国内の需要低迷につれて、日系企業の海外進出が急速に進んでいる。それにつれ、海外拠点のITシステムは、役割の重要性が高まっている。こうした状況に着目した国内のITベンダーは、海外進出企業向けの製品・サービスを投入し、東アジア向けを中心に実績を上げつつある。海外事業の成功が継続的な成長を支えるという構造になっているので、世界共通でガバナンスを利かせることのできるITを安価でしかも迅速に導入する傾向が強まっているからだ。海外進出企業向けの製品・サービスについて取材を行い、このところの傾向を探った。(取材・文/谷畑良胤)
外務省の「海外在留邦人数調査統計」によれば、日系企業の海外進出社数は、2005年の3万5134社から2010年には5万7332社まで増加している。とくに、地理的にも文化的にも近い中国への進出は著しく、この5年間でに倍増した。05年当時は、賃金が安い労働力を求め、製造業を中心に生産工場などの拠点としてアジア地域への進出が急激に増えた。しかし、日本の景気低迷で内需が振るわず、一方で新興国の賃金水準が上昇して可処分所得が増えたという事情を反映し、多くの日系企業は、「工場」としてでなく「市場」として海外へ踏み出すようになった。
海外進出は、いまや業種・業態を問わず盛んになっており、海外進出が未経験の企業も海外への展開を視野に入れるようになった。こうした動きと軌を一にして、海外に拠点を設けるに際してITシステムをいかにうまく導入するかが、重要な課題として浮かび上がっている。
連結会計システムを開発・販売するディーバの岩佐泰次・執行役員によれば、「欧米企業の多くは、海外進出に際して、マーケティング部門が最初に現地に赴任するので、本社システムと連携したバックオフィスを優先して導入する」という。今後は日系企業にもこの傾向が強まることが予測される。ただし、初めて海外進出する場合、厳密なリサーチをしたとしても、明確な適合性を導き出すことは不可能だ。そのため、進出企業の多くは、「拠点構築の初期段階で大がかりなシステムは導入したくない」と考えるのが普通だ。つまり、ITシステムを提供する側にとっては、既存顧客や新規顧客が海外進出する可能性があることに備えたメニューを用意することが重要になっているのだ。
【Volume 1】――Potential
海外進出企業の傾向
●ミニマムスタートはあたりまえ 大手システムインテグレータ(SIer)のSCSKは、2010年11月に自社開発の生産管理テンプレート「atWill Template」を発売した。製造業のビジネスプロセスのなかで受注から資材調達、製造、出荷までのフェーズを対応領域とした製品で、パッケージとスクラッチ(手組み)開発の長所を取り入れたイージーオーダー方式を採用した製品だ。自社のProActiveE2やSAPのERP(統合基幹業務システム)を手がけている同社が、生産管理を新規に開発したのには、「スクラッチであれば業務内容に応じてゼロから構築することになるので、開発期間が長く、投資額も大きくなる。一方、パッケージは短納期という長所はあるが、特殊な仕組みに応えにくく、顧客の満足度を得にくい」(産業システム事業部門の水元彰吾・営業推進部長)という理由がある。
日系製造業に提供する生産管理関連のシステムを「海外拠点対応」にするのはあたりまえの話だ。最近は、「拠点ごとにExcelや独自システムを使うやり方を標準化し、海外からの撤退を想定して初期のIT投資を最小限に抑えたうえで、段階的に展開したいというニーズが顕著だ」と、水元部長はみている。「atWill Template」のターゲットである製造業は、海外で新規工場の設置を模索している。ただ、「ビジネスサイズに合わせた導入と拡張をしたい」と要望が出ている。カスタマイズが多く発生するSAPなどでは実現不可能なことが、「atWill Temlate」では実現できる。部品を組み立てる方式なので、小さく導入して、拠点の成長に応じて機能を付加していけるからだ。生産管理システムに限らず、海外進出企業が拠点で導入するITシステムの希望は、「ミニマムスタート」が大前提なのだ。
●域内ITの標準化が加速 連結会計システム「Diva System」などを開発・販売するディーバは、今年に入ってから海外拠点の連結強化に関するソリューションを本格的に展開している。すでに複数の海外拠点を設けている企業は、海外を市場として捉え、自社製品の拡大に関連する拠点を適宜構築してきた。だが最近、例えば中国に複数拠点を置く大企業では、域内グループ企業の一元化を図り、より市場拡大へシフトするために地域統括会社を設けるケースが増えている。
そこでディーバは、海外地域統括会社向けソリューションとして「Diva System」やグローバル経営管理ソリューション「Diva System smd」などを組み合わせた地域統括会社向けのソリューションを売り出す。岩佐執行役員は、「海外拠点のグループ情報が一元管理されておらず、ガバナンスや分析強化の必要性が高まった。海外での意思決定を迅速化する目的で、統合化の流れが加速する」と予測。すでに先行提案をしているが、アジア地域に拠点をもつ企業から引き合いがきている。「Diva System」を自社のワークフロー製品に連携させているNTTデータイントラマートの中山義人社長も、「地域統括会社の下にIT部門を明確に配置する企業が増えた」と話す。域内システムの標準化対応は重要性を増す一方だ。
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