クラウド型サービスビジネスの進展に伴い、主要SIerは事業の付加価値向上に力を入れている。その代表格がクラウド型サービスのプラットフォーム戦略だ。ユーザーのコスト削減要求や、SIer自らのビジネス効率化に役立つ基盤整備こそが競争力強化につながる。(取材・文/安藤章司)
サービスビジネスで競争激化
従来型SIとは特性が大きく異なる
クラウド型サービスビジネスは、情報サービス業界で勝ち残っていくうえで欠かせない戦略事業になっている。主要SIerはサービスビジネスの領域でし烈な競争を展開しており、早くも優勝劣敗の兆しさえみえ始めている。サービスビジネスは、従来型のSI(システム構築)ビジネスに比べると収益モデルが大きく異なるだけでなく、戦略次第で競争上の優劣が出やすい特性があるからだ。ここでは、主要SIerのサービスプラットフォーム戦略を追う。
●戦略的な投資が不可欠に 主要SIerの多くは、従来型のSI(システム構築)ビジネスとクラウド型サービスビジネスを両輪としてビジネスを伸ばそうとしている。だが、このサービスビジネスには、優勝劣敗が現れやすいという特性があることが明らかになってきた。競争力の源泉となるのが“プラットフォーム戦略”であり、このサービスプラットフォームの充実をいかに図り、より多くのシェアを握るかで、将来発揮するパフォーマンスが大きく異なってくる。先進的なSIerは、すでにこの点に着目しており、プラットフォーム領域に戦略的な投資を行っている。
クラウド型ビジネスは、図1に示したように「パブリッククラウド型」と「プライベートクラウド型」に分かれるが、SIerの主戦場になるのは「プライベートクラウド型」から「ハイブリッドクラウド型」にかけてのゾーンであり、ハイブリッド型のほうがプライベート型よりも低料金であることを前面に打ち出して優位性をアピールしている。つまり、ハイブリッド型でどこまで魅力的なサービスを提供できるかが、サービス事業の優劣を大きく左右するわけだ。
サービスビジネスは、(1)データセンター(DC)設備、(2)ミドルウェア、(3)アプリケーションの各層に分かれる。SIerごとに強みを打ち出す領域は異なるものの、大手SIerは最もレイヤの低いDCから徹底した見直しを進めている。野村総合研究所(NRI)は、今年11月の5か所目のDC竣工を待たずに、関西地区で新たな最新鋭の第3世代DCの建設を検討することを明らかにした。その理由は「既存のDCでは競争力に乏しいから」(室井雅博専務)というものだ。
仮想化技術をはじめとする技術革新によってDCは加速度的に集積度を高めている。NRIが主力としているDCはユーザーから根強い人気を得ている都市型だ。地価の高い都市部でコストパフォーマンスを高めるには集積度を高めるのが手っ取り早い。これを効率よく実現できるのはクラウドにネイティブ対応した第3世代DCだけであり、先行投資がかさんだとしても戦略的に投資する価値があるというわけだ。
●ミドルウェアに特色  |
インテック 滝澤光樹社長 |
(2)のミドルウェアも、SIerならではの特色がよく現れる部分である。ミドルウェアはハードウェアとアプリケーションの中間に位置し、複雑に入り組むクラウドサービスの性能を大きく左右する。具体的には運用の効率化や認証・課金、外部パブリッククラウドや別システムとして運用しているプライベートクラウドとの連携など、ミドルウェアはクラウド型サービスプラットフォームのソフトウェア領域の中核部分を担う重要なレイヤだ。
図1でいうパブリックからプライベートまで幅広く対応しなければならないSIerは、ミドルウェア層の充実なしには、守備範囲を統合運用できない。ITホールディングスグループのインテックは、国内初の広域仮想クラウドサービス「EINSWAVE(アインスウェーブ)」を今年6月に立ち上げた。
1980年代から取り組んできたVAN(付加価値通信網)で、数多くの実績を上げてきたインテックは、この通信ノウハウを駆使して首都圏と北陸、関西の3地域にあるDCを相互接続し、広域仮想クラウドサービスを業界に先駆けてスタートした。ここで活躍するのが運用管理を完全二重化した独自の運用システム「はやぶさ」や、インテックが運営する首都圏、北陸、関西にある計6か所のDC、クラウド統合ミドルウェアといったプラットフォーム群である。インテックの滝澤光樹社長は、「通信に強いインテックならではのクラウド型サービスプラットフォーム」だと胸を張る。
他の主要SIerをみても、NTTデータの「BizXaaS」や、ITホールディングスグループのTISの「TIS Enterprise Ondemand Service(T.E.O.S.)」、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループの「SOLTAGE」、新日鉄ソリューションズの「absonne(アブソンヌ)」といった具合に、それぞれの特徴を生かしながらミドルウェア開発に取り組んでいる。
(3)のアプリケーション層については、業種業態に合わせてもともとSIerがつくり込んできた領域であり、特色は出しやすい。自らDCやミドルウェアに投資することが難しい中堅・中小のSIerでも、業種アプリのつくり込みでは、それぞれの得意分野で強みを生かすことができるので、アプリ層と距離を置くホスティング系やプロバイダ系の事業者が運営するプラットフォームと連携することで、大手SIerと対抗できる可能性が高い。次項からは、ミドルウェア層を中心とした主要SIerのプラットフォーム戦略を探る。
[次のページ]