大手SIerの業績回復が鮮明になってきた。震災でワンテンポ遅れた景気の上向き基調が、SIerの業績にも現れてきたようだ。だが、欧州経済の低迷や国内大手電機の不調、中国ビジネスの失速など、マイナス要因も決して少なくない。(取材・文/安藤章司)
持ち直す国内IT市場
不透明さは変わらず
大手SIerを中心に業績が上向いている。国内市場でのIT投資が増えていることや、情報サービス業の業界再編に伴う連結子会社拡大の効果、データセンター(DC)をベースとしたサービス型ビジネスが底支えしていることなどが理由として挙げられる。だが、ユーザー企業を取り巻く事業環境が一様に好転しているとはいえず、来年度以降もIT投資が継続するかどうかは不透明なままだ。
●業況判断指数は良好 SIer最大手のNTTデータの上半期(2012年4~9月期)連結売上高は前年同期比5.8%増の6048億円に拡大。営業利益こそ2.0%ほど下回ったものの、国内市場が緩やかに回復していることに加え、M&A(合併・買収)による連結子会社拡大が売り上げの増大につながった。M&A効果でいえば、野村総合研究所(NRI)もNRIシステムテクノ(旧味の素システムテクノ)を連結子会社化したことがプラス要因の一つとなり、上半期連結売上高は前年同期比8.0%増の1743億円、営業利益も2.5%増の205億円に増えた。
ITホールディングス(ITHD)の上半期連結売上高も、期初計画を上回る前年同期比5.1%増の1625億円、営業利益については同じく期初計画の50億円を大きく上回る72億円(54.8%増)に達している。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、同社がもともと強みとしている通信事業者向けの基盤システム構築がけん引するかたちで、上半期連結売上高は12.2%増の1463億円、営業利益は14.4%増の100億円。新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)は上半期としては過去最高の前年同期比7.2%増の816億円、営業利益8.1%増の54億円で、通期でも過去最高の1700億円を見込むと、勢いを増している。
図1は、IT調査会社のガートナー ジャパンが調べた日本企業のITサービス支出の推移だ。2008年のリーマン・ショックの翌年に大きく落ち込み、その後、マイナス成長ながらも回復に向かったものの、東日本大震災で再び足踏み。2012年にようやくプラス成長に転じる見通しである。情報サービス産業協会(JISA)が情報サービス業の売り上げ見通しと雇用判断のDI(業況判断指数)を調べたところ、2012年10~12月期の売上高全体の予測DIは7.5ポイントのプラスとなった。7~9月期の15.6ポイントプラスに比べてプラス幅は縮小したものの、依然として業況感は良好とみている経営者が多いことを示している。さらに、9月時点の雇用判断では11.9ポイントプラスで、ここ数年来続いていた人員の過剰感が弱まり、不足感が強まっている傾向がみられる(図2参照)。
●組み込みソフトにも底打ち感 だが、欧州経済の低迷や国内大手電機の不調、日中関係の悪化などの不安要因が少なくないことから、「楽観できない」(大手SIer幹部)という見方が大勢を占める。公共・金融分野は海外情勢に左右されにくいが、製造や流通・サービスなどの産業系は、世界経済の動向と密接に連動する。
自動車は北米を中心に堅調だった一方で、パナソニックやシャープをはじめとする電機は依然として厳しい状況だ。電機・電子と密接に関わりがある組み込みソフトは、従来型携帯電話機(フィーチャーフォン)と、デジタルテレビなどの情報家電、カーナビゲーションなどの車載機器が“組み込み三大需要”といわれていたが、従来型携帯電話やテレビの市場が崩壊状態であることから大きく落ち込んでいた。だが、ここへきてデータ通信量が多いスマートフォンに対応するために、携帯通信キャリアによる通信基地局の投資が拡大。この基地局向けの制御ソフトや、車載機器に支えられて底打ち感がみえてきている。
独立系SIerで、組み込みソフト最大手の富士ソフトの上半期の組み込みソフト開発の連結売上高は、前年同期比12.7%増の199億円に回復した。坂下智保社長は「自動車や携帯電話の通信基地局に関連する受注が堅調に推移したため」と説明する。同じく組み込みソフト開発に強い有力SIerのコアが計上した組み込みソフトの上半期売上高は、自動車関連に支えられたものの、携帯電話端末の開発規模縮小をカバーできず、前年同期比8.9%減に甘んじた。ただし、通期ではスマートデバイスの対応強化やM2M(マシン・ツー・マシン)分野に注力することで、前年度比11.9%増の108億円を見込む。
一方、日本にとって米国と並ぶ規模の貿易相手国である中国では、9月以降の尖閣諸島を巡る一連の問題で日本製品・サービスの不買運動が続いており、自動車をはじめとするコンシューマ向け商材の販売不振が続いている。
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