好調の反動で07年に対前年でマイナス成長となった以外、乱高下を続けながらも、緩やかに成長してきた。遡れば、04年11月施行の「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(e文書法)を受けて、徐々にカラープリンタ/複合機需要が出始めた。翌年の「個人情報保護法」や07年の「金融商品取引法(J-SOX法)」などで内部統制強化へのムードが高まり、機密情報の頒布で情報漏えいの心配が懸念された紙ドキュメント関連のセキュリティ整備を急ぐ企業が増えていったのである。
リーマン・ショック後の退潮期を経て、落ち込みをみせる他のIT商材と異なり、今度は「環境配慮+コスト削減」をうたい文句に、再び成長軌道へ転じた。ところが、この“スイートな時代”は長続きしなかった。東日本大震災の影響で、3月末までに納品できなかったせいで、コピー・プリンタは復興時に販売台数が一瞬伸びたが、これ以降は、特段、成長へ向けたプラス材料が見当たらない。

セイコーエプソンは、意欲的に製品を揃えたが、その成算はいかに
「利用」への動きを見越して対策 リーマン・ショック以降、国内企業の経営陣は、生き残りにかかわる重要な経営施策として「聖域なき経費削減」を実行した。ITシステムで真っ先に矛先が向けられたのは、印刷をモノクロだけに自粛する動きなど、コピー・プリンタ分野のコスト削減だった。
この減速期の真っ只中、08年10月にLED(発光ダイオード)の新ブランド「COREFIDO」を立ち上げたのが、OKIデータだ。「企業は、キャッシュフロー・ベースでの利益向上を図ろうとして、IT機器を購入するのではなく、サービスを利用することが得策と認識し始めた」と、同社の中里博彦・執行役員プリンタ事業本部長は述懐する。
OKIデータの「COREFIDO」は、100年に一度の不景気の逆風が吹くなかでの船出だった。しかし、結果的には成功を収めた。今年度(2012年3月期)は、第4四半期でページプリンタの国内シェアが四半期ベースで大台の10%到達に迫る成長を遂げている。この当時、同社は新ブランドの投入と同時に「所有から利用」の潮流を感じて、次なるサービス形態の国内提供に手を着け始めている。
「所有から利用」の流れは、クラウド・コンピューティングを提供する側がサービスを利用するメリットをアピールする際に使う常套句だが、コピー・プリンタ業界にも、同様の流れがやってきた。
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)の川東道明・コーポレートMFP企画課課長も、そうした時代の流れを実感する一人だ。「ITを利用するムードが高まるなかで、MFPの役割として、業務の多様化・複雑化への対応が求められている」。同社は既存の遠隔サービスに新サービスを付加したり、クラウド・サービスとMFPの連携などを数年前から検討したり、徐々に実行に移している。
キヤノンが、「新世代の複合機」と銘打って、カラー複合機の新ブランド「imageRUNNER ADVANCE」を立ち上げたのは、MFP市場がどん底にあった09年7月のことだ。今振り返ると、クラウド普及の新時代に向けた下準備となる先見の明のあるモデルチェンジだったといえるだろう。

OKIデータは、「5年間無償保証」で台頭するも、次なるサービス戦略を模索
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