失速するか、中国ビジネス
リスクと向き合うSIerの姿勢
ユーザー企業のビジネス動向はIT投資に大きく影響を与える。日本企業が多く進出する巨大市場・中国でのビジネスの失速は、SIerのビジネスに直接的にも間接的にもさまざまな影響を与えることは必至だ。大手SIerトップは、「中国リスク」にどう向き合おうとしているのか──。
●懸念される「遅効性」 
新日鉄住金ソリューションズ
謝敷宗敬社長 情報サービス業には、景気動向の変化から半年ほど遅れる「遅効性」があり、リーマン・ショックの際も同様だった。日本の産業は中国と密接不可分の関わりがあるあるだけに、いわゆる「中国リスク」の顕在化から「4~5か月ほど遅れて情報サービス業に影響が出てくる可能性がある」(新日鉄住金ソリューションズの謝敷宗敬社長)とみて、年明け以降に影響が出てくることを懸念する。尖閣問題に端を発する大規模な反日デモが起きて以来、中国では日本製品・サービスの不買運動が続いている。9~10月にかけて、主要な日本車の販売台数が前年同期比で4~5割落ちたとの情報もあり、予断を許さない。反日デモの参加者の一部が暴徒化し、日本車を破壊する行為が相次いだため、いつ起こるかわからない反日デモを警戒して、中国のユーザーが日本車を敬遠する動きもある。
調査会社の帝国データバンクが10月下旬、全国2万2879社に対して行った調査によれば、日中関係の悪化によって企業全体の約3割が「悪影響を受けた」と回答し、自動車をはじめとする輸送用機械や器具製造ではおよそ6割、機械製造も5割余りが悪影響を受けたと答えている。日中関係の悪化による業績への影響の有無については、「わからない」と回答した24.6%の企業を除き、「何らかの影響がある」と回答した企業を母数として、今後の売り上げ見込みをたずねたところ、母数全体の33.6%が「減少」、52.9%が「変わらない」で、「わからない」が11.8%と回答。「増加」する見込みだとしたのはわずか1.7%だった(図3参照)
実際に中国に進出し、現地で多くの日系ユーザー企業を顧客に抱えているSIerはもちろんのこと、たとえ中国に進出していないSIerでも、中国問題によってユーザー企業の業績が悪化すれば、間接的に影響を受ける危険性は十分にある。それだけ中国市場と日系企業の関係は深く、SIerは注意深く市場動向を分析している。
●「本来的な政策」を待つ 
NTTデータ
岩本敏男社長 日中関係が悪化している状況について、世界主要市場で事業を展開するNTTデータの岩本敏男社長は、「中国で現在進んでいる政権委譲が終わり、来年以降、中国の本来的な対日政策がみえてくるまでは静観するしかない」とコメントする。岩本社長は言外に“今は本来的な政策ではない”というニュアンスを含ませており、中国も日中関係の決定的な破綻を決して望んでいないとみている。これまで100回以上も中国に足を運び、NTTデータきっての“知中派”として知られる岩本社長は、中国トップレベルの多くの経営者との交流があり、かつNTTデータ自身、中国で4000人規模の社員を擁している。こうした情報リソースを集約しての見方だけに、岩本社長の言葉には重みがある。
9月には中国全土を揺るがす大規模な反日デモが巻き起こり、その後も連日のように中国の海洋監視船が尖閣諸島周辺に姿を現す異常事態ではあったが、岩本社長は「中国法人4000人のスタッフのうち、浮き足だったり、業務をおろそかにしたりするような社員は誰一人としていなかった」と状況を語り、大半の良識ある中国人は政治と経済に分別をもって臨んでいるという見解だ。
NTTデータの海外売上高2000億円余りの地域別構成比は、米州が約5割、EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)が約4割、その他が中国を含むアジア・太平洋地域となっており、業績面では現段階ではほとんど影響がないという。中国でのビジネスは、(1)主に日本向けのオフショアソフト開発、(2)中国に進出している日系企業向けビジネス、(3)中国地場ユーザーに向けたビジネスの三つに分けられるが、(1)については「中国の誠実で勤勉な当社社員と協力会社に支えられているので、影響はない」と断言する。
野村総合研究所(NRI)は中国拠点を多数展開すると同時に、中国国内の9地域21社、およそ4000人のオフショア開発パートナーを擁している。NRIの嶋本正社長は、「オフショア開発はまったく問題ない」と、中国の地場SIerをはじめとする協力会社の商魂の逞しさに舌を巻く。中国政府にとっても外貨を稼ぐ重要な産業の発展を阻害するような自傷的行為を行うはずがなく、対日オフショア開発についてはひと息ついている状態だ。
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