PBX(構内交換機)市場では、IP化だけでなく、スマートフォンの普及やユニファイドコミュニケーション(UC)の需要拡大によって、新たなビジネスチャンスが生まれている。PBXの販売を手がける各社の最新の取り組みを追いながら、従来型PBXとIP-PBXビジネスの可能性を探る。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
PBXの需要は必ずある!
企業ニーズに適合する提案がポイント インターネットをはじめとするさまざまなコミュニケーションツールが発達している現代。そんななかにあって、いまさらPBXビジネスに商機があるのか──。
「レガシー」というイメージがつきまとうPBXが、実は有望な事業であるといえば、疑問に思う人が多いかもしれない。しかし、決して時代に取り残された機器というわけではない。PBXは企業の内外向けコミュニケーションのインフラ基盤として欠かせないもので、PBXを使用していない企業はないといっていい。今後も、PBX機能を提供する形態はさておき、PBXそのものの需要は継続して存在し続ける。
さらにいえば、法人向けスマートフォンの普及やユニファイドコミュニケーション(UC)の需要拡大が後押ししている。PBXの箱売りにとどまらず、携帯端末の内線化やビデオ会議といった周辺サービスを組み合わせたシステムを提供することが、有望なビジネスとなる可能性が大きくなってきているのだ。
まだまだ従来型PBXが多い PBXはおよそ10年前からIP化が進んでおり、ユーザー企業では、従来型PBXとその次世代となるIP-PBXの二つのタイプが使われている。電話回線の代わりにインターネットプロトコルを活用するIP-PBXの登場によって、PBXの販売会社は以前に比べてシステム構築に高度なスキルを求められるようになった。一方、ユーザー企業でもPBXの提案先が総務部からIT部門にシフトするなど、市場環境が大きく変化しつつある。
とはいえ、大企業を中心としてPBXのIP化が進んではいるものの、従来型のPBXが完全に姿を消しているというわけではない。まだまだ従来型PBXを使い続ける企業が多数を占めているのが、実際のところだ。その理由は、主にコスト面にある。IP-PBXを導入するためには、社内ネットワークの張り替えが必要となるなど、追加コストが発生するので、とくにIT投資に余裕がない中小企業は、IP-PBXの導入をためらう傾向がある。
調査会社のIDC Japanは、IP-PBX、VoIPゲートウェイ、IPフォンの三つを合わせた2011年の国内企業向けVoIP市場規模を1029億円とみており、そのうち、IP-PBXが約650億円を占める(下図)という。同社は、IP-PBXは大企業の主要拠点の導入が一巡し、成長が鈍化しつつあるとみている。また、記者が取材したPBXベンダー各社の担当者は、口を揃えて「中堅・中小企業(SMB)では、まだ従来型PBXが大半を占めている」と実状を語った。
市場にオープン化の兆し 先に、PBXを使わない企業はないと述べたが、そんな状況下にあって、PBXの製造・販売を手がけるベンダーは、(1)6~10年のスパンで生じるリプレース案件の獲得、(2)オフィス移転による新設案件の獲得、(3)競合他社の顧客企業を奪う──の三つのやり方で、PBX事業の拡大に取り組んでいる。PBXの有力メーカーには、NEC、日立製作所、沖電気工業(OKI)、富士通の国産4社に加え、シスコやアバイアといった大手外資系がある。国産メーカーは直接販売と間接販売の両方を行っており、間接販売では各社のグループ会社が主要なプレーヤーとなっている。メーカーは、従来型PBXとIP-PBXの両方に対応するハイブリッド機種をラインアップしているが、販社は、「IP-PBXを強く意識した売り方はしていない」とする三信電気のように、従来型PBXとIP-PBXの両方をユーザー企業に提案しているのが実際のようだ。
PBX市場は現時点では“閉じたマーケット”である。PBXはメーカーによって設置方法や使い方が大きく異なるので、販社は1社のメーカーに絞ってPBXの販売を行うことが多い。しかし、その閉じた市場に、スマートフォン/UCの普及によって、オープン化の兆しがみえてきた。新型モバイル端末対応の次世代UCプラットフォーム「Lync(リンク)」を展開する日本マイクロソフトをはじめ、スマートフォンの内線利用ができる電話発信アプリケーション「uniConnect(ユニコネクト)」を商材とするICT(情報通信技術)ベンダーのエス・アンド・アイ(S&I)など、PBX領域に関わるプレーヤーが増加中だ。さらに、PBXをクラウド型で提供するベンダーも現れている。
新しいかたちのPBXが登場するとともに、プレーヤーの多様化が進んでいる。次ページからは、PBXを取り巻く市場環境の変化を受けて、2012年はどのような商機が到来するか、各社の取り組みを通じて探る。
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