エネルギー以外にもICTを活用せよ
ITベンダーの提案活動が急務
スマートシティのビジネスモデルは、住宅やビルを建設する「不動産開発」から、モノやサービスの提供によって市民の暮らしを豊かにする「都市生活」まで、複数のレイヤーで構成される。柏の葉と石巻を事例として、スマートシティづくりの現状をみて、課題を整理しながら可能性を展望する。
【現状】
ハードとソフトを提供し、システム運用を手がけるITベンダーが関わるのは「スマートインフラ」の構築だ。下水道や電気・ガスなど「物理インフラ」に次ぐ第3のレイヤーとなる。
千葉県柏市の「柏の葉キャンパス」駅。この周辺で建設中のスマートシティでは、エネルギー供給を管理するICTインフラの構築が最後のフェーズに入ろうとしている。
柏の葉のスマートシティ地区では、2014年の春に、広範囲なエネルギー管理システムの本格稼働を予定している。現在、ITベンダーとして日立製作所が協力し、電力会社が提供する系統電力と、太陽光発電による地産電力をうまく連携させる仕組みをつくっているところだ。

今年3月、体感学習施設「柏の葉スマートシティミュージアム」を開設。スマートシティづくりの取り組みを紹介し、「柏の葉」モデルの国内外への横展開を目指す スマートシティ地区で新設してきた住宅2000戸のうち、約1500戸が販売済みで、住民とともに、賢いエネルギー使用に取り組んでいく。
スマートシティ地区内のすべての住宅・ビルに、エネルギー管理システム「HEMS/BEMS」を導入している。さらに、中央制御室の役割を担う「スマートセンター」を設け、こちらでエリア内のエネルギー需給状況を把握する。系統電力と地産電力を協調させ、時間や場所によって必要な電力量を送ることによって、電力使用の削減につなげる。
震災が発生し、多くの地域が停電したときも、柏の葉では電気が消えない。「スマートセンター」から、太陽光発電や蓄電池、非常用ガス発電によって、住宅やビルに電力を供給する。非常時でも、生活やビジネスの継続を図るのだ(図1参照)。
柏の葉でのスマートシティづくりは、三井不動産グループを事業主体として、27社によるジョイントベンチャーのかたちで推進されている。ITベンダーとしては日立製作所のほか、NECや日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、SAP、NTTコミュニケーションズが参加している。
2005年に着手した柏の葉でのスマートシティの取り組みは、全国でも先進事例となる。11年3月の東日本大震災を受け、電力供給・使用の見直しや災害に強い町づくりに関する意識が高まった。IT業界でも、スマートシティはこれまで以上に話題を集めるようになっている。
津波によって大きな被害を受けた宮城県石巻市。ICT活用による復興を目指し、初のポスト震災のスマートシティづくりが進んでいる。ここへきて、災害公営住宅に安定したエネルギーを供給するためのインフラ整備や、公共施設での分散電源を統合管理するシステムの構築を開始した。国の補助金を利用し、東北電力や東芝、日本IBMなど強力会社の力を借りて、2015年までにスマートシティを形成する。
【課題】
柏の葉にしても、石巻にしても、ITベンダーが気になるのは、いかにスマートシティのビジネスモデルを立ち上げ、全国に横展開することができるかということだ。
石巻は、国の復興予算を使って、先駆事例を目指している日本IBMの積極的なサポートを受けていることもあって、スマートシティの取り組みに踏み込んだ。特別な状況にあるからこそ、スマートシティの実現が可能になっているのだ。そのような事情があって、現在のかたちでは、石巻モデルはほかの国内地域や海外に横展開しにくい。
●積極性を欠くITベンダー 一方、柏の葉では、三井不動産グループが事業主体になっていることもあって、補助金に依存しない商業モデルを目指している。しかし、現時点では都市開発がメインの事業になっており、儲かるのは建設会社だ。エネルギー管理システムの構築が進んでいるものの、ITベンダーが関わっているのは、スマートシティづくりのごく一部に限られている。
スマートシティは、道路や住宅、ビルを建設するだけでは成り立たない。エネルギーはもちろんのこと、交通整理や市民向けサービスの提供など、幅広い分野でICTを活用して都市機能を管理することによって、初めて本格的なスマートシティと呼ぶことができる。
柏の葉で、本来であればスマートシティづくりの主体となるべきITベンダーが脇役になっているのは、事業モデルが都市開発に偏っており、ITベンダーの動きも積極性を欠いているからだ。ITベンダーは、エネルギーの分野以外にもICTを活用するシーンを提案し、存在感を高めることが問われる。
石巻でも、エネルギー分野以外でのスマートシティ化が課題になっている。市は震災後、人口の流出が止まらない。市民にとって残りたいと思う町をつくらなければならないなかにあって、健康管理やコミュニティ生活の活性化といった市民向けサービスの展開に関しても、ICT活用への期待が高まっている。
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