大量の情報を収集・分析し、経営改善に生かす「ビッグデータ」。メーカー系の大手ITベンダーは今年に入って、ビッグデータへの取り組みに本腰を入れている。データを活用し、ユーザー企業の価値創出に貢献する解はどこにあるのか。各社の動きをレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
ビッグデータのキーワード「Hadoop」
大量のデータを複数のマシンに分散して処理することができるミドルウェア。オープンソースソフトウェア(OSS)として提供されるので、誰でも無償で手に入れることができる。分散によって、情報処理の時間を短縮し、大規模のデータでも迅速に処理することが可能だ。こうしたメリットを生かして、IBMやEMCなど大手ITベンダーはHadoopを採用し、ビッグデータ分析・活用の製品化に取り組んでいる。開発したのは、米国の非営利団体「Apacheソフトウェア財団(ASF)」。
経営改善につながる新商材
2015年にはビッグデータの収穫期が到来
ビッグデータは、2011年半ばから有望な新商材としてIT業界で注目を集めるようになった。東日本大震災の後、Facebookなどソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の利用者が急増したことを背景に、単に大量情報を処理するのではなく、個人が発信するあらゆるデータをサービス改善やマーケティングに生かそうとする動きが生まれた。これが、ビッグデータ活用ビジネスの本質であり、10年ほど前に登場したものの、期待するほどには導入が進まなかったビジネスインテリジェンス(BI)との相違点である。
大手SIerの野村総合研究所(NRI)によると、2011・12年度は「ビッグデータ活用の黎明期」。IBMやEMCなど、メーカー系外資企業が大量のデータ処理に対応するDWH(データウエアハウス)製品などを投入し、ビッグデータ事業の基盤となる「データ収集」のレイヤーで商材化が進んでいるというわけだ。
NRIは、2013・14年度を、分散処理フレームワークであるHadoopの活用やHadoopエコシステムづくりが活発になる「ビッグデータ活用の発展期」とみなし、2015・16年度は、いよいよ収益化に期待することができる「ビッグデータ活用の普及期」が到来するとみている。
コンサルティングを強化 調査会社のIDC Japanも「3~5年後にはビッグデータ関連事業が黒字化する」(ソフトウェア&セキュリティ担当の赤城知子グループマネージャー)という見解を示す。IDCの米国本社は、2015年、ソフト・ハードとサービスを合わせて、ビッグデータ関連のグローバル市場が160億ドル(約1兆2800億円)以上の規模に拡大することを予測している。
ビッグデータの認知度が高まるにつれて、ユーザー企業はビッグデータ活用のメリットを意識し始めている。しかし、ビッグデータのソリューションを導入するには多額の投資が必要で、情報をどのように活用すれば価値を生み出すことができるかが不明な状況だ。そんななかで、導入の決断に踏み切った企業はまだ少ない。大手総合ベンダーとしてビッグデータの事業化に力を入れている富士通の小林午郎・戦略企画統括部部長は、「われわれIT企業は、ビッグデータ分析・活用ソリューションの市場を創造すると同時に、ベンダーとしてどう収益を上げるかを課題としている。まだマーケットがかたちになっていないなかで、新しいビジネスモデルをつくらなければならない」と、黎明期ならではの苦心を語る。
ビッグデータの事業化は、ユーザー企業への解析ツール提供だけで完結するわけではない。そのツールをうまく使って経営改善を図る方法を具体的に提案することが不可欠だ。だからこそ、富士通やNEC、EMCなどの大手ベンダーは、今年に入ってビッグデータを分析・活用するソリューションを相次いで発売しているのだ。加えて、データ解析のエキスパートの育成に取り組んでおり、“価値を生み出す”コンサルティングサービスの強化を急ピッチで推し進めているところだ。
また、NTTデータは今年2月、ビジネス・アナリティクス事業の数理システム社を子会社化するなど、分析コンサルティングのノウハウを獲得中だ。NTTデータに限らず、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)やSCSKなど他の有力SIerも、ビッグデータの事業化に必要な基盤づくりに本腰を入れている(図3参照)。
スモールスタートを提案 大手ITベンダーはビッグデータ分析・活用ソリューションの普及を図るために、「人」のファクターをこれまで以上に重視している。
およそ10年前にBIが登場したときは、データの種類が今ほど多様なものではなく、さらにHadoopのように高速処理ができるソフトウェア技術がなかったことが、BIの導入が進まなかった大きな要因となった。しかし、BIの普及を妨げる最も高い障壁となったのは、ユーザー企業にBIツールの具体的な活用シーンを指導するコンサルティング人材がいなかったことだと考えられる。ITベンダーは過去の経緯に学び、ビッグデータ活用に精通する人材の育成に最優先で取り組んでいるわけだ。
3~5年後に「ビッグデータ活用の普及期」の到来が予測されているが、それ以前でも、ビッグデータ関連でITベンダーにとってさまざまな商機が訪れるだろう。バッチ処理を高速化するソリューションの需要が高まっているのも、その一例。さらに、一部門にデータ分析ツールを導入するなど、ビッグデータの「スモールスタート」を決断するユーザー企業が増えつつある。そんななか、特定の業種に特化し、その業種の企業の業務課題をよく把握しているSIerは、自社の知識をコンサルティングサービスのかたちで大手メーカーに提供することが、ビッグデータ事業化の手がかりとなる。
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