産学官の連携で産業振興
企業だけでなく、産学官が一体となってICTの産業振興に取り組めば、市場が活性化し、人材の育成にもつながる。岩手・福島では、産学官が連携するこうした取り組みが行われている。
●デジタルコンテンツで新規ビジネス 岩手県では、岩手県立大学ソフトウェア情報学部など、県内でITを学ぶ環境が整っており、IT関連の人材を毎年約600人ほど輩出している。だが、こうした人材の4分の3が県外に就職しているのが実際のところだ。首都圏のほうが就職先が多く、地場の中小ITベンダーは若手の人材をなかなか獲得しにくい状況にある。
そこで、岩手県は、「いわてデジタルコンテンツ産業育成」事業を12年9月に立ち上げた。ゲームやアプリ開発に関係するデジタルコンテンツ産業を創出して、地域活性化と人材育成を並行して実現しようとするものだ。岩手情報サービス産業協会(IISA)や岩手大学、岩手県、盛岡市など、産学官が共同して推進している。具体的な計画は検討段階だが、「少なくとも3年後までに、デジタルコンテンツを事業展開する企業を5社創出することを目標としている」(岩手県政策地域部政策推進室主任主査の照井富也氏)。IISAは、受託ソフト開発で苦しんでいる企業が、既存ビジネスの枠を外れたデジタルコンテンツに触れることで、新規ビジネスを創出してもらいたいとしている。
●県内にIT企業を集積 福島県の状況をみると、ICTを活用した震災からの復興や産業振興に向けて、会津大学が「会津大学復興支援センター」を3月4日に設立している。アクセンチュアやNEC、富士通など首都圏の大手ITベンダーのほか、福島県内のITベンダーが参画。県内外のITベンダーと会津大学が連携して、積極的に先端IT研究や人材育成を推進していくことで、新産業を創出し、県内へのIT関連企業の集積を促進する。参画企業の一つであるエフコムの河内取締役は、「復興支援センターを活用して、産学官が連携していけば、雇用の創出や、新ビジネスのチャンスになる」と期待している。復興支援センターの中核となる「先端ICTラボ」は、これから整備を進めていく予定だ。
記者の眼
福島・宮城・岩手。前篇・後編を通して3県の今の姿をレポートしてきた。それぞれの地域で、ITベンダーは新ビジネスに挑戦し、失敗を経験しながらも新たな事業基盤を築き上げようとしている。後編では、主に自治体向けのシステムを提供している企業と、受託ソフト開発からの脱却を目指す企業を取り上げた。好調不調のギャップは感じられたが、それぞれが課題意識をもって、新しい取り組みを進めている。ただ、まだこれらのビジネスは成功しているとは言い難い。今後も、引き続き現地に赴いて、被災地域の状況を伝えていきたい。