大震災を経て、新しいビジネスの開拓に取り組んできた東北ITベンダーは、この1年間、どう動いたか。新規事業の立ち上げをどのくらい進めることができたか。岩手・宮城・福島の3県での現地取材を通じて、進捗をレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
ITベンダーの“二極化”が進む
県の支援で独自商材の販路を拡大
特集の前編では、東北で最も多くのITベンダーが集まっている宮城県にスポットを当てて、県の取り組みのほか、「クラウド」や「エネルギー」をキーワードに掲げて独自商材の開発/販売を推進している仙台地区のITベンダーの動きを追う。
大震災を契機として、従来のビジネスモデルに固執する保守派と新しいビジネスモデルを追求する革新派に二極分化する動きをみせてきた仙台地区のITベンダーは、この1年でその差がより明確になった。ソフトウェアの受託開発や地元のユーザー企業を相手にするシステム構築を手がけるベンダー(保守派)は、厳しいビジネス状況に直面している。ここ数か月の間にITベンダーの受注案件の数は回復してきたが、案件ごとの売上規模は震災前と比べて減少している。ところが、そんな状況にあっても、震災から2年が経った現在、危機感が薄まりつつあって、ビジネスモデルの根本的な再編に手をつけないベンダーが少なくないのが実状だ。
一方、震災をきっかけとして事業展開を見直し、独自サービスの開発に注力してきたベンダーは、新しいビジネスを本格的にスタートさせている。
事例を挙げよう。もともと受託開発を事業とするアンデックスは、震災後にすべての開発リソースをスマートフォン向けアプリケーション開発にシフトした。その選択が実を結びつつある。ここ1年の間に、物流配送管理システムサービス「SMART-Transport」をはじめ、複数の独自商材を投入することができるようになった。
アンデックスは販売部隊をもたないので、三嶋順代表取締役は、端末メーカーなどパートナーと提携する道を選んだ。パートナーの営業体制を活用して、全国展開に取り組んでいる。パートナーシップが実を結んで、「宮城県の食品メーカーである大地フーズに『SMART-Transport』を3月末に納入することが決まった」(三嶋代表)と、事業が順調に進んでいることを語る。
2012年11月、「SMART-Transport」は宮城県が復興支援の一環として認定する「みやぎ認定IT商品」に選ばれた。県が地元ITベンダー6社の製品を厳選し、販路拡大に関してベンダーをサポートするプログラム(図2参照)が功を奏したのだ。宮城県はこうした取り組みによって、ITベンダーの新規事業を後押しし、いちばんの課題である販売網の構築を支援している。
スマートシティも進行中
日本IBMが石巻で拠点を開設
沿岸部が多大な被害を受けたこともあって、震災後の1年、宮城県は住宅や道路などインフラの再整備にリソースを集中した。それが最近は、IT活用による安全なまちづくりにも取り組み始めている。
宮城県は、地震や津波が発生した際に災害情報を配信するシステムを再構築している。現在は、構築の最後の段階に入っており、今年6月に稼働を開始する。新しいシステムでは、主に市町村や県庁の防災担当職員に情報を配信した従来の仕組みを拡張し、テレビやラジオ、携帯端末を通じて住民に直接情報を送る機能を新たに備えている。

宮城県
環境生活部環境政策課
関剛史課長補佐 さらに、宮城県はITを交通整理やエネルギー使用の効率化に活用する「スマートシティ」も進行している。今年2月に日本IBMが石巻市にオフィスを開設するなど、大手メーカーが宮城県に入り込み、スマートシティづくりに本格的に取り組もうとしている状況にあって、現在、課題を整理中だ。「スマートシティは長期プロジェクトなので、まず、住民はスマートシティに関してどういうニーズをもっているかについて声を集めて分析することから始める」(宮城県環境生活部環境政策課 環境産業振興班の関剛史課長補佐)と語る。
関課長補佐は「メーカーが提案するスマートシティ計画は、自社技術を中心とするもので、どこの地域にも当てはまる。宮城県の地域性を十分に反映していない」と課題を指摘する。そんな状況下、3月19日に仙台市でスマートシティについて議論するシンポジウムを開き、「次のステップとして何をすべきか」を明確にする。スマートシティの実現に向け、メーカーの製品と県のニーズを合致させることを目指していく。
独自商材で全国展開へ
急ピッチで販売体制づくりに取り組む
震災をきっかけに新規事業を立ち上げた仙台ITベンダーは、ここにきて、新ビジネスの本格展開を目指している。独自商材をもって、あの手この手で事業拡大に取り組んでいる2社の事例を紹介する。
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