サイボウズ青野社長に聞く
クラウドの舵取りをどうするか?
9月26日、サイボウズ(青野慶久社長)は、クラウド事業に関するプライベートイベント「cybozu.comカンファレンスII」を開催した。2011年末から急速にクラウドビジネスを加速しており、新たな施策も目白押しである。青野社長に戦略をたずねた。
──カンファレンスでは、過去最大の集客実績を示した。サイボウズがクラウドに舵を切る姿勢がより鮮明になったと感じる。 
サイボウズ
青野慶久社長 青野 クラウドの時代がくることは予測していたが、それがパートナーにとって天国か地獄か、わからないまま事業を始めた。当初は直販で始めたが、10か月以上経ってわかったのは、パートナービジネスの重要性はあまり変わらないということだ。SIは必ず残る。例えば、「kintone」に関して教育してほしい、アプリをつくってほしい、認証を連携させたいなど、どんどん要望が出てくる。パートナーもそれを理解しつつある。クラウドとイントラネット、あるいは他のクラウドを組み合わせて提供するクラウドインテグレーションの時代に突入している。
今、「cybozu.com」の「Office」は80%が直販だ。今までグループウェアを購入しなかった中小企業が5ユーザーや10ユーザーで導入している。「Garoon」は、間販の比率が一気に上がってきていて、先月は75%に及んだ。パートナーは、クラウドがいかに手離れがよいか気づき始めている。
──中小企業市場の攻略に向けての取り組みは? 青野 戦略製品の一つが「メールワイズ」だ。1ユーザー月額500円で、2ユーザーから購入できる。従業員が5人程度であれば、スケジュールを共有する必要はあまりないのかもしれないが、メールは共有したほうが便利。メールを使っていない企業はない。中小企業のファーストクラウドとして使ってもらいたい。
中小企業といっても、十把ひと絡げに捉えてはいけない。業種・業態が異なるだけでなく、ITを使いこなしている企業があれば、そうでない企業もある。「kintone」は、1社ごとに異なるニーズに柔軟なカスタマイズ性で対応できる。
──いつまでにクラウド事業の黒字化を見込んでいるか。 青野 「メールワイズ」の利用料金を月額500円としたのは、ちょっと安すぎた(笑)。1000円以下のサービスを積み上げてビジネスにするのは予想以上に大変だ。2000社のユーザーを抱えていても、「この程度の売り上げか」と思うことがある。本当に長く取り組んでいかないといけない。
市場は、淘汰の時代に入っている。顧客基盤が弱いITベンダーは厳しい状況を迎える。月額500円よりも、さらに安価で提供するのはきついだろう。昨年から2年間は赤字を垂れ流していくつもりで、僕らでもギリギリだ。1年後には単月で黒字にもっていきたい。
【パートナーの声】内田洋行
「すぐれた製品を出し続けてほしい」

内田洋行
朝倉仁志執行役員 内田洋行の朝倉仁志・執行役員情報事業本部情報エンジニアリング事業部事業部長は悩んでいた。「cybozu.comカンファレンスII」に登壇した朝倉執行役員は、「2年前に青野社長から『クラウドをやる』といわれて、ちょっとネガティブな気持ちになっていた。クラウドビジネスは、われわれのようなSIerにとっては大きな経営負担になるからだ」と心情を明かした。
葛藤を経て導き出した答えは、「サイボウズ製品がすべてを解決してくれるわけではなく、業務の一つに過ぎない」というシンプルなもの。朝倉執行役員は、「サイボウズ製品は軽くて、安くて、導入のしやすさでは圧倒的。国産のなかでは業界をリードしている。パートナーへの指導は期待しないから、その分、高い技術力にコミットしてすぐれた製品を出し続けてもらいたい」と激励する。
記者の眼
調査会社のノークリサーチによると、年商500億円未満のSMB市場では「サイボウズOffice」を筆頭に、「Lotus Notes/Domino」、「Microsoft Exchange Server」の順で支持が高い。ここ数年、順位は変わっていない。ただし、「Google Apps」や「Office 365」など、シェア上位以外の製品/サービスの動きが徐々に活発化。有力ITベンダーがこぞってSMB市場にてこ入れし、シェアを拡大している。競争が激化するなかで、クラウドやスマートデバイス、ソーシャルなどにいかに迅速に対応できるかが問われる。生き残りをかけた戦いはこれからが本番だ。