IT産業全体が停滞するなかで、光が当たるSMB(中堅・中小企業)市場。「大企業に比べてIT投資が遅れている=潜在需要がある」と読み、多くのITベンダーは、このマーケットに目を向ける。5年先の国内IT産業全体の市場規模は変わらない可能性が高く、それだけにSMBマーケットでは激戦の展開が予想される。この市場で勝つ秘訣とは何か。(取材・文/谷畑良胤、安藤章司、ゼンフ ミシャ、信澤健太)
停滞が予想される国内IT市場
SMBに照準合わせるITベンダー
IT市場はほぼ横ばい 1.5%──。IT調査会社のIDC Japanが10月に発表した国内ITサービス事業の2010年~2015年の年間平均成長率の最新の予測値だ。かろうじてマイナス成長ではないものの、過去のITサービス事業の伸び率からみれば、悲観的に捉えるべき数字だろう。
IDC Japanは、「景気の後退や東日本大震災の影響といった一時的な要因だけではなく、ITアウトソーシングサービスの成長鈍化、ユーザー企業のIT支出の海外シフトといった長期的な要因によっても成長率が鈍化していく」と、慎重な数字をはじき出した背景を説明している。この先、国内のIT産業はほぼ横ばい。ITベンダーは、大幅な伸びが見込めない市場環境のなかで、成長計画を立てなければならないことになる。
マーケット全体の停滞・縮小がみえ始めると、国内のITベンダーが共通して注目するのが、SMB(中堅・中小企業)市場だ。国内のユーザー企業の全IT支出額のうち、約65%が従業員1000人以上の大企業(IDC Japan調べ)といわれる。企業数こそ少ないものの、国内のIT産業全体を支えているのは、ごくわずかな大規模ユーザー企業であるのが実際のところだ。
けん引役の大手ユーザー企業のIT投資が抑えられれば、これまでアプローチしてこなかったSMBのIT需要を獲りにいこうと、多くのITベンダーが考えるのは自然の流れ。これは、従来以上にSMB市場での激戦が待っていることを意味している。
SMB市場も厳しい環境 では、SMB市場は本当に伸びるのか。実は、2011年はITベンダーが考えるほど簡単ではなく、マーケットはシビアな状況だ。IDC Japanが予測した2011年の従業員1000人未満の国内SMB市場の前年比成長率は、マイナス8.6%。大幅に落ち込む見込みだ。東日本大震災の影響が大きなマイナス要因となっている。震災によるビジネスの縮小幅は、大手のユーザー企業向けよりも大きい。地域でみると、被災地の東北地方、そして関東地方が大きく影響を受けている。
しかし、2012年は回復基調に入る見込みだ。IDC Japanは、来年は金融業を除いたすべての産業でプラス成長に転じるとみている。また、この時期からは、東日本大震災はIT需要を喚起する材料にもなるという。「震災を契機にデータセンター(を活用したサービス)やクラウドコンピューティングに対する需要が拡大する」とみている。今年は厳しい環境に耐え、来年からが勝負の時期─それがSMBマーケットの見通しだ。
SMBのユーザーを攻めるにあたって、大企業とは異なるポイントが三つある。それが、「IT投資額が少ない」「IT投資を企画する担当者がいない」「情報システムを運用するスタッフが限られている」ということだ。つまり、大企業に比べて、ITに精通している人材が乏しいこともあって、IT投資に及び腰。高度で複雑な運用が必要な提案は受け入れられないわけだ。にもかかわらず、ITベンダーは、単価が安いので効率的な提案を行わなければならない。確かにIT化が大企業よりも遅れていて潜在需要は見込めるが、決して、簡単なマーケットではない。そんなマーケットで、今後受け入れられる製品・サービスとは何なのか。
[次のページ]