ハードやソフトを卸すディストリビュータが、サービスを強化することで新しいディストリビューションのビジネスモデルを構築しようとしている。サービスを提供することがあたりまえになりつつあるなかで、各社ともディストリビューションのあるべき姿を模索中だ。販社を通じてユーザー企業にサポートするモデルやクラウドに代表されるアプリケーションサービスなど、手法はさまざま。大手ディストリビュータ4社が取り組んでいるサービス関連のビジネスを探る。(取材・文/佐相彰彦)
サービスビジネスが拡大する理由
製品だけでは生き残れない
サービス卸を視野に入れる
調査会社のIDC Japanによれば、国内サーバー市場は縮小傾向をたどっている。2012年第2四半期(4~6月)の時点で前年同期比18.5%減の1045億円。東日本大震災の影響でサーバーの出荷がずれ込んで昨年4月に大幅に伸びたが、その反動が起きて、今年4月は前年同期を大きく下回ったことが要因。IDC Japanは、市場規模は昨年の特需を除いたとしてもやや上回った程度と捉えている。一方、クラウドサービスは大幅に伸びている。IDC Japanは、昨年の国内パブリッククラウドサービスの市場規模が前年比45.9%増の662億円となり、今年は前年比46.0%増の941億円規模になると予測している。
このような市場環境は、ハードやソフトを卸す事業がメインのディストリビュータにとって、製品を提供しているだけでは生き残れないことを意味している。さらには、製品だけに頼っていたのでは他社との価格競争に巻き込まれる可能性が高く、収益を確保できないという状況に陥る。こうした観点から、各社ともサービス戦略を打ち出しているのだ。ここでは、国内の4大ディストリビュータである大塚商会、シネックスインフォテック、ソフトバンクBB、ダイボウ情報システムの戦略をみていく。
【大塚商会の戦略】
ウェブEDIでサービスを卸す
──セミナーや構築支援で販売促進

塩川公男
取締役 大塚商会の会員制販社向けウェブEDI「BP PLATINUM(BPプラチナ)」の販社利益率が、年率10%増で推移している。ウェブEDI経由の受注率は、販社からの受注全体の10%程度にまで達している。今後も、利用率と受注率ともに伸びていくと見込んでおり、次のステップとしてハードやソフトの取引だけでなく、販社からセミナーやシステム構築支援の依頼を受けるなど、サービスを卸すサイクルを構築しようとしており、従来よりも販社へのサポートを手厚くする方針を掲げている。
「BPプラチナ」の会員数は、現時点で約8000社。ビジネスパートナー事業部を率いる塩川公男・取締役兼上席常務執行役員は、「今では会員企業の約50%が頻繁に使っている状況」と、ウェブEDIを通じて販社との取引が増えたほか、コミュニケーションが活発化したことに自信をもっている。
利用率が高まっている要因の一つは、「ビジネスパートナー事業の社員すべてが使うようになったから」とみている。営業担当者が日常業務のなかで頻繁にアクセスし、有益な商材情報などを販社の事情に応じて提供することを数年間続けてきた。あるいはまた、販社が「BPプラチナ」で発注した場合には、その商材についてユーザー企業のリプレース時期を勘案して販社に提案してきた。こうした地道な取り組みによって、販社が「BPプラチナ」のメリットを意識するようになったわけだ。
ウェブEDIは、これまで営業担当者の業務を効率化することに加え、ハードやソフトの販売するためのツールという位置づけだ。しかし、「BPプラチナ」を利用する販社が増えていく可能性が高いことからも、「業務効率化を図っていくことや製品を販売するだけでなく、販社のニーズをサービスとして提供していくことが重要になってくる」と、塩川取締役は訴える。
具体的には、販社がユーザー企業向けにセミナーを実施する際に「BPプラチナ」で発注すれば協力体制を敷くことや、システム構築の支援依頼があれば販社をフォローするという内容だ。「大塚商会はディストリビューションだけでなく、SIを手がけるノウハウをもっているからこそ実現することができる」と、塩川取締役は自社の強みをアピールする。
【シネックスインフォテックの戦略】
「BEACON」を大幅リニューアル
──売れる製品を迅速に受発注
シネックスインフォテックは、ウェブEDI「BEACON」を来年度(13年12月期)早々に、全面的にリニューアルする。売れている製品を、地域やメーカーブランド、ユーザーニーズなどの区分で細分化して、メーカーが売りたい製品とユーザー企業が欲する製品の関係性を見出すことができる基幹系システムを生かしながら、新システムで販社が商材を仕入れて販売しやすい環境を整える。

シネックスインフォテックは「BEACON」(写真)を稼働させながらウェブEDIを新システムへと移行していく

坂元祥浩
執行役員 新システムは、米本社のウェブEDIと「BEACON」の使いやすさを踏襲したもの。例えば、機種番号を入力しなくても商材を検索できる機能や、ライセンスの見積もりが簡単にできる機能、用途から商材を選び出す機能などを搭載する。また、販社に代わってシネックスインフォテックが出荷を請け負う機能も追加する。坂元祥浩・執行役員アドミニストレーション担当(兼)経営企画部長は、「『BEACON』は、外部に開発を委託していたが、今回のシステムは自社で開発している。これによって、販売パートナーの要望に柔軟に応じることができるシステムを実現した」と自信たっぷりだ。また、代行出荷によって「ユーザーに迅速に届けることができる」という。新システムの稼働は来年度早々を予定しているが、「『BEACON』の会員企業が2200社に達していることと、従来のインターフェースに使い慣れた会員企業がいるために、当面は並行稼働で進める」としている。
同社は、「CIS」と呼ばれるワールドワイドで共通の基幹系システムを今年2月12日から動かしている。CISは、販売データをベースに、製品や地域、顧客などをマトリックスで自動分析できることがポイント。さまざまな角度で効率よく分析でき、マーケットを捉えたうえでの戦略を迅速に立てることができるようになった。坂元執行役員は、「メーカーが売りたい製品で、しかもユーザー企業が欲する製品を、いかに販売パートナーが迅速に売ってくれるかが重要なポイントと捉えている」という。そこで今回、ウェブEDIによる受発注機能の簡便化を図ることで、販社が売りやすい環境を整えたわけだ。
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