5年後のICT市場
いよいよスマートシティの出番
普及は少しずつだが確実に ICTベンダーがスマートシティ事業に本腰を入れれば、5年後にはスマートシティが確実に普及し、ICTの商流が大きく変わる。スマートシティを実現するために、物理インフラとICTインフラを提供する各事業者のアライアンスが欠かせない。さらに、中堅・中小のSIer/NIerもスマートシティに参加するなど、プレーヤーの幅が広がることが見込まれる。
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新世代M2Mコンソーシアム 奥屋滋 理事 |
少子高齢化による税収の減少や社会保障費の増大、物理インフラの老朽化、電力供給不足──。こうした課題を抱えている日本には、ICTを基盤としたスマートシティを本格的に普及させるべき時期が到来している。省庁や地方自治体もスマートシティづくりの必要性に対して意識を高めている。日本IBMの岩野スマーター・シティー技術戦略担当は、「今、スマートシティはいい方向に進んでいる」との見解を示す。
スマートシティがこれまで日本で本格的に普及してこなかった理由の一つとして、消費電力削減が売り上げ減少につながると懸念した電力会社による圧力があったことが考えられる。M2M/スマートシティの普及をミッションに掲げている新世代M2Mコンソーシアムの奥屋滋理事(会長代理)は、「日本では、発電する事業者と送電する事業者が別々である海外と違い、電力会社が全部を管理している。ベンダーとして、これまで入る隙間がなかった」と、わが国特有の事情を説明する。
しかし、東日本大震災の発生によって、状況が一変した。震災による福島の原子力発電所の事故と電力事情の悪化を境として、電力会社のポジションが大幅に弱まり、電力会社がスマートシティの普及にブレーキをかける確率が大きく下がってきている。
まずは“駅前スマートシティ” この特集では、「5年後に」スマートシティが普及するという仮説を立てた。もちろん、今後の5年で日本のすべての都市が隅々までスマートシティ化することは非現実的な話だ。むしろ、スマートシティ化が少しずつ進みながら、長いスパンでスマートシティが広範囲に拡大すると考えるべきだろう。とはいえ、スマートシティの部分的な進化によって、5年後にでも、ICT市場が大きな刺激を受けるポテンシャルは十分にあると、本紙編集部はみている。
NECのスマートシティ事業推進部の正力部長は、「省庁に対しての提案書には、『1年ずつのステップをたどって、5年後の都市はこう変わる』という具体的なシナリオを入れて、スマートシティを訴求している」という。NECが描く5年後のビジョンでは、住宅や工場、病院、駅、空港など、都市のあらゆるところでスマートなICTインフラが整っている。単独一社のベンダーが提供するとなれば、まさにビッグ・ビジネスになる(図5参照)。しかし、そう簡単には実現できるとは思えないので、「当面は、“駅前スマートシティ”のように、都市の一部をスマートシティ化させるのが提案のポイント」(正力部長)と語る。
中堅・中小ベンダーも参加 ICTベンダーがスマートシティのビジネス化を推進するにつれて、これまでとは異なるICTの商流が生まれてくる。スマートシティは、物理インフラとICTインフラを融合させることを特徴としているので、自社単独ではICTインフラを構築できない建設会社や住宅メーカーと、「物理インフラの素人」(日本IBMの岩野スマーター・シティー技術戦略担当)であるICTベンダーが連携をして初めて、スマートシティを実現することができる。さらに、センサやモジュールといったハードウェアを提供する電機メーカーもスマートシティに絡んでいるので、こちらもICTベンダーにとって一つの有望な提携先となりそうだ。
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KCCS 河之口達也 西日本営業統括部長 |
ネットワークに強いSIerの京セラ コミュニケーションシステム(KCCS)西日本営業統括部長の河之口達也氏は、「当社が本社を構える関西地区には、住宅メーカーや電器メーカーなど、その業界を代表する企業がたくさんある。彼らはICTが本業ではないので、スマートシティの実現に向けて当社がサーバーや無線インフラを提供するかたちで、新しい事業を展開したい」としている。
現時点では、大手ICTベンダーだけがスマートシティ関連の事業に取り組んでいるが、今後、スマートシティが普及すれば、中堅・中小のSIer/NIerにも商機が生じてくる。「将来、小規模な会社もシステム構築などでスマートシティづくりに参加することが予想される」と、NECスマートシティ事業推進部の正力部長はみている。
大手ICTベンダーが建設会社などと連携し、それにさらに中堅・中小のSIer/NIerが関わるというかたちで、スマートシティ市場のプレーヤーの幅が大きく広がると見込まれる。
お台場にスマートシティか 多くのICTベンダーがスマートシティ事業の一環として、電気自動車(EV)関連のソリューション展開を進めている。EV向けの充電システムサービスを提供する日本ユニシスがEV事業を強化するなど、ベンダーの動きを受け、全国のあらゆるところで、電気自動車向けのICT環境が整いつつある。M2Mコンソーシアムの奥屋理事は、「このように、自動車や道路がIT化されることによって、スマートシティの進化が大きな刺激を受ける」とみている。
今後、スマートシティ化が速いスピードで進むことが見込まれる地域は首都圏だ。「東京では、お台場が一番可能性が高い。お台場でスマートシティが誕生することは十分にあり得る」というのがM2Mコンソーシアムの奥屋理事の予想だ。日本は、まさにスマートシティの時代に入ろうとしている。

東京・お台場の空き地。ここにスマートシティが誕生する可能性が高い
“スマート田舎”にチャンス!  | NTTデータ関西 藤井浩司 社長 | ICTを活用して交通を改善するというスマートシティの考え方は、都市以外の地域にも展開することができる。NTTデータ関西は、“スマート田舎”のソリューション展開に取り組もうとしている。同社は、冬季に兵庫県で降雪災害が多発するとみて、センサとネットワークを用いて、降雪・積雪情報を収集・分析することによって、トンネルの交通管理を改善するソリューションの提供を検討しているという。藤井浩司社長は、「スマートITについては、ニーズが必ず増大する」とみており、早期の市場開拓に意気込みを示す。 |